奇数年には台湾で、偶数年にはSEMICON Japanの協賛イベントとして東京で開催されてきた「半導体製造国際会議(International Symposium on Semiconductor manufacturing:ISSM)」。ISSM 2020は、1992年の発足以来28回目にして初めてバーチャルなイベントとして2021年1月末までオンデマンドビデオ形式で開催されている。多くの国際会議同様に新型コロナウイルス感染症対策のためのやむを得ぬ措置である。

ISSMは、2008年までは日米持ち回りで交互に毎年開催されてきたが、米国の半導体製造熱が冷めたこともあって、2010年以降は台湾と日本で毎年交互に行われている。

ISSM 2020は、オンラインリアルタイムの会議としては、2020年12月15~16日に開催されたが、有料参加登録者については、ほとんどすべての講演やイベントを2021年1月末までオンデマンドストリーミング形式で視聴可能となっている。ちなみに同シンポジウムのスポンサーは米国のIEEE、SEMI、日本のSEAJ、応用物理学会ほかであり、優秀論文は、査読を経てIEEEの学会誌「IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing」に掲載されることになっている。

全体の構成は、チュートリアル(講義)2件、基調講演7件、招待講演1件、一般講演37件のほか、今回からのまったく新しい試みとして、学生を対象に半導体製造効率化のための2種類のAI活用コンテストがおこなわれた。

7件の基調講演は、世界的に著名な講演者を招き、急速に変化する半導体技術と産業のアプリケーションの観点と製造の側面の両方に関して行われた。

非シリコンやAI機能搭載のヘテロ接合で発展は継続

DRAMはじめとした半導体デバイス設計会社である台Etron TechnologyでCEOをつとめるNicky Lu氏は、「シリコン中心技術とAI技術の異種集積(ヘテロジニアス・インテグレーション:HI)によって可能になった新しいスマートマイクロシステムの時代」と題し、モノリシックシリコンを中心としながらも非シリコン半導体も集積しAI機能も搭載したHI技術であるインテリジェントグランドインテグレーション(IGI)がこれからのマイクロシステムの主流になると主張した。

これまでは、モノリシックシリコン上に集積したトランジスタを、ムーアの法則にしたがって2次元で微細化する技術により進化してきた。しかし、原子レベルの大きさにまで微細化が進んでくると物理的な限界に近づくため、今度は化合物半導体などシリコンではない異種材料を採用することで新たな機能を集積することになった。モノリシックシリコンを使い続ける場合でも、NANDや積層FinFETのように3次元化で高集積化を続ける動きがある。

Lu氏は半導体技術の進化で半導体市場は拡大を続けており、2次元的な微細化をシリコン1.0と称し、ハードウェアだけではなくソフトウェアも集積できるようになったシリコン2.0からパッケージ技術で異種デバイスを集積するシリコン3.0、さらにシリコンと非シリコンデバイスさらにはAI機能を3D ICとしてヘテロ集積するシリコン4.0へと進化を遂げ始めている。半導体にAIを組み込み、自律的にシステムを制御できる自律化インテリジェントなエッジシステムをLu氏はSelf-Smart Microsystemと呼ぶ。そして、このようなスマートマイクロシステムが社会に拡散して世界を変えてゆく。このため半導体の進化と市場の拡大はさらに進むと話を結んだ。

  • ISSM 2020

    シリコン1.0から2.0、3.0経て4.0へ進化するにつれて拡大していく半導体市場 (出所:ISSM 2020予稿集のLu氏の発表資料)

AIが支える半導体産業の進化

Lu氏以外の基調講演の概要は以下のとおりとなっている。

NVIDAのコーポレートセールス担当副社長兼日本法人代表の大崎真孝氏は、同社のビジネスについてグラフィックスとHPCに加えてAIを3本柱とし、産業からスマートシティにまで適用するAIプラットフォームについての説明を行ったほか、Armの買収については、自前のGPUにArmベースのCPUを融合し、より高性能なAIサービスを提供するためだとした。

東京大学 名誉教授の櫻井貴康氏は、ナノエレクトロニクスと「Leafony」と呼ばれるオープンイノベーションプラットフォームについて講演し、IoTおよびエッジAIシステムの開発効率を向上させることでデジタルトランスフォーメーションを加速する仕組みであると紹介した。

Maxim Integratedの技術および製造担当シニアVPであるVivek Jain氏は、ディープサブミクロンロジックやメモリ、最先端のアナログおよびミクスドシグナルテクノロジーで検証されたインテリジェントデータマイニングによる迅速な歩留まり向上手法を従来の歩留まり改善手法と比較する紹介を行った。

STMicroelectronicsの車載およびディスクリートグループVPであるSalvatore Coffa氏は、車載と産業用途の電力効率を向上させるSiCおよびGaNデバイスについて解説した。

京都大学 大学院工学研究科の阿部武 教授は、全固体リチウムイオン電池の現状を述べ、環境やエネルギー資源の問題を解決に向けた展望を述べた。

OMDIAの南川明氏は、ニューノーマル時代の半導体産業市場の見通しについて述べた。同氏はSEMICON Japan 2020のSEMIマーケットフォーラムでも講演を行っている。