自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B(企業間取引)企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。
第20回は、注文住宅の設計・施工に携わる工務店、ホウェールハウス(兵庫県神戸市)を取り上げる。同社は耐震性に優れた「SE構法」を自社の注文住宅全棟に採用したことをホームページで強調し、ブランディングや集客につなげている。彦坂達也社長はブランディングについて「安心して家を建ててもらえる会社だと認識してもらうことで、お客様に家づくりを楽しんでもらいたい」と話す。聞き手はZenkenの本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。
2004年に大学の建築学科を卒業。大手ハウスメーカーで営業職に従事し、在籍中は社内表彰を多数受賞。2011年に神戸の老舗工務店に入社し営業部長、常務取締役を務める。住宅も緻密なシュミレーション・計算を行い、再現性の高い根拠ある施工を行った上で完成の後検証を行っていく必要性を感じ、仲間と共に独立を決意し2016に創業。
総合展示場やポータルサイトに頼らず、家づくりにこだわりを持った一人ひとりのお客様とのご縁を大切にしてる。
ポイント
①ブランディングは家づくりを楽しんでもらうため、安心・信頼をお客様に伝えるもの②中小企業のブランディングは地域密着など大企業より有利な面も
③耐震性に優れた「SE構法」の全棟採用をホームページで強調し、ブランディングに成功
④ホウェールハウスの由来は「大きくて安心感のあるクジラ」。社名でも「安心」打ち出す
本村:御社は注文住宅の設計・施工に携わっています。会社の概要と強みを教えてください。
彦坂:当社は神戸市やその周辺で注文住宅の設計施工をしている工務店です。2016年に創業し、従業員は13人です。私は建築関連の大学を卒業し、ハウスメーカーで働いた後に独立して起業しました。
当社の最大の強みは、日照や地震、台風などのシミュレーションをして、信頼できる住宅を提供していることです。例えば、地震であれば外注の専用ソフトを使って、どのくらいの加重があると壊れるのかなどを調べ、顧客に情報を提供しています。高層マンションの建設では一般的ですが、個人の一戸建てでシミュレーションを実施している企業は少ないのが実態です。また、施工マニュアル通りに建設しているかを第三者の民間検査機関に依頼し、1つの住宅につき10回検査してもらっています。
本村:競争が激しくなる中、企業ブランディングは重要性を増しています。御社にとって企業ブランディングの意義は何ですか。
彦坂:ホウェールハウスを設立した理由の一つに、ユーザーに家づくりを楽しんでもらいたいという気持ちがありました。注文住宅をつくる際に「失敗したくない」と不安を感じているお客様もたくさんいます。精密なシミュレーションや第三者による検査を通じて、ユーザーに絶対的な安心や信頼をもってもらえれば、家づくりを楽しんでもらえます。
会社名の「ホエール」にも「絶対的に大きくて安心感があるクジラ」という意味を込めています。「家づくりを楽しむ」という目的を達成するために、信頼や安心という企業ブランドをつくることが大事だと考えています。
本村:安心感ある家づくりを掲げる企業は多くありますが、社名にまでそれを反映した企業は珍しいように思います。
彦坂:クジラが雄大に大海原を泳いでいる映像を見て、社名を思いつきました。お客様は「家を建てるのが初めて」という方がほとんどです。それだけに不安を抱いていることが多いのです。そうした方々に根拠のある安全性を示し、「ホウェールハウスに任せれば安心だ」と思ってもらうことが重要です。安全で納得のいく住宅を建てるため、年間の建設数も12棟に制限しています。こうしたことを私自身がお客様1人1人にお会いして説明するようにしています。
本村:「安全・安心」を前面に打ち出す御社のブランディングは、共感を得やすいように思います。大企業に比べて資金力の乏しい中小企業はブランディングが難しいと言われますが、いかがですか。
彦坂:インターネットの普及により、大企業と中小企業のブランディングの差は縮まってきています。自社のホームページやSNSなどを活用してブランディングやマーケティングをできるからです。むしろ中小企業の方が有利な点もあるように思います。
当社は地域密着に強みがあり、神戸周辺の人たちに知ってもらうことが重要です。大企業のように日本中の津々浦々まで知ってもらう必要があるのであれば資金力が必要ですが、当社のように限定した地域に知ってもらえば良いということであれば、大きな投資は必ずしも必要ではありません。
本村:ターゲットを絞れば中小企業でも大企業に対抗できるということですね。確かに御社は届けるべき人に届けるべきメッセージを厳選して発信しているように思います。御社のブランディングの具体的な成功例を教えてください。
彦坂:創業当初から自社のホームページを作成し、ブランディングをしています。自社のホームページは「営業マン」であり、事業の明暗を分けるものだと考えています。今では月間8000ページビューほどの閲読数があり、9割程度の顧客をホームページから集客できています。
ただ単純に自社のホームページを開設するだけではうまくいきません。何をアピールするかが重要です。当社は取り扱う全ての注文住宅について、構造計算をすることなどにより、耐震性に優れた「SE構法」を標準採用しています。材料費などが高いため、全棟をSE構法で建てるのは珍しく、兵庫県内では初めてだったそうです。そのため、ホームページに「兵庫県で唯一の全棟SE構法の工務店」と掲げ、安心・安全のイメージをアピールしてきました。
もちろん、SEO(検索エンジン最適化)対策も重要です。外部のアドバイスを受けて、ホームページの構成を見直したり、ブログ管理を代行してもらったりして、検索サイトで上位に表示されやすくなりました。大学を卒業してハウスメーカーに就職した人が退職して工務店を創業したことが珍しいこともあり、複数のメディアが取り上げてくれたこともプラスになったようです。
本村:ブランディングに失敗した事例はありますか。
彦坂:ホームページを開設した当初は、お金を支払って大手企業のポータルサイトに掲載してもらっていました。当時は自社のホームページを見てもらえる自信がなかったからです。しかし、資料請求は増えたものの、なかなか成約しませんでした。また、ポータルサイトの運営会社の方針や特集が変われば、目立たない位置に掲載されてしまうリスクもあります。このため、ポータルサイトに頼らず、自社のホームページの閲読数を増やし、ブランディングやマーケティングを実施することにしました。
本村:Zenkenのサイトに御社の情報が掲載されています。
彦坂:約4年前から掲載してもらい、Zenkenのサイトから当社のホームページに潜在顧客が流入しています。効果が明確にあったと感じるのは、当社のことを良く理解したうえで問い合わせしてくる顧客が増えたことです。単純に「自分の家を建てたい」という顧客ではなく、「SE構法を採用している会社」「気密性や断熱性が一定基準を超えている工務店」といった具体的なイメージを持つ顧客が増えました。結果として成約率も高まりました。当社もより具体的な説明ができるようになり、サービスの質が上がったと考えています。
(編集協力 P&Rコンサルティング)