落とし所、という表現があります。
何かについて話や打ち合わせをする際、お互いの主張がかけ離れていると、どちらか片方に統一するというのは難しいですが、両者の案を折衷する、つまり、お互いが歩み寄ることができれば、話が成立する可能性がぐっと高まります。
この歩み寄るポイントが「落とし所」になります。落とし所は、最終的な決断時に用いられるだけではありません。
その過程においても積極的に用いられ、その都度、落とし所を設定しておき、段々と自分の希望する内容に近づけていくこともできます。
例えば、A社でインフラ刷新が行われるため、X社は自社のサーバを売り込みに行ったとします。
ところが、Y社、Z社も同様の提案をしてきていました。
こんな状況で、いきなりA社に「うちの製品を購入することを決断して下さい」と言っても、決めてもらえるわけがありませんよね。
ですから、「弊社の製品のデモを行わせて頂けませんか」と自社製品のメリットを主張できる場を提供してもらえるよう働きかけるのです。
それなら先方もまずは承諾してくれるでしょう。
つまり、この場合の落とし所は、「自社製品のデモを行う」ところにあるわけで、X社はそのために成すべき事を考えればよいのです。
相手の理解と自分の理解に大きく隔たりがある場合、このように段階的な理解を求める方法を採ります。
このスキルが、現場のIT技術者には欠けているように思えます。
システム障害の報告会でよくある光景ですが、クライアントは障害の根本原因と再発防止策を知りたがっているのに、担当者が説明するのは事故の経緯とどうやって解決したかという所に力点を置いて報告している。
クライアントに一体何を認めてもらいたいのでしょう。
ここでの落とし所は、一生懸命頑張りましたということをクライアントに認めてもらうことではなく、クライアントの今後の不安を払拭することです。
ですから、話す内容もそこに力点を置くべきなのです。
あなたのプロジェクトは、落とし所を定めているでしょうか?
著者紹介
吉澤準特 (ヨシザワジュントク)
外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。
この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。