コンサルタントと呼ばないで
訳あって昨年より、中学生の甥と暮らしています。馬齢を重ね「学校以外」での生活がすっかり長くなった私にとって、毎日いろいろな発見があります。例えば、雑誌の懸賞葉書にある職業欄に彼は迷います。むろん「学生」でよいのですが、「中学生」を探していたのです。彼にとっては初めての体験とのこと。そして甥が訊ねます。
「叔父さん(の職業)は何になるの?」。
ニヤリと笑い、こう答えました。
「何がいい?」
弊社は法人化しており、私はその代表ですから「会社社長」です。ただし、ホームページの制作実務も手がけているので「Web制作者」、プログラムも組むので「プログラマー」、そして著作があるので「著述業」でも通じますし、本稿なら「コラムニスト」、また別の原稿で硬派なことも書きますので「ジャーナリスト」と名乗っても間違いではありません。
ただ、新聞や雑誌の取材を受けた際は「ITコンサルタント」にしています。専門家のような印象を与えることで、記事の説得力を増すだろうという「物書き」としての配慮からです。しかし、好んでは使いません。
甥が選んだ私の肩書きは「社長」。その理由は「偉いカンジがするから」とのこと。社長は法務局に登記すれば誰でもなれるのですが……。ま、コンサルタントよりは少しだけ難易度が高いのでよしとします。
粗製濫造される先生方
もちろん、難易度の低いコンサルタントとは「0.2」な人々です。MBAはともかく、中小企業診断士の資格取得が簡単だと言うつもりはありません。ただ、MBA保持者が会社経営でつまずいた例は枚挙に暇がなく、中小企業診断士の先生が法人化していないケースは珍しくありません。儲かっているなら「法人」にしたほうが、さまざまな特典が受けられるというのに不思議な話です。
数年前から「コンサルタント」が異常に増えました。以下は、実例に基づく私の造語です。偶然にも「実在」したとしても何ら関係はありません。
- 満室ワンルームマンションコンサルタント
- 起業家向け物件提案コンサルタント
- 行列ができるホームページコンサルタント
- 人生が180度変わる出版コンサルタント
- 自分らしい婚活コンサルタント
前回の「行列ができるパチンコ店」のT社長も同じです。これらに公的な資格はありません。法律や税務などのように、弁護士や税理士といった「独占営業権」を国家が保証している商売以外なら、名乗ったもの勝ちなのです。
異常発生したコンサルタントの実態はいかに!?
コンサルタントの異常発生の流れを追ってみます。まず、ヒルズ族が我が世の春を謳歌し「ベンチャーブーム」が起こりました。この時、研究者や専門職でなくても、ネットやPCに「少し詳しい」というレベルで起業できるという風説が広まります。
次に、趣味や特技を生かしながら週末を利用して無理なく「起業」するというアプローチを、経営コンサルタントの藤井孝一さんが著書『週末起業』で発表しました。生涯をかけた起業ではなく、週末という「余暇」に限定され、ハードルはさらに下がります。
最後のファクターが「情報起業」です。「情報=ノウハウ」を原資とするので資本金も従業員も不用で、しかも1つの成功例を普遍の方法に喧伝するところが情報起業の醍醐味です。これにより、「参入障壁」はほぼゼロとなります。
六本木ヒルズに憧れ、休日を利用し、わずかな成功体験でもコンサルタントになれる――これが異常発生のメカニズムです。「情報起業」には黒幕がいるのですが、これについてはまた別の機会に。
そして、先ほど例示した彼らはみな仲間で、肩書きにあるコンサルティングだけで生活している人は皆無というのが実態です。前述の「満室ワンルーム」と「起業家向け」は同一人物で、平たく言えば「地主」。先祖伝来の土地からの収益が生計を支えます。次の「ホームページ」は広告代理店の下請け制作会社にすぎず、「出版」は右から左に口利きをするだけのいわゆる「ブローカー」です。最後の「婚活」は「仲人」。
そんな彼らがネット上では互いを「先生」と呼びあいます。ブログに"絶賛コメント"を寄せ、返信で相手を褒め称えます。こうしたやり取りは昨年からツイッターに移行し、今年は「Facebook」で歯が浮くような美辞麗句が並べられます。
作文コンサルタント、国語の先生と意見が一致する
彼らのホームページで紹介されるセミナーはいつも満員御礼でキャンセル待ちがでる大盛況です。セミナーには「先生方」はもちろん、先生の友人知人、社員にアルバイト、親類縁者まで総動員されます。キャンセル待ちがでるのは、集められる人数から逆算して会場の大きさを選定しているからです。
つまり、仲間以外の純粋な「客」は、皆キャンセル待ちになるというカラクリです。しかもそこで語られる「実績」も、仲間内で創り出しています。「起業家向け物件提案」とは、引越を考えていたホームページコンサルタントに物件を紹介しただけですし、その事例を粉飾気味に喧伝した内容で「出版」させようとブローカーが画策します。これがインターネット上に多く見かける「コンサルタント0.2(もどき)」です。
「もどき」に「定款」や「実印」は不要です。ホームページ上で名乗るだけでOK。だから会社社長よりも簡単になれるのです。ちなみに、大手アドバイスサイトにも「もどき」が大量繁殖しているのでご注意を。
私が一番気に入っている「肩書き」は「ものかき」。学校から帰ってきた甥が首をかしげながらこういいます。
「国語の先生が同じことを言っていた」
自宅で解けなかった作文問題を尋ねたところ、前夜の私のアドバイスと同じだったことが不思議だったようです。「作文」でギャラをもらっており、クライアントから提出される「てにをは」がおかしな文章を手直しする日々から「作文コンサルタント」と名乗れる程ですから、中学校の作文など朝飯前なのですが……。彼にとって私の肩書きは「叔父」なのでしょうね。
エンタープライズ1.0への箴言
「耳慣れない●●コンサルタントは0.2(もどき)の可能性が大」
宮脇 睦 (みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。
筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは