真のリーダー論とは?

政権交代に際して民主党の掲げた「政治主導」が機能していないことは誰の目にも明らかです。政治主導とは、政治家の「リーダーシップ」により官僚組織を動かすことです。ただし、すべての決定に関与することが「リーダーシップ」ではありません。

古代ローマの初代皇帝・アウグストゥスが苦手な軍事はアグリッパに任せ、外交面ではマエケナスの手腕を生かしました。このように、万能のリーダーはおらず、得意な人材を見いだして任を与えながら、すべての責任は任命者であるリーダーがとると安心感を与えることこそが政治に求められるリーダーシップなのです。思いつきでエネルギー政策の転換を語り、部下に当たる経済産業大臣の下働きを公然と否定する首相など、リーダー失格です。

F社長は店舗数30を超える企業のオーナーで、その業種はレンタルビデオ、ビリヤードやゲームセンターといったアミューズメント事業、リサイクルに飲食業と多岐にわたります。F社長はビジネス誌の取材に、成功の理由を「リーダーシップ」と語ります。すべてに自分が関与して決定を下す、いわば「政治主導的リーダーシップ」が組織を動かすと豪語します。

社内に存在する裏ルールは「社長に見せるな」

F社長はすべての会議に参加。ホームページでは基本コンセプトから、キャッチコピーのアドバイス、掲載写真の選定、に文章の「てにをは」にまで指導を加えます。各店の運営は言わずもがなで、チラシやパンフレット、店内のPOPも必ず社長の手が入ります。社内の蛍光灯の交換から、コンピュータシステムの指導まで行うので、「休む時間がない」がF社長の口癖です。

昨年建てた本社の2階には、社長の「居住空間」が設置され、正しく24時間365日体制で経営に当たっているのですが、社内には「社長に見せるな」という裏ルールが存在します。

社員によるサボタージュや離反ではありません。会社存続のためには社長に見せてはならないという経験則から生まれたルールです。F社長のリーダーシップは0.2で、思いつきレベルの指示しか飛んでこないのです。

しかも、すべての案件に「ひとこと」付け加えなければ気が収まらず、何も思いつかない時は「ペンディング」となり、プロジェクトがストップしてしまいます。それを無視して進めようものなら、「俺を誰だと思っている」と切れて、膨れて拗ねてしまうのですから手に負えません。

すべてに首を突っ込むからすべてが中途半端

例えば、F社長は「ホームページのベースカラーを日の丸の赤をベースに」と指示を出した翌日に、「サムライブルー」と言い出します。後ほど、ブラウザの「履歴」からわかったことですが、打ち合わせの直前に見たサイトに影響されて指示が二転三転したというわけです。

すべてがこのレベルで、中国国内からと推定されるグーグルへのサイバー攻撃が報道された翌日は、POSシステムのセキュリティ対策として、各店舗を専用回線でつながなければならないとぶち上げました。しかし、専用線を敷設する費用の見積りを見て、その高さに驚き「コストカット」が必要だと方針転換し、専用回線導入に反対の立場だと演説をぶちます。

菅直人首相の話がコロコロ変わるのは、「直前に聞いた人の話に考えが上書きされるから」と政治記者がワイドショーで語っていましたが、F社長もそのタイプの人間です。

F社長は指示を出すことがリーダーシップだと信じています。だから、すべてに首を突っ込むのですが、その結果、すべてがアバウトになり、反対した議案の反対理由を忘れて賛成に回ることもしばしば。そして、「社長に見せるな」というルールができ、裸の王様になりました。この会社を事実上とりしきる「ナンバーツー」が引き出しに辞表を忍ばせていることを知らないのはF社長だけです。

都議の横暴を許す民主党

民主党のリーダーシップの欠如は地方組織からも明らかです。ある地方自治体では、この春の統一地方選挙で10年近く地道な活動を続け「地盤」を作った民主党の市議会議員が、都議会議員の差配により、その都議の元秘書に地盤を横取りされ「引越」を余儀なくされ、どちらも落選しました。

民主党や自民党の組織は、衆議院議員、参議院議員、都道府県議会議員、市区町村議会議員という階層から成るピラミッド構造になっており、市議が都議に逆らうことはできません。つまり、都議の子分を市議会議員にするために、現職をどかす「リーダーシップ」を発動させたのです。リーダーシップとは、立場が上の者が下の者に対して横暴に振る舞える力ではありません。

ここにも「政治主導」ができなかった理由が現れています。ピラミッド構造の組織には上の者が下の者の意見に耳を傾け、下の者は上の者のために働く「相互扶助」という性質があります。ところが、その組織で上位者による「専横」が許されるようでは、従う人間はいなくなります。都議会議員レベルで専横がまかり通る民主党に、「国家」という巨大な組織が運営できるわけがありません。

もっとも首相を見る限り、リーダーは何をしても、何を思いついても許されるのが「民主党流」のようですが。

エンタープライズ1.0への箴言


「思いつきの指示をリーダーシップとは言わない」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi