商売で最も大切なものはカネか?

あるセミナーで経営コンサルタントを名乗る会計士が、商売で最も大切なものは「資本」だと言いました。家賃に仕入れ、従業員の給料に、「お金」が不可欠だというのがその理由です。生命保険のCMのように「お金は大事」ですが、これは商売を知らない人の発想で、ITの世界に限らずコンサルタントに0.2は多いのです。

「パンがなければお菓子を食べよ」とは言いませんが、金がなければ借金をすればよいのです。儲かる商売を始めるのであれば、金を貸してくれる人はたくさんいます。仮に100万円が200万円になる商売を始めるのにお金が必要だという人がいたら、今すぐ私の所に連絡をください。確かなビジネスモデルならすぐに「出資」いたします。

商売において最も大切なものは「客」です。これは「お客様は神様」だとかいう優等生的な発言ではなく、「利益は客の財布からしか出ない」という事実に基づいてのものです。どれだけ大切に扱っても手持ちの現金はいつかなくなりますが、客が足を運んでくれればキャッシュは回転し、差額が利益となるのです。これが商売の神髄で、だから「客」が大切なのです。

インターネットでも同じです。ところが、客ではない客をFacebookで集めたがる社長が急増中です。

ジャスミン革命の真実

エジプトの政変を支えたとされるFacebook。創業者をモチーフにした映画も公開され、世界中に6億人とも言われる利用者がマーケットとして注目されています。6億人の利用者は海外に開かれたチャネルとして、輸出を目論む企業や外国人観光客を取り込みたい観光地やアミューズメント施設などにとって活用しがいがあり、久しぶりに「商売用」に役立つネットツールが登場したと見ています。

ただし、完全無欠のツールではなく、エジプトの政変もツイッターや携帯電話、「アルジャジーラ」に代表される衛星放送など、複数の「情報媒体」により成しえたもので、Facebookだけの手柄ではありません。

衣料品メーカーのK社長は、独自ブランドを展開するためにFacebookを活用することをITコンサルタントに提案されました。Facebookでは「ファンページ(旧名称、現在はFacebookページ)」という交流用のページを作成できます。それは「支店」や「ショーケース」のように使え、訪れたFacebook利用者が「いいね!」と評価すると「ファン」としてカウントされます。

「いいね!」はタダで増やせない

コンサルタントは「ファン」を増やすことがFacebook活用の狙いだと説明します。単純計算で2万人のファンを作り、半分の1万人が5,000円の独自ブランドのシャツを買ってくれれば、売上は5,000万円となります。さらっと「2万人」と言われてK社長は驚きましたが、6億人という分母から見れば、不可能ではないとITコンサルタントは語気を強めます。

話半分でも2,500万円と算盤をはじき、K社長はこの話に乗りました。衣料品の原価は30%前後で、直販ならさらに利益率を高めることができるとタヌキの皮を数えます。

Facebookは無料で利用できますが、楽して「いいね!」を増やすには多少のお金がかかります。サイト内に広告を出すのです。熊坂仁美さんの著書『Facebookをビジネスに使う本』に書かれている「1人25円のコストでファンを集める方法」とは、広告をクリックさせて「いいね!」を集めることで、お金を払って人を集めることはすべての商売に通じます。テレビCMに雑誌広告、ダイレクトメールやチラシもそうですし、広義で言えば看板も人を集めるためにお金をかけるのです。グーグルのアドセンスに代表される「リスティング広告」も含め、ネットでも集客にはお金がかかります。

「遊戯王」のクズカードを自慢されても……

取り組み中のプロジェクトに結論を出すのはK社長に失礼ですが、この目論見は「いいね!0.2」となることでしょう。なぜなら、商売においても客が最も大切ですが、Facebookにおける「ファン」と「客」は同義ではないからです。

「いいね!」というボタンをクリックすると「ファン」は増えますが、それは大道芸人に贈る拍手ぐらいの意味しかなく、「おひねり」を投げるスポンサーでも、毎回パフォーマンスを見に足を運ぶサポーターでもないのです。つまり、「にぎやかし」で、彼らを1人25円で集めても商売には結び付きません。商売においての「客」とはタダ見する路上の「観客」ではなく、財布を開きお金を支払う人で、25円払って集めたのなら26円払わせて初めて「客」と呼べるのです。

もともと「いいね!」には「ファンになる(Become a Fun)」というボタンで積極的に応援するニュアンスがありました。しかし、「いいね!(Like)」に変わったことで拍手程度の意思表明に変化し、それに伴いファンページという呼び名もFacebookページに変わりました。

そもそも「いいね!」とは、友人や知人と喜びや発見を共有するための仕組みであって、友人の「いいね!」がレコメンド(推薦)になることを期待するものであり、不特定多数の数字を積み上げてもあまり意味がないのです。それどころか、女性専用のエステハウスのファンページを「いいね!」とクリックしているのが男性ばかりなら、不気味に感じて女性客は離れていきます。

もちろん、大きな拍手としての「いいね!」の意味はあります。しかし、それだけを集める姿は、子ども達に人気のトレーディングカード「遊戯王」で役に立たないクズカードをせっせと買い集めているのと同じです。小学生でもクズカードに25円は支払いません。ちなみに著名人や有名人の「いいね!」は希少性があり、ゲームを有利に展開できるレアカード。そして、こちらも「購入」できますが、その方法は「大人の事情」というやつで詳細は内緒です。

エンタープライズ1.0への箴言


「有象無象を集めても客にはならない」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi