2024年5月下旬に開催されたベルギーimec創業40周年記念イベント「ITF World 2024」では、世界の大手半導体・IT企業の多数の経営者が招待講演を行った。
ITFは、「imec Technology Forum」の略で、日本を含む世界数所で毎年行っている年次イベントであるが、ITF Worldはそのグローバル規模での統合版であり、世界中から2500人を超える人々がベルギー・アントワープのイベントホールに参集して開催された。かつては、「ITF Belgium」と呼ばれ、年次研究成果発表会の位置づけだったが、現在は世界のトップ半導体およびIT企業などの経営者が今後の経営・技術戦略を紹介し、未来の方向を探るイベントへと変貌を遂げており、imecの研究内容の紹介は、併設の展示会で行われている。
今回のITF World 2024では、imecの先端半導体コアプログラムメンバー企業でもあるTSMC、Intel、SK hynixらが、それぞれの立場で半導体産業や半導体技術の将来展望を語った。各社独自の直近の新技術を詳しく紹介するための技術説明会とは異なり、半導体専門外の参加者にもわかりやすい長期展望を中心に述べていた。
DRAMでも進む3D化
SK hynixは、DRAM/NAND研究開発担当シニアバイスプレジデント(SVP)であるIlsup Jin氏が「将来を拓くメモリ技術革新」と題して講演を行った。
同氏はまず、過去30年にわたる半導体産業のけん引役の変遷を説明。PC、モバイル、クラウドサービスそして生成AIとけん引役が次々と誕生、増加していることに触れ、今後も成長が続き、2030年には1兆ドル規模に達する将来有望な産業であることを強調した。
この間、DRAM技術は、プロセス微細化の限界を打破する形で業界からの要求にこたえ続けてきた。現在は1c-nm (1x、1y、1z、1a、1bに続く10nmクラスプロセスの第5世代目)の段階にある。SK hynixは、DRAMチップを積層し、TSV(シリコン貫通ビア)で串刺しにして高速大容量化を実現した高帯域メモリ(HBM)がNVIDIAのAIチップに採用されるなど、HBMで高いシェアを有しているが、近い将来、DRAM製品の多くがゲート多段積層タイプの3D DRAMへとシフトし、さらに集積度を高めることが予想されるとする。
NANDは300層越えへ
一方のNAND型フラッシュメモリは、DRAMに先行して2Dから3Dへと進化し、さらには4D(4次元)化も進んでいるとする。ここで言う4D NANDとは、SK hynix独自の呼称で、周辺(ペリフェラル)回路の直上にセルアレイを積層することでシリコンダイ面積を削減したNAND構造を指す。この技術を同社は「PUC(Periphery Under Cell、メモリセルアレイの下の周辺回路)」と呼び、周辺回路とセルアレイの積層によって「次元(Dimension)」が1つ増えたと見なし、3D NANDではなく4D NANDと呼称している。
4D NANDは、まもなく300層を超える見込みだが、さらなる高層化に向けた研究開発が進められている。
DRAMやNANDに代わる新たなメモリの方向性
DRAMやNANDに替わる新たなメモリの実用化に向けた研究も同社は推進しているとする。SCM(ストレージクラスメモリ)としてSOM(Selector Only Memory)、自己選択メモリ(SSM:Self-Selecting Memory)あるいは単一カルコゲナイドクロスポイントメモリ(SXM:Single-chalcogenide Xpoint Memory)などと呼ばれる不揮発性メモリ技術やSTT-MRAM(Spin Transfer Torque-Magnetroresistive Random Access Memory)などの開発が進められているほか、将来のポスト・フォンノイマン型コンピューティングに向けたAciM(analog-compute-in-memory)の研究も進めているという。
なお、Jin氏は、メモリ業界を発展させるためには、技術、知財、製造装置、投資などすべての面で、業界を挙げた協業が必要であることを強調した。SK hynixでもすでにTSMCと次世代のHBM向けチップの製造や高度なチップパッケージング技術の開発・製造で協業すると発表しているとするほか、SKグループのChoi会長が先頭に立ってGAFAMなどとも協業に向けた交渉を行っているとしている。
また、同社では、超微細化や高集積化の壁を乗り越えて半導体技術を今後も発展させていくためにも他企業と幅広く研究協業する必要があるともしており、オープン・リサーチ・プラットフォームを構築してともに新技術開発や新ビジネス分野開拓しており、imecにもコアプログラムメンバーとして参画し、さらなる次世代半導体の実現に向けた研究協業を進めているという。