かつて筆者のブログで取り上げたIT業界の職場環境について、多くの方から反響がありました。その中でも、タバコに関する質問を幾人の方から頂いたので、ここではタバコ部屋について取り上げます。
IT業界ではタバコは非常に忌み嫌われています。
別に健康に気を使ってというわけではありません。正確に言うと、「タバコの煙」が嫌われています。
サーバ機器に内臓されるハードディスクは、磁気ヘッダ部分がプラッタと呼ばれる磁気ディスクの上で動いているのですが、ヘッダとプラッタの間隔はごく僅かしか離れていません。
そのため、タバコの煙に含まれる粒子がそこに紛れ込むと、ディスクの書き込み障害が発生する可能性があるのです。
とはいえ、それが理由でタバコを吸う人が少ない訳はありません。
事実、この業界はストレスが溜まりやすい環境が多いので、喫煙者の数は他業界と同じか、それ以上なのではないかと思います。
このため、各プロジェクトサイトには必ず喫煙部屋もしくは喫煙スペースが設けられることになります。
喫煙スペースを利用しているならお分かりでしょうが、タバコという共通の嗜好を持つもの同士、普段はまったく接点がない人たちが、
「すみません、火を貸してもらえませんか?」
「どうぞどうぞ。そうえいば、最近は景気が良くなってきましたね」
「ホントですね、先日は某社との取引も契約できたらしいですよ」
「へぇ、じゃあそれが原因でウチの部の・・・・・」
などというように、ごくごく自然に会話をすることができます。普段は聞けない話も世間話のように軽い気持ちで聞くことができるので、実は重要な場だったりします。
例えば、複数部署の重役が参加する会議があったとしましょう。
会議の場ではそれぞれ面子がありますから、あまりぶっちゃけた話はできず、結果として、大した成果も出ずに終わってしまうことがあります。
ですが、会議の後、喫煙スペースに重役たちが居合わせ、そこで雑談を始めたらどうなるか?
「実はさっきの件だけどさ、うちの予算少し余ってるんだよ」
「じゃあ、さっきの新規案件さ、そっちで先行させてくれない?」
「えー、それはさっきの会議でそっちがやるような話だったでしょ」
「まあまあ、タバコあげるからさ、いいじゃない」
「分かった分かった、じゃあライターも付けてね」
こんな形で会議以上の有意義な意見交換を行い、内々に重要な決定が下されることも少なくないんですよね。
私が前にいたプロジェクトでは、自分は喫煙しないのに、定期的に喫煙スペースに足を運んでいる人間もいました。
それくらい、タバコ部屋で密談が進められることは多いのです。
ただ、このような文化が根付いているプロジェクトでは、非喫煙者は意思決定の場に居合わせることができない可能性もありますよね。
タバコ部屋は交渉を円滑に進める潤滑油として機能するため否定はしませんが、そこで決まった話はチームやプロジェクトにしっかりとフィードバックしてあげましょう。
著者紹介
吉澤準特 (ヨシザワジュントク)
外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。
この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。