某Webメディアの記事に、『業務部門というのは、「測定不能なもの」を測定するよう求めるところだ。』というセキュリティの定量評価について述べたものがありました。
定量的な評価は、その結果を数値という共通のモノサシで他と比較することができるため、何でも定量的に測定したくなる誘惑に駆られるものですが、何でもかんでも数値で表現できるかといえば、そんなことはありません。
例えば、「AさんとBさんでは、どちらの方が優れた社員ですか?」という問いに対して、果たして、どれだけ定量的に回答することができるでしょうか。相対的に両者の優劣を比較することは、感覚的にはできそうですが、仕事のパフォーマンスにしろ、一つ一つの仕事そのものの価値や負荷を数値で表現することは難しいでしょう。ですが、定量的な評価が難しいものの中にこそ、非常に重要な検討要素が含まれているのが現実です。
前述の例でも述べたように、人事評価にまつわるものを絶対的な評価で行おうとすると、組織における人件費の割合が著しく増大するリスクもあるでしょう。このような場合、定性評価、つまり数値ではなくもっと大きい区分での感覚的な評価を行うことになります。代表的なのは、国が行っている景気動向調査です。
ニュースで定期的に報告されている世の中の景気に関するアンケートで、「前回よりも1.2ポイントアップしました」というような表現をしているため、定量評価をしていると思いきや、実はアンケートの回答自体は、「(景気が)良くなっている」「変わらない」「悪くなっている」の3段階で聞いているに過ぎません。これは、「良いは3ポイント」「変わらないは2ポイント」「悪いは1ポイント」というように割り当てて、総計を出しているだけなのです。
良い←→悪い、大きい←→小さい、高い←→低い、という定性的な評価をもっともらしく見せる一番簡単な方法は、景気動向調査のように、各評価を便宜的に数値に置き換えて、擬似定量評価を行うことです。
この手法は、数値で評価する人々(特にマネジメント層)に対するプレゼンとして有用です。コメントなどの定性的な評価情報が切り捨てられる恐れがありますが、それは情報を加工する側で十分吟味して下さい。重要なのは、測定しにくいものに対して、どうやってロジカルに説明するかという点です。感覚論だけで判断すると、後から活動を振り返ったときに、効果的な反省が行えなません。
コンサルティング業界だけでなく、トヨタのような世界的なメーカーでも取り入れられていますが、「Why×3回」というルールの通り、モノゴトの本質を定性評価の段階で突き詰めておくと、定量的に考え方を切り替えても、本質を見失わずにいられるでしょう。
著者紹介
吉澤準特 (ヨシザワジュントク)
外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。
この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。