自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や消費者の買い控えなどが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。この連載では、ITを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。
初回はメンズ眉毛サロンを運営するプラスエイト(東京・新宿)の佐々木啓介社長。同氏は、報道とウェブという「二刀流」のブランディングを通じて、マイナーだったサービスの認知度向上と集客増を実現させていると話す。聞き手は全研本社 本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。
プラスエイト代表取締役社長 佐々木 啓介(ササキ ケイスケ)
1973年生まれ。早稲田大学商学部卒業。IT業界から美容業界まで様々な業界に携わる。複数の美容サロン経営を経て、東京都内にて日本初のメンズ専門眉毛スタイリングサロン「プラスエイト」を創業。創業当初からJBS(ジャパンブロウティストスクール)と連携して、眉スタイリングの基礎理論と、最先端の眉トレンドを融合して、メンズ眉スタイリング技術を常に進化させている。メンズ眉に特化しており、現在5店舗を運営。多くの一般の方々や芸能人・スポーツ選手が利用している。
ポイント
①ブランディングは一義的にはお客様のため。しかし、最終的には自社の利益に
②ネットでの情報提供が、顧客と企業の「情報の非対称性」を軽減
③オンラインニュースなどで報道を通じた自社の認知度向上を実感
④ビラまきの失敗に学ぶ。ウェブマーケティングを活用して成功/
本村:御社の事業の概要や強みを教えてください。
佐々木:メンズ眉毛サロンを運営しています。最近は脱毛をはじめとしたメンズ美容の市場が拡大していますが、当社は男性の眉毛に特化しているところが特色です。2013年8月に、東京都中央区の銀座に最初の店舗を出店しました。足元の業績は好調で、東京と神奈川県に5店舗を展開し、35人の従業員が働いています。
当社の強みは、従業員の高度な技術やしっかりとした接客だと考えています。このため、従業員の技術トレーニングを充実させています。接客は、ただ綺麗な言葉を使っても、心がこもっていなければお客様には見透かされてしまいます。こうした経営哲学を浸透させるための教育も実施しています。他社から見ると、「そこまでやるか」と思うほどお金と時間をかけてやっていますので、どこにも負けない自信があります。
本村:新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、足元の事業の状況は?
佐々木:この20年くらいの間に、女性の社会進出が一段と進み、男性も自分の美容について意識するようになりました。特にムダ毛については、多くの方々が気にしています。当初は脱毛が普及しましたが、足元では若い男性を中心に眉毛をきちんと整えようとする方々が増えています。コロナ禍により、マスクで覆われていない眉毛に人の視線が向くようになった面もあります。現在は当社への問い合わせが殺到し、週末に関しては2カ月後にしか予約が取れない状況です。
インフルエンサーと協力した認知度向上策も
本村:足元の業績は好調のようですが、御社は企業のブランディングが、事業にどんな意味を持つと考えていますか。
佐々木:私は、「ブランディングはお客様のためにするものだ」と考えています。当社のメンズ眉毛サロンに興味を持ってくださっている潜在的なお客様に、自分たちのサービスを理解していただき、他社との違いを知っていただくということだと思います。潜在顧客に私たちのサービスの内容を理解していただければ、新しいニーズを発掘できます。ブランディングが、まずお客様のためになり、最終的に会社の顧客増や収益増につながっていくわけです。私たちの業界はまだ小さいので、当社がブランディングを通じて男性の眉毛サロンというサービス自体を普及させていくことも目的の1つです。
本村:インターネットが、企業のブランディングに果たす役割についてはどう考えていますか。
佐々木:一番大事なのは、ネットの活用を通じて、企業と顧客の間の「情報の非対称性」が少なくなるということではないでしょうか。ラーメン屋さんを例にあげると、かつては情報がなかったために、たまたま見つけたお店に入るしかありませんでした。しかし、今は検索サイトで簡単に口コミを調べることができます。ネットを通じたブランディングや情報提供を通じて情報の非対称性が解消され、健全な経済活動が行われる可能性が高くなってきたということだと思います。
当社は、ソーシャルメディアで影響力を持つ「インフルエンサー」に協力していただいてサービスをPRしたり、ブランディングしたりすることも考えています。インフルエンサーなどを通じて男性向けの眉毛サロンを知っていただき、より詳しく、正確な情報が掲載されている当社のホームページや信頼性の高いメディアの記事を確認していただくことが可能になりました。これもインターネットが普及したことの効用といえるでしょう。
オンラインニュースに連載記事に反響
本村:御社のブランディング施策で、成功例と失敗例を具体的に教えていただけますか。まず成功例をお願いします。
佐々木:成功例の1つは報道を味方につけたことです。扶桑社が運営している「日刊スパ」というオンラインニュースの方が、当社の「メンズ眉毛サロン」というサービスに興味をもってくださり、取材を受けたことがきっかけです。その記事が、驚くほど多くリツイートされたことから、私自身が記事を連載することになりました。
報道への反響の大きさを通じて、眉毛の整え方とか、形をどうしていいかわからない男性がたくさんいらっしゃることがよくわかりました。その後、2019年に「男の眉毛 スタイリング革命」という本を自分で執筆、出版し、私たちのサービスを多くの方によりわかっていただくよう努めました。
もちろん、広告やチラシなどでブランディングをするのも大事です。当社はホームページやSNSでも自社の情報をお伝えしています。ただ、第三者が客観的に伝えてもらえる報道は、企業のブランディングとしても、信頼性がより高く、影響力があると感じました。このため、私はインタビューなどの機会がある際は積極的に応じています。
もう一つの成功例は、インターネットの検索エンジン最適化(SEO)対策ですね。潜在顧客が眉毛関連でキーワード検索をした際に、当社のホームページが上位にくるように、ホームページの内容を優良なコンテンツだと評価されるよう懸命に工夫しました。
過去の失敗に学び、SEO対策やウェブマーケティングで集客増
本村:ブランディングを試みて、失敗されたことはありますか。
佐々木:創業時に苦い失敗の思い出があります。「当社の名前とサービスを知ってもらおう」と、東京・銀座で従業員と一緒に1万枚のビラをまいたのですが、ほとんど効果がありませんでした。来店したお客様は、ビラを受け取ったうちのたった2人でした。大きな労力を使ったにもかかわらず、その効果は非常に小さかったと言えます。
失敗した理由について私なりに分析したところ、私たちの「メンズ眉サロン」というサービス自体の認知度が極めて低いため、ビラの効果がなかったのだと考えました。マイナーなサービスですから、ビラを読んでもサービスの想像がつきづらいのです。これが例えばピザの宅配など、ビラを見ればサービスや商品が想像できるビラであれば、結果は違っていたと思います。ただ、こうした失敗は、その後のブランディングやマーケティング活動に活かされており、良い経験になったと考えています。
本村:インターネットを活用した「ウェブマーケティング」は、企業のブランディングや事業にどんな役割を果たしていますか。具体的に教えてください。
佐々木:私の経験上、ウェブマーケティングは、質を向上させれば、お客様からの問い合わせが増えるものだと考えています。前述したSEO対策もその1つだと思います。また、全研本社と協力して実施しているウェブマーケティングも成功しています。全研本社のサイトに、当社の情報を正確かつ偏りのない形で掲載していただいたことが、顧客増やブランディングにつながっています。眉毛サロンに行ったことのなかった方々がサイトを通じて当社の詳しい情報を得て興味を持って来店してくだり、リピーターになってくださるという好循環ができてきていると考えています。
(編集協力 P&Rコンサルティング)