初回早々、いきなり釣り気味のタイトルで申し訳ない。筆者はIT業界でマーケティングを25年やってきたのだが、読者の皆さんにより正確な市場状況を知ってほしくて、筆を執った次第だ。

多くの人が感じている通り、世の中の情報はすべて正しいわけでも間違っているわけでもない。玉石混合なのである。中には、正しい情報であるが、勘違いを誘発するようなものも多い。市場動向を自社に都合よく誘導したいがために、微妙な言い回しをするようなこともあるということだ。もしかしたら、このコラム自体もそう思われてしまうかもしれない。

しかし、このコラムについては誰かからお金をもらって書いているわけではないので、私の本音だ。正しいかどうか、見分してみてほしい。

とうとうAzureがAWSからシェアトップを奪取

周知の通り、IaaSの世界トップシェアはAmazon Web Services(AWS)である。「IaaS=AWS」と考えている人も多いだろう。しかし、私は数年前から近い将来、Microsoft AzureとAWSのシェアは逆転すると思っている。そう思っている根拠は市場シェアのデータの変化である。以下は、ガートナーが2018年8月に発表したデータ(Worldwide IaaS Public Cloud Services Market Share, 2016-2017)である。

Company 2017 Revenue 2017 Market Share (%) 2016 Revenue 2016 Market Share (%) 2017-2016 Growth (%)
Amazon 12,221 51.8 9,775 53.7 25.0
Microsoft(Azure) 3,130 13.3 1,579 8.7 98.2
Alibaba 1,091 4.6 670 3.7 62.7
Google 780 3.3 500 2.7 56.0
IBM 457 1.9 297 1.6 53.9
Others 5,902 25.0 5,392 29.6 9.5
Total 23,580 100.0 18,213 100.0 29.5

上記のシェアを見ると、トップシェアは51.8%のAWSである。2位がMicrosoft Azureで13.3%だ。大差がついているように見えるが、重要なのはそこではない。見ていただきたいのは、AWSとMicrosoft Azureの成長率だ。AWSの成長率が25%に対して、Microsoft Azureは98%の成長率になっている。そして市場の成長率が29.5%である。AWSが市場の成長率を下回ったことになる。実は、AWSの成長率は年々下降している。一方Microsoft Azureは年々上昇し、ついに、成長率98%となった。

AWSの業績発表を見ると、売上が前年比で大きく伸びている。業績として、25%の売上増は大きい。それ自体、間違いではない。しかし、トップランナーであるサービスが市場成長を下回った時、それはトップランナーの陰りが見えたことを指している。

今回の成長率がそのまま続くと以下のようになる可能性がある。この表はガートナーが作成したものではなく、筆者が今の成長率を維持した場合の仮定として作成したものだ。もし、このまま成長が続くと、2020年にはAzureとAWSが逆転することになるのだ。

ベンダー 2016-2017成長率 2017売上 2018売上 2019売上 2020売上
AWS 25% 12,221 15,276 19,095 23,869
Microsoft Azure 98% 3,130 6,197 12,271 24,296

そして、上記のガートナーの発表から1年がたち、 Synergy Research Groupが2019年5月に新たな調査データを発表した。

  • Cloud Provide Competitive Positioning 資料:Synergy Research Group

リソースが違うデータを比べてはいけないが、やはり、AWSの成長率は市場成長率と同じだった。AWSのシェアは伸びていない(売上は前年比で伸びているが、成長率が平均ということ)。これに対し、Azureは70%伸びている。ここで言えるのは、AWSとAzureによる2強の傾向にあるということだ。

