いくつか組織の硬直化&方法論(メソドロジー)の意味について取り上げてきましたが、はてな上では合計500に達しようかというブックマークを頂き、多くの方にとって興味あるテーマだということがよく分かりました。
<1>『世界最大のコンサル会社が最低の仕事をする理由』
→ http://it-ura.seesaa.net/article/114822601.html
<2>『組織が150人を超えると仕事の質は劣化する』
→ http://it-ura.seesaa.net/article/115009978.html
このあたりでひとまずの結論を出すということで、今回、メソドロジーのあり方について取り上げようと思います。
1つ目のエントリーにて、世界最大のコンサル会社であっても過度にメソドロジーに頼ってしまうことで仕事の質を大きく下げてしまうことに触れました。ですが、優秀なソリューションを万人が利用できるようにするためにはメソドロジーを利用せざるをえない(スケールと品質の相関関係)のが現実です。
そして、メソドロジーの適用を考えるべき組織人数の限界というのが150人(ダンバー理論)であることを述べたのが2つ目のエントリーでした。ここでは人間がチームとして相乗効果が期待できる人数の限界を人類の歴史から考えた結果を示しています。
では一体、どのようなメソドロジーを作り上げるのが好ましいのでしょう。
ここで考えておきたいのは、そもそもメソドロジーに何を求めるか、ということです。
世界最大のコンサル会社の話で出てきたITコンサルタントのメソドロジーは、過去事例の一般化という点では意味のあるものだと思いますし、議論の出発点として使うのであれば問題ありません。問題があったのは、全てのコンサルティングソリューションをメソドロジー通りになるように押し込めてしまったからでしょう。
言うまでもないことですが、コンサルティングというものは対象となる組織の固有事象を踏まえて最適なソリューションをその都度考えていくことに意味があります。全ての組織に同じ提案をするのであれば、それは方法論を製品化して売り出しているだけに過ぎません。
SAPなどのERP(統合リソース管理製品)を導入する際のパッケージコンサルティングは、どちらかといえば方法論の製品化に近いものなのですが、これを問題解決のコンサルティングと同列なのだと思い込み、そういったコンサルティングの具体的なアプローチも製品化(一般化)が可能だと勘違いしているところに無能なコンサルタントを生み出している原因があると私は感じています。
何かに取り組むとき、最初の計画通りに物事が進むことはあまりないですよね。想定していないトラブルやイベントに対して臨機応変な対応が求められるのが当たり前です。その結果、当初の予想と異なる結果になったとしても、それで目的が達成できていれば良いでしょう。
しかし、何とか既定路線に押し込もうと無理やり頑張ってしまう人もたくさんいます。変化や未知の事象に対する恐れからくる本能的なものなのでしょうが、それは本末転倒です。目的を達成するために定義した手段であるはずが、もはや、予め定義した手段を守ることが目的になっているのです。
ここまで書けば私の言わんとしていることが分かって頂けると思います。何も斬新なことを述べているわけではなく、むしろ当たり前のことを言っているだけです。しかし、人間の慣れというヤツは、この当たり前を当たり前ではなくしてしまいます。メソドロジーを万能だと思い込んで固執するコンサルタントは、メソドロジー通りに物事が展開した少数の事例(成功体験)に囚われているからに他なりません。
メソドロジーとは、考え方の指針や方向性を示すに留めるとともに、具体的な進め方を過去事例から参照して調べることができるよう整備してあれば十分です。メソドロジーを使おうとする者は、そうやって過去事例を調べながら「どうやって利用するか」を熟考し、今のクライアント向けにカスタマイズしていけば良いのです。結果として、メソドロジーで規定されたステップのいくつかが省かれ&新しいやり方が追加されたとしても、それでクライアントを満足させることができれば問題ありません。
そうして、その結果自体も過去事例としてメソドロジーに組み込まれ、組織は成長していくのです。
メソドロジーのあり方については、Norihito Yamamotoさんがその本質についてうまくまとめたエントリーを書かれていたので、そちらを紹介します。
『方法論(メソドロジー)では、具体的な命題に対しどのようにしたのか、というよりも1つ上の"メタレベル"で考えることになります。すなわち、成功するためにはAという作業が必要であるが、そのAという作業が必要であるとどう判断するのか、またAという作業をどのようにすればよいか、について考えさせるものが方法論(メソドロジー)です。』
(方法論(メソドロジー)について:詳細はこちら)
→ http://it-ura.seesaa.net/article/115163877.html
あなたが持っているメソドロジーはどうですか?
著者紹介
吉澤準特 (ヨシザワジュントク)
外資系コンサルティング会社に勤務。守秘義務を破らない範囲でIT業界の裏話をつぶやきます。ファシリテーション、ビジネスフレームワーク、人材教育など執筆多数。日本能率協会、秀和システムそれぞれから書籍刊行。執筆依頼/インタビューお引き受けします。こっそりITIL Manager (v2)資格保有。
この記事は吉澤準特氏のブログ「IT業界の裏話」の過去記事を抜粋し適宜加筆・修正を行って転載しています。