韓流快進撃の裏側
お隣韓国の快進撃が止まりません。薄型テレビの世界シェアでソニーを追い抜いて韓国のLGが2位となり、首位のサムスンとあわせて3割を超えるようになりました。自動車でもヒュンダイが南米でアジアブランドNo.1の玉座に座り、韓流ドラマにK-POPと日本のワイドショーで韓国人タレントの名前を耳にしない日はありません。
そして、平昌での冬季五輪の開催決定。これを受けて経済誌を中心に「韓国を見習え」という論調が目立つようになりました。それは韓国のように世界進出をしろと迫るものです。
勝ち馬に乗りたくなる気持ちもわかりますが、すこし冷静になれば韓国を見習うことの難しさがわかります。法人税の違い、FTAの締結、政府から企業への補助金など、国の全面支援を受けて戦う韓国企業と、自助努力のみの日本企業では競争条件が違いすぎます。さらに、政府、菅直人首相個人の資質という話もありますが……。
また、韓国は「芸能」の輸出も「国策」としてバックアップしており、仮にパナソニックやジャニーズ事務所だけを政府が優遇したとすれば、ソニーと吉本興業(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)が黙っていないでしょうし、なにより「民業圧迫」と批判は避けられません。つまり、特定の企業への露骨な肩入れができない日本では、韓国式の成功物語は不可能だということです。成功者に憧れ、仰ぎ見るとその足元を見失います。
民主党の政策「コンクリートから人へ」の罪
日本の工具販売市場は年々縮小しています。製造拠点の海外進出により工具の需要が減り、海外で製造した安価な製品の流入が日本のモノづくり環境を悪化させる負のスパイラルです。加えて、戦後のモノづくりを支えた職人たちは高齢化し、「儲からない商売」を子供に継がず、廃業していっているのです。
そこに、民主党政権が打ち出した政策「コンクリートからヒトへ」が追い打ちをかけました。道路や建物を作り、壊すために使われていた工具がまったく売れなくなったのです。公共工事は無駄の象徴のように語られますが、工具だけではなく、作業着や軍手も必要となり、現場周辺の飲食店にお金が落ちるといった「経済波及効果」があり、集めた税金を市中に環流させる「富の再分配」の意味もあったのです。
工具販売卸しのK社長は激減する売上に頭を抱えていました。「北関東のメーカーが倒産した」、「東海の金物屋が夜逃げした」と、聞こえてくるのは暗いニュースばかりです。DIYが定着しホームセンターへの工具販売は一定の売上が見込めますが、そこは値引きの激戦区。特に大規模なホームセンターにはどの企業も取引したいと攻勢をかけるので、利益は雀の涙です。
そこで、K社長は海外に目を向けました。英語版のホームページを用意して海外に販売することにしたのです。
高度成長期の東南アジアなら工具が売れるハズ
K社長はJETRO(日本貿易振興機構)に通って海外への物販の方法を学び、国際発送の準備も整えました。K社長は英語ができませんが、すでに成人して家業を手伝っている長男と長女は、それぞれ海外留学させており、英語での対応に問題はありません。
K社長は団塊世代。海外進出を決めたのは、最も「工具」が売れたのは高度経済成長の時代だと思い出したからです。国家が成長している時は「公共工事」も活発ですし、物資が不足している社会では作れば売れるので製造業が躍進します。だから、「工具」も売れました。すると今後、成長が見込まれる新興国に品質の高い日本製の工具を販売すれば、海外の「職人」が飛びつくという読みです。また、インターネットなら現地駐在員を派遣することなく、日本にいながら取引できると算盤をはじきます。
ターゲットはカンボジアやベトナムなど経済発展著しい東南アジア諸国。……ですが、工具はまったく売れませんでした。
「買いたくても買えない」職人の真実
K社長は新興国向けに安価な商品を取りそろえてサイトで販売していました。しかし、その「安価」とは日本の物価を基準にしたものであり、現地では超高級品となる金額でした。日本が貧しかった時代、「舶来もの」が高級品の代名詞だったようにです。正に、日本の物価感覚で新興国にモノを売ろうとした「海外進出0.2」です。東南アジアへの輸出で成長している切断砥石メーカーの社長はこう言います。
「日本と同じものは高すぎて売れない。多少品質を落としても安くしないと、現地の職人は欲しくても買えない」
工具の需要はあっても、受けとる工事代金よりも高い工具を使う職人は世界中のどこにもいません。
ちなみに韓国のサムスンは、海外進出する際に1年ほど社員を現地に住ませて徹底的に文化や風俗の違いを学ばせ「現地化」させるといいます。それは「客を知る」というマーケティングの基本に忠実であるということです。
とはいえ、韓国の成功に焦ることはありません。韓国製品の中枢部品や素材、また製造するための高度な産業機械は日本企業が作っているからです。つまり、韓国企業が躍進すればするほど、日本の企業に発注するという構図で、韓国政府は「対日貿易赤字の拡大」に神経を尖らせているそうです。
「それでは下請けじゃないか」と憤るとしたら、その意識のほうが問題です。下請けではなく「ビジネスパートナー」。優れた部品だから韓国企業だけではなく、世界中の企業が買ってくれています。この「モノづくり」のプライドを失いつつあることが、今、日本人と日本企業が抱える一番の問題ではないでしょうか。
エンタープライズ1.0への箴言
「海外に需要があっても物価がそもそも違う」
宮脇 睦 (みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。
筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは