システム障害が発生した際に日本企業と米国企業で興味深い対応の差があるという話を日本CAのサービスマネジメント通信で見つけたので、これを取り上げてみます。

『先日、とある調査会社のアナリストの方々とミーティングする機会がありました。その際の話題の一つに、米国企業と日本企業の違いについて会話しました。

米国企業のA社:
IT環境で障害が発生すると、すぐにログを取得してベンダーやSI企業に送付する。

日本企業のB社:
コンプライアンスに厳しいため、障害が発生したときにはベンダーやSI企業を呼ぶ。その際、ベンダーやSI企業からは、「取り急ぎログを送ってください」と依頼することが多いが、このB社は「コンプライアンスにより、ログを外部に送ることはできない」との返事。

さて、A社とB社、どちらがトラブルを早期解決できるでしょうか?多分A社ですよね。でも、B社を含む日本企業では自社のことを考え、様々なコンプライアンスを遵守しなくてはなりません。トラブルは早期解決したいけど、コンプライアンスを遵守しなかった時に企業価値が下がってしまう可能性もあるし・・・』

私自身、米系クライアントと日系クライアントでは仕事のやり方を変えていますし、システム設計・構築・運用も然りです。ですので、上記の状況というのは分かります。

ただ、上の話だけを読むと米国企業A社はコンプライアンスをまったく気にしていない企業とも読み取れてしまいますね。もちろんそんなことはなく、障害回復が遅れるデメリットとコンプライアンス上のデメリットを比較した上でこのような結論を速やかに出しているだけです。

日本企業B社だって同じような検討プロセスを踏んでいるのですけど同じようにはいきません。情報流出したら誰が責任を取るのか、それよりも少し時間がかかっても確実にベンダーを呼び出して対応させた方がリスクが少ないのではないか、そういったリスクに対する恐れが米国企業に比べて大きいというのが私の実感です。

言い古された言葉を使うなら「組織のカルチャーが違う」ことに起因する問題ですが、もう少し踏み込んで表現するならば、「ベンダーの扱い方の違い」と言っても良いでしょう。

米国ではクライアントもベンダーも契約上は対等です。お互いを尊重しあうことで成り立つのが人種の坩堝米国の文化ですから、企業風土も同じような考え方の上に拠って立っています。

それに対して日本ではクライアントのためにベンダーが尽くすイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。滅私奉公、お上のため、お客様は神様です、そういった考え方を容認する人が日本の文化には今でも多く存在します。だから、ベンダーを呼びつけるという発想になりやすいのです。

そもそも「戦略的パートナー」なんて表現がここ数年で日本のIT業界に広がっていったのも、現状が滅私奉公(丁稚奉公)を余儀なくされているSIベンダーの不満を如実に語っているのではないでしょうか。

しかし、こういった一方が優位な関係というのは歪を生みやすいです。特にコーチング分析のサポーターにあたる性格の人が多い日本社会では、一方的な抑圧となってベンダーの人間を虐げるという状況に陥りやすいのです。

保守的な日本企業にも良い面はたくさんあります。一方で、こういった点を改善し、もっと相手を対等に扱ってお互いにとってメリットのある決定ができるようになると、多分IT業界の環境は今よりもかなりマシになるのではないでしょうか。

著者紹介

吉澤準特 (ヨシザワジュントク)

外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。

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この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。