ベルギーimecの年次イベント「ITF World 2023」にて、ASMLのチーフビジネスオフィサー(CBO)であるChristophe Fouquet氏が、「世界を変える半導体産業を支えるために2030年代へリソグラフィを拡張する」と題して講演を行い、2030年代にはNA=0.75という超高NA EUV露光技術を開発する必要性を強調した。
同氏は、露光で解像する必要のあるメタル配線ピッチおよびEPE(Edge Placement Error:レジスト像のエッジが所望の場所からどれだけ離れているかを評価する尺度)の2010年代以降の推移(将来予測含む)を示し、メタルピッチが2020年代までは、6年で5割減のペースで縮小してきたが、2030年代にはそのペースが落ちて飽和してしまう可能性を提示した(図2)。これまでノードネーム(ファウンドリが微細化を宣伝するために用いている数字。図2下部に緑色で表記されている数字)と最小メタル配線の線幅は一致していたが、最近は乖離が大きくなっているという。
高NA EUV露光装置1号機は2023年末までに出荷を予定
ASMLは、2023年末までに高NA(NA=0.55)EUV露光装置(試作用)の商用1号機を出荷し、2025年には量産機の出荷を開始することを予定している。これにより、顧客は2025年ごろから、NA=0.33の従来型EUV露光装置によるマルチパターニングから高NA EUV露光装置によるシングルパターニングに移行し、プロセスコストの低減を図りつつ、スループットの向上を図ることが可能になるという。
高NA機の光源開発は米国カリフォルニア州サンディエゴで、レチクル開発は米国コネチカット州ウイルトンで、光学系は独オーバーコッヘンで、全体の組み立てやウェハ露光実験は、オランダのフェルドホーヘンの本社工場で行っているという。本社内の「imec-ASML High NA Lab」において想定される5大顧客(Intel、TSMC、Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technology)については早期に高NA機にアクセスできるようにするという。このLabでの高NA EUV露光装置の稼働には、コーターデベロッパ(クリーントラック)を供給する東京エレクトロンはじめ、Lam Research、KLA、HMI、JSRが協力している。
EUV光源の出力は研究レベルで600Wを実現、800Wも視野に
EUV露光用の光源出力は、順調に増加してきており、従来機種では250~300Wであったものが、最新機の3600Dでは350Wへと増強される。研究レベルでは、600Wも実現しており、将来は800Wが視野に入っているという。
Fouquet氏は、「2030年代に入ると、高NA EUV装置を用いたマルチパターニングを一度のシングルパターニングですませてスループットをあげ、プロセスコスト削減のためさらに、より高NAなEUV露光(NA=0.75)の要望が出てくるであろう」と指摘し、DUV(ドライ)、ArF(液浸)、EUV、高NA EUVそれぞれの露光技術によりパターン形成させるトランジスタあたりのコストの変遷と今後の予測を示した。すでに1台数百億円ともされるEUV露光装置、高NA EUVの価格はそれよりも上であることを考えれば、超高NA EUVの開発は、顧客の要望と顧客の開発費負担次第と言えるかもしれない。
日本でもEUV露光技術に再び脚光
日本でも2010年ころまで、EUV露光技術の研究開発を国家プロジェクトとして進められてきた。しかし、ニコンもキヤノンも道半ばでEUV露光装置の実用化をあきらめてしまい、国産EUV露光装置開発はとん挫した。また、日本の半導体メーカーも先端ロジックの製造から撤退してしまったこともあり、2023年現在、日本勢はEUV露光装置の量産機を1台も保有していない状態である。
しかし昨年、Rapidusが国策ロジック半導体メーカーとして2nmプロセス採用デバイスの製造を掲げ立ち上げられ、早ければ2024年末にもEUV露光装置を導入する計画を明らかにしたほか、Micronも、広島工場でEUV技術を用いた1γ-nm DRAMの製造を2025年以降に始める計画であることを2023年5月に公表。日本政府による補助金の支援を前提としているが総額で5000億円ほどの投資を予定しているという。
ここにきて、先端ロジック製造無縁の地となって久しい日本でも、EUV露光技術が再び脚光を浴びる気配が出てきたと言えるだろう。