自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。その背景には、国内外の競争激化や物価の上昇などがある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。本連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。
第30回は住宅機器の延長保証サービスを手掛けるジャパンワランティサポートを取り上げる。同社は大手経済紙への広告で新規の顧客開拓の効果を実感し、ブランディングに力を入れている。同社の小田則彦社長は企業ブランディングの意義について「自社の独自性や強みを多くの人にわかってもらうことだ」と強調する。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。
2001年大学卒業後にさまざまな企業で経営ノウハウを習得し、2010年創業メンバーの一人としてジャパンワランティサポートを創業。取締役営業部長として顧客ニーズを積極的に拾い上げ、顧客に合わせた制度設計を行うことにより会社の成長を支えてきた。また、社内の各部門の調整・橋渡し役として社内環境の整備にも尽力し、会社の成長につなげてきた。2024年5月には代表取締役社長となり、保証事業のさらなる成長、BPO事業の取捨選択により、売上利益の最大化を目指して邁進している。
ポイント
①中小企業のブランディングの意義は自社の独自性や強みを理解してもらうこと②大手経済新聞への全面広告で新規開拓効果を実感、営業などで活用することが重要
③ニッチな事業は企業ブランディングも難しいため分かりやすく伝えられるかがカギ
④インターネットを活用したブランディング / マーケティングにも挑戦
本村:貴社は住宅設備機器の延長保証サービスを手掛けています。会社の概要と強みを教えて下さい。
小田:当社は2010年3月に住宅設備機器の延長保証サービス「あんしん修理サポート」を展開する企業としてスタートしました。延長保証とは、メーカーの保証期間終了後に故障した場合に、無償で修理を受けられるサービスのことです。16年5月に水回りなど生活全般のトラブル解決サービスを手掛けるジャパンベストレスキューシステム(JBR)の子会社となり、22年6月に東京証券取引所のグロース市場に上場しました。東京・名古屋・大阪に拠点を構え、約50人の従業員がいます。
当社は「あんしん修理サポート」を中核に、住宅設備機器や住宅用太陽光発電関連設備の延長保証などさまざまなサービスを手掛けています。ユーザーに住宅設備を安心してご使用いただける環境を支えることが使命だと考えています。当社の強みは、創業当初から自社運営してきたコールセンターで集積した情報やノウハウを、修理受付や手配、使用方法の説明、簡易的なトラブル対応などに生かし、改善し続けているところです。
本村:貴社にとって、企業ブランディングとは。
小田:ブランディングとは、自社の独自性や強みをアピールすることだと考えています。当社は上場会社ですから、株主に向けて情報を開示し、ブランドを認識してもらう必要があります。ブランディングをする際に意識しているのは、「期待以上」ということです。業績はもちろん、当社が提供するサービスも投資家や顧客の期待以上のものを残していこうと努めています。他社が対応できないことも柔軟に対応できるようにするのが当社の独自性とも言えます。
本村:独自のサービスを展開している企業は多いものの、それを利用した結果、顧客の期待を下回ることがよくあります。そうした意味では、柔軟かつ期待以上のサービスはブランディングにつながりますね。具体的にはどんなことを柔軟に対応するのですか。
小田:例えば、一般の延長保証サービスでは最初の1年間がメーカー保証期間とされる場合が多く、ユーザーがこの期間に延長保証サービスの会社に連絡しても対応してもらえないことがほとんどです。しかし当社のコールセンターでは、メーカーの保証期間でも顧客の問い合わせに対応するようにしています。
本村:中小企業のブランディングの難しさをどう考えますか。
小田:当社の場合は、規模の大小による難しさよりも扱っているサービスを正しく認識し、理解していただくことに難しさがあるように思います。説明しても容易に分かってもらえない場合があり、サービスを理解してもらったり、浸透させていったりすることが難しいと実感しています。分かりやすく伝えていくことが重要だと感じています。
本村:ブランディングの成功例は。
小田:当社はブランディングを必ずしも得意としているわけではありません。ただ、2013年6月に、親会社のJBRが大手経済新聞に広告を出し、顧客層が拡大したことがあります。
当社では以前から専門紙には広告を出していましたが、掲載料金が非常に高い大手経済紙に広告を出したことはありませんでした。しかし、JBRの前社長が「広告を掲載するのであれば、資金を逐次投入するのではなく集中した方が良いのではないか」と考え、大手紙に広告を出すことになりました。紙面1面を丸ごと使え最も目立つ「全面広告」にしました。
大きな広告記事を大手経済紙に出したことにより、大きなインパクトを残せたと思います。広告掲載後には、通常の当社の営業活動ではアポイントが取れないような超大企業から問い合わせがありました。
この広告は営業活動の大きな武器になりました。当時の私は営業活動の中で、PDF形式の広告をパソコンにダウンロードして「大手経済紙の全面広告」という言葉を営業のキーワードとして使っていました。新規開拓にも有効でしたし、既存のお客様にも「すごいね」とほめてもらえるなど、営業に大きなメリットがありました。
本村:中小企業の場合、せっかく大手経済紙に全面広告を出しても営業担当者が活用せず、その効果が一過性に終わることも少なくありません。貴社はそれを活用しているのが効果の持続につながっているように思います。
小田:もちろん、全員が活用できていたかは分かりません。ただ、私自身だけでなく周りのスタッフも活用するように指導していました。
本村:広告も活用してこそブランディングになるということですね。大手紙への広告が成功した背景を教えて下さい。
小田:専門紙は中小企業など既存のターゲットも読んでいますので、新規開拓は難しい面があります。一方、大手紙は読者が多岐にわたります。その結果、当社がなかなかアプローチできないような企業や経営層にも当社のサービスに興味を持ってもらえたのだと思います。
潜在顧客からは「大手経済紙に全面広告を出せるような企業だから信頼できるのではないか」と捉えてもらえた面もあったと思います。また、競合他社ではこうした広告を出している企業はありませんでしたから、差別化にもつながったと考えています。ただ、今後は新聞だけでなくインターネットの活用も必要です。だからこそ、企業向けのメディア制作を手掛けるZenkenと協力することにしました。
本村:失敗例はありますか。
小田:企業のホームページにある「問い合わせフォーム」に、当社のサービス案内のメールを送信する方法を試したことがありましたが、あまり効果がありませんでした。この方法は飛び込みやテレアポ、メール営業に比べると、開封率や精読率が高く、キーマンの目に留まりやすいとされています。しかし、実際には反響率は1%未満でした。背景については今も分析している状況ですが、ターゲットを絞り切れていない場合などは期待した結果にならないことが多いと考えています。
本村:先ほど小田社長が言及された通り、Zenkenのサイトに御社の記事が掲載されています。
小田:2022年3月から当社の記事を掲載してもらっています。インターネットを活用したマーケティングは重要性を増していることから、新機軸としてZenkenと連携することにしました。サイトでは当社の分かりにくいサービスを分かりやすく解説していること、検索サービスで上位に表示されることなどがメリットだと考えています。
現時点でサイトへの流入数は、平均月1200件程度、そこから当社の公式サイトに流入した数は平均で月55件程度です。サイトの潜在力は大きいと見ており、より大きな効果を期待しています。
(編集協力 P&Rコンサルティング)