「0.2」な行動が好きなIT著名人たち
当初、全4回の企画として始まった本連載が今回で100回目を迎えました。すべては支持くださる読者の皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。そして拙い原稿をまとめてくださる編集さんはもとより、ネタを提供してくださる愛すべき「0.2」な方々にも深謝。
「0.2」とは、新時代を想起させるバージョンナンバー「2.0」を逆さにもじったもので「1.0」にも達していないという意味です。
例えば、「今、電子メール送ったけど見た?」と携帯電話をかけることなど、正に「0.2」です。2度手間や無駄はもちろんですが、そもそも電子メールとは手紙の延長に生まれたもので、Face to Faceの対話が拡張された「電話」とは役割が異なります。
言うなれば、電子メールという「手紙2.0」と携帯電話という「電話2.0」から生まれた「連絡0.2」ということです。そして、こうした行動は「IT著名人」の特徴の1つ。
100回記念の今回はIT業界の0.2な人々についてお話しましょう。もちろん、感謝を込めて。
匿名にするオトナの事情
本題に入る前に、本稿はIT業界人の発言や行動から「0.2」を知り、「人の振り見て我が振り直せ」という教訓のために書き下ろすのであって、個人を特定してさらし者にするのが目的ではないことを申しておきます。
また、筆者は近所の街角企業がお客さんであり、彼らを敵に回しても何ら問題がないのですが、IT業界は狭く、彼らの信奉者(スポンサー)で成り立つビジネスも多いです。すると、原稿を寄稿している各所に「圧力」がかかる可能性は否定しきれず、ご迷惑をお掛けしないために「匿名」にしております。
以下、本連載で紹介した順に0.2なIT業界人を紹介しましょう。まずは、ジャーナリストのA氏。グーグル関連の書籍で一山当てて以来、ネットジャーナリズムの伝道師のようになりました。各種セミナーに引っ張りだこで連載も多数抱えており、その執筆姿勢はひたすら「誉めて育てる」です。ネットの悪評、マイナス面には触れずに、些少の成功を喧伝します。
最近ではネットへの我田引水も度が過ぎて、対既存メディアという対立軸を際立たせるあまり、0.2な発言が目立ちます。例えば、2011年1月、エジプトでおきた反政府デモに対し、朝の7時に以下のようにツイートしました。
「ネットでは大騒ぎしているが、日本のマスコミはあまり報じない(筆者意訳:著作権で騒がれても面倒なので」
しかし、この日の主要紙の朝刊はすべて一面で反政府デモを報じていました。A氏のいうマスコミとは何を指しているのでしょうか? ジャーナリストを名乗るのなら、新聞の一面に目を通すぐらいの「事実確認」をして発言してほしいものです。ところが、0.2なIT業界人はこういう屁理屈が大好きで迷惑します。
「(旧メディアである)新聞は読まない」
自分で目を閉じていながら「何も見えない」と文句を言うのは、0.2なIT業界人の特徴です。
ソースが読めないIT系サイトの編集長
続いて、IT系サイトの編集長を務めるB氏。「誉めて育てる」姿勢はA氏と同じです。ある米国の航空会社がホームページから動画などを表示するFlashを廃止しました。これは米AppleのiPhoneやiPadなどが初期設定ではFlashを見られないことへの対策です。B氏がこれを好意的に報じたのはいつも通りですが、動きのあるページを見てこうツイー トします。
「どうやって動いているんだろう?(筆者意訳)」
このつぶやきにどこかの学生が「JavaScriptだ」と回答すると、「ありがとう」と謝辞を述べ、ツイッターの教え合う文化や知識をシェアする行動を賛美しますが、B氏は「IT系サイトの編集長」。この無邪気さは0.2です。JavaScriptで動いているのは、ブラウザの機能にある「ソースを見る」を選択すれば一目瞭然なのですから。
IT関連の書籍で「○○でビジネスが変わる」という切り口を見つけたら、「0.2」と見て間違いありません。会社経営者の肩書きを持つC氏は「誉めて」を越えた盲目的礼賛で、宗教的煽動のレベルにまで達しています。イワシの頭も信心からですし、思想信条の自由は憲法で保障されています。
しかし、その宗旨がコロコロと変わるところが「0.2」なのです。「インターネット」「ブログ」、そして「Web 2.0」。さらに、ブログなどの要約を配信するRSSに特化し、それがビジネスを変えると予言をし、その予言を己で証明しました。今はRSSではなく「ソーシャルメディア屋」へ業態転換。つまり、自身のビジネスを変えたのです。
C氏はRSSでは儲からなかったとは認めず、「進化」だと強弁しています。
若い人を見捨てたハーメルンの笛吹き
まだまだあります。D氏はSNS居酒屋を開店。ミクシィのつながりから店舗を探し、集客もミクシィで行ったのですが、わずか2年で閉店しました。人のつながりがあれば、勢いと珍しさによりビジネスを立ち上げるところまではできますが、継続して収益を上げ続けるには「つながり」を「拡げる」取り組みが不可欠で、ミクシィと業界人という「身内」だけでは早晩限界に達するのは自明です。
イベントとビジネスは似て非なるモノです。D氏は閉店の翌年に「Web 3.0」を宣言し、今はツイッターで革命が起こると吹聴しています。
最後は大御所E氏。進化論でベストセラーとなったE氏は、自著で「これからは若い人のために」と記していましたが、昨年の某大手IT企業の取締役に就任しています。
紹介したい人はもっといるのですが、字数が尽きてしまいました。なお、0.2なIT業界人を支持するスポンサーが多い理由は「今、電子メール送ったけど見た?」です。電子メールも携帯電話のどちらも利用してもらえば、どちらも売れるという大人の事情、あっ!
マイコミジャーナル編集部に圧力がかからなければ、101回目でお会いしましょう。
エンタープライズ1.0への箴言
「ITやWebの礼賛は広告と思え」
宮脇 睦 (みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。
筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは