自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第31回はAI(人工知能)カメラのサービスを手掛けるTARA(神奈川県 藤沢市)を取り上げる。同社はインターネット広告などのランディングページ(LP)にサービスや料金を明確に表示し、顧客の信頼を獲得している。同社の谷和俊取締役は企業ブランディングの意義について「企業経営の姿勢を認知・信頼してもらうことだ」と強調。「当社の明瞭会計の姿勢は、潜在顧客からの信頼獲得に貢献している」と話す。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • TARA 取締役 谷和俊氏

TARA 取締役 谷和俊氏
大学卒業後、大手BPO会社にて法人営業や現場責任者を経験。その後、投資・開発・アセットマネジメントまで各種の施設開発・運営を手がける企業の運営部門責任者として業務効率化を手掛け、事業拡大に貢献。
株式会社TARAへ2019年に執行役員として参画し、AIカメラサービス「メバル」の事業を立ち上げ、上場企業や自治体まで幅広く採用されるサービスとして成長させる。2022年8月より同社の取締役に就任。

ポイント

①企業ブランディングの意義は企業経営の姿勢を認知・信頼してもらうこと
②LPにサービスと料金を細かく表示。業界では珍しい「明瞭会計」で潜在顧客の信頼獲得
③ダウンロード可能な無料の導入成功事例集も顧客開拓に貢献
④内容を理解しないままにテレマーケティングやリスティング広告をしても効果が出づらい

本村:貴社はAIカメラのサービスを手掛けています。会社の概要と強みを教えて下さい。

谷:TARAはグロース市場上場のヒューマンクリエイションホールディングスの子会社で、2018年に創業しました。AIによって映像や画像を自動で処理するAIカメラサービス「メバル」が事業の柱です。このカメラは自動車や人の数を数えたり、性別や年齢を認識したりできます。クライアントは小売り、メーカー、自治体などです。

AIカメラは喫煙所やレストランが混雑状況を可視化したい場合などに活用できます。例えばレストランが自社のホームページに定員とAIカメラが解析した人数を掲載すれば、一般の人にも現時点で店が混んでいるかどうかが一目でわかります。一定以上の人数が常時いる場所であれば、その部屋の壁にスペースをつくって、広告を募集することもできます。

当社の強みの一つは、AIカメラの設置コストを抑制できることです。静止画像で人数を判定する技術を開発したことや、必ずしも必要ではない機能をそぎ落としたことで、相場の半分程度に費用を抑えました。Wi-Fiに対応したほか、カメラを金具や両面テープなどで設置できるようにしたため、配線などの工事も不要です。従業員は15人程度で規模は大きくありませんが、お客様の要望にできる限り合わせてプログラムを組むなど、きめ細やかな対応も特徴です。

  • AIカメラの解析のイメージ

    AIカメラの解析のイメージ

本村:先端技術を手掛ける企業では高い技術を使い高価な設備を開発、販売したいという経営者もおり、中にはオーバースペックになっているケースもあります。一方で貴社の方針は、顧客のニーズに合わせたサービスを低コストで提供することですね。企業ブランディングにもこうした姿勢は必要かもしれません。貴社にとってブランディングの意義とは何でしょうか。

谷:ブランディングの意義は、企業姿勢を認知し信頼してもらうことだと考えています。「この会社であれば、このようなサービスをしてくれる」とクライアントや潜在顧客に思ってもらうことが大事です。当社の場合の企業姿勢とは、お客にとって良いものとは何かを追求し、自社でできないところをなくしていくことです。問い合わせを受けた際にできる限り早く回答することも大事にしています。

本村:先端技術を手掛ける会社であるからこそ、顧客への丁寧な対応や自社のブランドイメージを意識することが大事ですね。

谷:AI関連では技術者が創設した企業が多く、技術者の意見が通りやすい環境にあります。当社は岩崎祥大社長も私も卒業した大学は文系ですし、エンジニアでもありません。このため、高度な技術を開発することよりも、顧客の課題を理解し解決するために機能を改善することを重視する傾向にあるように思います。

本村:中小企業のブランディングで大事な点は。

谷:中小企業のブランディングでは、企業も個人も「信頼」が大事だと考えています。特にB to B企業の場合は、クライアントや潜在顧客から社長や経営陣を信頼してもらうことが大事です。「あなただからシステム開発を依頼する」と言われることがほとんどです。

本村:ブランディングの成功例は。

谷:当社では創業1年後の2019年からインターネットでのブランディングやマーケティングを始め、翌年から本格化しました。ここでも重視したのは信頼性です。具体的には、LPで料金を明確に提示したことです。同業他社では料金が掲載されていないことが多かったため、当社は「明瞭会計」を強調しました。

興味を持ってくれた人が登録すれば、無料で成功事例集がダウンロードできるようにもしました。その上でWeb広告を出し、LPへの導線を確保しました。当初は飛び込み営業などもしましていましたが、現在のクライアントは100%がWebからの問い合わせがきっかけとなっています。今年は1~9月で100件超の問い合わせがありました。

  • 明瞭会計のLPで信頼を得る

    明瞭会計のLPで信頼を得る

本村:明瞭会計を貴社への信頼に結び付けたということですね。貴社に明瞭会計を打ち出せるだけのコストメリットや品質の裏付けがあるからこそできたことだと思います。

谷:規模の小さい当社が他社と渡り合うには、コストメリットを強調する必要がありました。AIカメラの業界では、LPに値段が明示されていないケースが多くあったことも背景にありました。お客様から聞いたところ、他社のLPなどで値段が安いと思って見積もりをしてもらったら、多くのオプションがついて金額が当初の倍以上になった例があるそうです。これでは信頼を得られないと思い、当社では明確な料金を重視するようになりました。

本村:ブランディングの失敗例はありますか。

谷:検索ワードに連動して表示される「リスティング広告」を内容や効果を理解しないまま試してみたところ、うまくいきませんでした。テレマーケティングも依頼してみましたが、問い合わせがあっても成約にはなかなかつながりませんでした。展示会も含めて多くの営業施策を打ち出しましたが、当社の仕事はWebマーケティングやブランディングが一番向いていることがわかりました。ただ、こうした失敗は自社に最も向いている手法を見いだせたという意味で、決して無駄ではなかったと思います。

本村:貴社の場合、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回し、次に生かしていることがよくわかります。ところで、Zenkenのサイトに御社が掲載されていますが、どんな効果がありますか。

谷:2022年6月から記事を掲載してもらっています。これにより、サービスの認知度が上がり、従来はアクセスできなかった新規顧客の開拓につながっています。商業施設を運営する企業の方が防犯カメラについて読んでみたら、AIカメラの有用性に気づいてサービスを導入してくれるケースもあります。Zenkenのサイトには他社の記事も掲載されていますから、料金やサービスを他社と公平に比較できるのも良い点だと思います。

  • AIカメラ事業のイメージ

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

Zenken株式会社 取締役 eマーケティング事業本部長

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部(現:グローバルニッチトップ事業部)」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、14年間で約8000社のインサイドセールスを構築した。