ハイプ曲線という言葉をご存知でしょうか?
これは、新技術やキーテクノロジーのトレンド分析を行う際に、テクノロジーの実現時期・技術的な先進性・成熟度を表す曲線です。
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、下図のグラフを見たことはありませんか? これがハイプ曲線というものです。
この曲線には成熟曲線と衰退曲線の2種類があり、最終的に市場に受け入れられるかで、どちらの曲線になるかが決まります。
具体例を出す前に、この曲線にもうひとつ要素を追加しましょう。
(1)イノベーター <黎明期>
(2)アーリーアダプター <流行期>
溝 <幻滅期>
(3)アーリーマジョリティ<啓蒙期>
(4)レイトマジョリティ <啓蒙期>
(5)ラガード <安定期>
横軸に成熟度の要素が加わったことが、お分かりになるでしょうか。そして、真ん中に「溝」という文字が加わっています。
もう分かっている人もいるかもしれませんが、これはムーアの法則で知られるジェフリー・ムーアが唱えたキャズム理論を加えたものです。
※キャズム理論のベースはロジャースのイノベータ理論
なんだか小難しい話になってきたなと思った方、この話は、マーケター/エンジニアの双方に有用ですから、もう少しお付き合い下さいな。
例えば、RFIDについて当てはめてみましょう。
黎明期 :IT資産管理
流行期 :荷物管理(旅客)
荷札管理(陸運/海運)
啓蒙期 :物流管理(一部民間企業)
認証制御
安定期 :軍事資産管理
【黎明期】の技術は、まだまだ技術中心の領域であり、企業利益に直接貢献する段階ではないです。
IT資産管理などは、実際に活用を検討している企業や、パイロット導入を果たしている企業がありますが、本格的に導入を行っているところはほとんどありませんよね。
【流行期】の技術は、過剰な広告宣伝によって、市場から実力以上に期待を集めてしまっているものになります。
「物流管理にRFIDを用いれば、物流人件費の大幅削減と、荷物のトレースが自動的に行えます」という魅力的なセールストークで、市場のRFID熱が高まったことは記憶に新しいでしょう。
【幻滅期】の技術は、流行期に発覚した問題が解決できぬまま、市場の期待に応える事ができずに燻っているものです。
色々な物流会社が荷物をRFIDで管理しようとしていますが、ベルトコンベアが速すぎると読み取りエラーが出る、というような問題が明らかになり、現在、対策に苦慮していると聞いています。
この時、そのまま市場の期待に応える事ができぬまま時が経てば、それは市場から淘汰されていきます。つまり、衰退曲線に乗ってしまうのです。
※RFIDと関係ないですが、通信の領域では、FOMA初期サービスに存在したM-Stageなんかは、まさに衰退曲線の技術でした。市場が求める価格でサービスを提供できなかったのが主因です。
【啓蒙期】の技術は、幻滅期の問題を解決し、再び市場の期待に応えることができたものです。
先の物流システムについても、いくつかの物流会社では、パレット単位でタグを読み込ませるなどの方法で、RFIDタグを実務で使えるレベルに高めることに成功しており、このような技術は成熟曲線に乗ることになります。
※2005年1月にウォルマートが本格的なRFID導入に乗り出したので、それをきっかけに小売業では成熟度が一気に進んでおり、安定期を迎えるのもそんなに先の話ではないでしょう。
【安定期】を迎えた技術は、市場に広く受入れられたものです。RFIDのタグ自体は供給価格も下がり、すでにこのレベルになろうとしているでしょう。
変わったところでは、米軍の物流管理システムは、すでに成熟を迎えているようです。さすが、金に糸目をつけないところは、技術成熟も早いですね。
挙げた例がとても長くなりましたが、何を言いたいかというと、ハイプ曲線+キャズム理論の上にテクノロジーをマッピングすることによって、現在の動向が一目で確認できるということです。
市場分析や今後の展望を語るときには、とても有用なグラフですから、もしあなたが新しい技術の採用を訴える立場にあるなら、これを使って説明してみるとよいのではないでしょうか。
参考:
・ハイプ曲線 http://www.itmedia.co.jp/enterprise/0107/30/01073006.html
ちなみに、ハイプ曲線は、テクノロジーに限らず様々な事象を当てはめることができます。
社内アクティビティがあれば、「~をハイプ曲線で表してみよう」なんてお題で遊んでみるのも面白いのでは?
・社会現象のハイプ曲線
http://www5.big.or.jp/~seraph/mt/000133.html
著者紹介
吉澤準特 (ヨシザワジュントク)
外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。
この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。