このようにAWSとAzureの逆転劇を招いた要因として、筆者は以下のように推測する。

  1. サービス力(機能、価格、品質)が拮抗してきた
  2. 両社の戦略の違い
  3. キラーソリューションをマイクロソフトが大量にもっている

「サービス力の拮抗」は市場が成熟していけば、どの分野でも必ずそうなる。機能、価格、性能は競争により、拮抗していくのが常だ。IaaSもそうなっていくと考える。

一方、戦略はどうか。すぐにわかる差は関連サービスのラインアップだ。マイクロソフトはキラーソリューションとしてSaaSを大量に抱えている。加えて、オンプレミスのOSのシェアは圧倒的である。つまり、Azureは戦略において使える「駒」が多いのだ。これだけを比べても、Azureが有利なことはすぐにわかる。Windows Server2008のEOS(サポート終了)対策として、Azureに移行すれば無料で3年間保守延長というキャンペーンも記憶に新しい。

そして、両社のパートナー戦略が大きく異なる。簡単にいうと、Microsoftのパートナー戦略は広く付き合う戦略であるのに対し、AWSはより絞り込んで付き合う戦略だ。AWSは条件をクリアしなかったパートナーを切っていく。クラウドの普及が本格化していく中、パートナー数ではマイクロソフトに分があるため、AWSは多勢に無勢となる可能性も高いと読んでいる。

明確な数字を出せず申し訳ないが、私の深読みとしてはいかがだろうか。共感できる人も多いはずだ。

そしてここにきて、IaaSやSaaSなどで全クラウドの総合シェアでマイクロソフトがAWSを抜いてシェアで世界一になったというニュースも飛び込んできた。英国の調査会社であるIHSマークイットによると、2018年の売上高ベースの市場シェアで、マイクロソフトが13.8%だったのに対し、AWSは13.2%だったという。

マイクロソフトの稼ぎ頭はOffice 365だ。Office365があるからマイクロソフトが1位になっただけで、純粋なクラウド(IaaSやPaaSをさしているようだ)では、AWSが一番だという意見もTwitterで散見される。しかしながら、クラウドは規模のビジネスだ。利用料が増えれば増えるほど、設備の単価は下がっていく。Office 365が立役者に違いないが、マイクロソフトが今後も有利なことは変わらない。

ちなみに、ソフトウェアやサービスにおいて、利用者が目にしない技術やソリューションは無料化される傾向があるのをご存じだろうか。

古くはDOSであり、今はOSやWebアプリケーションサーバだったり、CMSだったりする。昔はサーバOSのシェアはWinidows Server一辺倒だったが、今はOSSのであるLinuxが圧倒的に強い。端末系はどうかと言えば、PCに加えてスマートフォンも入れれば、OSSであるAndroidがトップシェアだろう。CMSは以前はMovable Typeがシェアトップだったが、今は稼働シェアでは1%もない。OSSのCMSであるWordPressが圧倒的だ。

このように、利用者の目に見えない部分のソフトウェアは業界内でノウハウやコードを共有していくOSSが主流なのである。これはIT業界でもそうだが、ビジネスにおいては利用者が直接利用メリットを感じる部分で差別化を図ろうとし、そうでない部分は業界内の基盤として共有していく流れがある。製造業の部品や規格もそうだ。これは基本的なビジネスの流れなのである。

OSSが普及した理由はソフトウェアとして品質がよいのはもちろんだが、利用者にとって目に見えない部分で良くできたOSS(LinuxやAndroid、WordPressなど)があり、業界内でノウハウやコードを共有していくという、ビジネスの基本的な流れにOSSが乗っただけという気もする。

そうした意味では、IaaSやPaaSも利用者の目には見えない部分である。この観点からすると、AWSが強いIaaSやPaaSは今後市場が衰退していくはずだ。SaaSに強い、マイクロソフトやアドビがクラウドの世界でも強さを発揮していく可能性は高いと考える。さて、皆さんは、どう考えるだろうか。

著者プロフィール

吉政忠志


業界を代表するトップベンチャー企業でマーケティング責任者を歴任。30代前半で同年代国内トップクラスの年収を獲得し、伝説的な給与所得者と呼ばれるようになる。現在は、吉政創成株式会社 代表取締役、プライム・ストラテジー株式会社 取締役、一般社団法人PHP技術者認定機構 代表理事、一般社団法人Rails技術者認定試験運営委員会、BOSS-CON JAPAN 理事長、一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会 代表理事を兼任。