Web業界で絶えない「祭り」

筆者はこれまでTwitterを「第2のセカンドライフ」と指摘していましたが、それを過ちとして認めて訂正します。第2のセカンドライフの最右翼は「Facebook」でした。

セカンドライフとは米国リンデンラボが運営するネット上の仮想世界で、定年後の「第2の人生」ではありません。セカンドライフでは、自分の分身である「アバター」を操作し、映画を見たり、友達と会話をしたりといった「生活」を楽しめるだけでなく、アバターが身につけるグッズの売買や仮想世界の土地の購入など経済活動もできました。これより、ネット上の活動はすべて「セカンドライフ」に置き換わると喧伝されていましたが、日本では2007年の夏をピークに尻つぼみとなりました。

こうしたことから「第2のセカンドライフ」と言えば、「期待ハズレ」や「虚言」を意味するようになりました。これに、コミュニティにアプリケーション、プライベートからビジネスまで活用できると大宣伝されているFacebookが重なるのです。

Facebookやセカンドライフが悪いのではありません。セカンドライフは現在もサービスを続けており、2010年第4四半期でも月間100万人を超える利用者がいます。それにもかかわらず「期待ハズレ」と呼ばれた理由は、何でもネットに置き換えようとするWeb業界にあります。

社長の友達になれるのは社長だけ

社長業とは、社員が想像するより忙しいものです。通常業務のほかに、借り入れや返済といった資金繰りはもちろん、業界の動向を睨みながら、仕入れ先や取引先にも目を光らせなければなりません。

「あ~、うちの社長はそんなこと考えていないよ」

と言うなかれ、業界動向を睨みつけても適切な対策を講じることができるかは別次元の話。そんな社長の気持ちを理解できるのは同じ社長だけです。そして、人間は本能的に「仲間」を求めます。各社の社長が集う業界団体や地域の会合に社長が参加する理由は「つながり」を求めているのです。

ある街では社長の「つながり」が「勉強会」になりました。勉強会は各社のビジネス事例を週替わりで発表し、情報交換する場です。社員の愚痴をこぼす場になったのはご愛敬ですが、決裁権を持つ社長同士が親睦を深めたことで取引に発展した事例も少なくありません。

ある日、勉強会のリーダー格の社長が「Facebook」を紹介しました。世界には6億人の利用者がいて、マンハッタンではメールアドレスではなくFacebookのアカウントが交換されるようになっており、今後のネットサービスは「つながり」を重視するFacebookに集約されると力説したのです。

Facebookにログインする前にすること

"リーダー社長"に促され、勉強会に参加する大半の社長がFacebookのアカウントを取得しました。実はFacebookをはじめとするSNSをビジネスに活用するためにはリアルで「つながる」必要があります。ビジネスの大半は「ネット」で完結しません。すぐに会える距離にいれば、商品の実物を確認することができますし、対面での打ち合わせも可能です。昨年、Twitterムーブメントのなかでしゃぶしゃぶ屋「豚組 しゃぶ庵」がフィーチャーされたのは、ネット関係者が「つながり」やすい「六本木」という立地だったことは見逃せません。

ある社長は東日本大震災を受けてFacebookから勉強会の仲間に「被災者支援」を呼びかけました。しかし、反応は皆無で3月の呼びかけが4月になっても放置されています。結論を述べると、Facebookからは何も生まれませんでした。社内外を飛び回る忙しい社長たちがFacebookにログインしなかったからです。

ここで、「携帯やスマホなら出先からでもアクセスできるだろう」という疑問を持たれるかもしれないので、それにお答えしましょう。なぜなら、Facebookにログインする前に、社長たちは「電話」をかけてしまうのです。つまり、ネット上で「つながる」メリットがなかったのです。

優先権を持つ社長にソーシャルメディアは不要

ネットの世界では、リアル(仮想空間ではなく実生活)で充実している人を「リア充」と呼びます。社長の大半はリア充です。充実の中身には「人脈」も含まれ、勉強会に参加する「社長仲間」はもちろん、議員から職人、役所の幹部と多岐にわたります。彼らに電話をすれば、事足りることが多く、わざわざFacebookにログインしなければならない理由が見つからないのです。

また、FacebookやTwitter、電子メールなどネットでの呼びかけは、リアクションまでに必ずタイムラグがあります。忙しい社長にとって待ち時間は耐え難いものがあり、経営は「今」の決断が求められることが多く、タイムラグが社運を左右することだってあるのです。もちろん、相手の都合が悪ければ電話口に出られないのですが、「社長」がかける電話は、部下はもちろん、取引先でも優先的に取り次いでもらえます。

こうしたリアルの「つながり」で解決できることをわざわざネットに持ち込む必要はありません。それでもネットの優位性を信じる人は想像してください。あなたの勤務先の社長が、重要な取引に関する決断をヤフー知恵袋やミクシィのコミュニティで相談している姿を。

Facebookが第2のセカンドライフ、すなわち「セカンドライフ0.2」となる可能性が高いとする理由はWeb業界にあります。セカンドライフは「仮想世界」を楽しむもので、リアルと等価で置換できるものではありません。ところがWeb業界、その啓蒙家(エバンジェリスト、評論家、ジャーナリスト、ITコンサルタントなど)はリアルで間に合うものまでネットに置き換わると主張し、その必然性を感じない一般人が主張を「スルー」したのが、「セカンドライフ」の顛末です。

Facebookへの盲目的礼賛とセカンドライフが重なるのは、Facebookでのコメントのやり取りとファミレスでのエンドレスな無駄話もイコールではないからです。ちなみに、Facebookを奨めたリーダー社長が被災者支援に反応しなかったのは、彼もまたログインしていなかったからです。

エンタープライズ1.0への箴言


「リアルで解決できることはリアルでやるのが一番」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi