Chang氏は、前回示した3つの課題を克服するための手法は3種類あるとして、以下のように紹介した。

  • 課題解決のための提案手法

    課題解決のために提案されている3つの方法 (出所:YMTC)

  1. 第1の方法「PuC」:CMOS周辺回路を形成しその直上にフローティングゲートベースのNANDメモリセルを続けて形成する、いわゆる「PuC(Periphery under Cell)構造」を採用する
  2. 第2の方法「4D NAND」:CMOS周辺回路を形成し、その直上にチャージトラップベースのNANDメモリセルを続けて形成したPuCと基本的には変わらない構造(をSK Hynixでは「4D NAND」と命名をしているが、決して4次元というわけではない)
  3. 第3の方法「Xtacking」:後述するYMTC独自の方法

メモリアレイウェハと周辺回路ウェハを張り合わせるという奇策

Xtackingとは一体何か? これは、2018年8月にシリコンバレーで開催されたフラッシュメモリに関する学会「Flash Memory Summit(FMS)」において、Yang氏が発表した手法で、NANDメモリセルアレイ部分とCMOS周辺回路部分を別々に作っておき、後でウェハ同士をface-to-faceで張り合わせるというやり方である。

これにより、3D NANDの高性能化と高密度化の両立が可能になるという。Yang氏は、Xtackingを2019年以降に量産する予定の製品に導入する計画であることもFMS会場で発表し、関係者をびっくりさせた。このYMTCのXtackingに関する発表はFMS会議で賞賛され、「Best Innovative Flash Memory Startup(最も革新的なフラッシュメモリの新興ベンチャー)」として表彰を受けたほどである

  • Xtrackingの特徴

    (左)CMOS周辺回路とNANDメモリセルアレイを別々に作り、ウェハを張り合わせて3D NAND製品を実現するYMTCのXtacking技術。(右)Xtacking技術を用いると周辺回路のI/O速度をDDR4 DRAM並みの3Gb/sまで引き上げ可能 (出所:YMTC)

本題に戻って、4D NANDを含むPuCの長所と短所をまとめると、

長所

  1. ビット密度が向上する
  2. デバイス表面の高低差が解消する

短所

  1. プロセスが複雑になり、製造コストが高くなる
  2. メモリセルアレイの熱処理による周辺回路部のI/Oスピードが劣化してしまう

ということになる。

一方、Xtackingの長所としては

  1. PuCの2つの長所と同じことが可能
  2. メモリセルアレイの熱処理の影響を受けないので周辺回路部のI/Oスピードが劣化しない
  3. メモリセルアレイと周辺回路を別々に開発し、別々に製造するので、研究および製造サイクルタイムが短縮できる

などがあげられる。

Yang氏は「現在、(Samsung Electronicsが開発を進めている)世界最高クラスの3D NANDのI/O速度は1.4Gbpsが目標となっているが、業界の大多数のNAND I/O は1.0Gbps以下である。Xtacking技術を適用することで、NAND I/Oの速度はDDR4 DRAMと同等以上となる最大3.0Gbpsまで引き上げることが可能となる」と述べた。

NANDメモリセル・アレイと周辺回路を別々のチームで設計作業を行うことができるほか、デザインルールの異なる製造プロセスを適用でき、最高性能の周辺回路設計が可能となる。また、製品開発時間も少なくとも従来よりも3か月ほど短縮、製造サイクルタイムも20~25%短縮、そして市場へのアクセスタイムの短縮も可能となるため、経営面でも優位に立てるとしている。

さらに、顧客の要望による周辺回路のカスタム化も容易に行なえるようになるとする。メモリセルアレイとCMOS周辺回路の自由な組み合わせが可能になるため、応用分野に応じて周辺回路を変更することで、派生品をすばやく開発でき、ビジネスの幅も広げられると同社では、事業拡大に期待を寄せている。

  • Xtackingで狙う市場

    Xtacking採用でメモリセルアレイとCMOS周辺回路の自由な組み合わせにより応用分野拡大を目指す (出所:YMTC)

一方、Xtackingの短所としては、

  1. Xtackingという実績のない新規技術の導入
  2. ウェハを2枚使用するためにプロセスコストが高くなる

の2点があげられるとしているが、1つ目に関しては、YMTCには以前からウェハ張り合わせ技術の習熟に務めており、2つ目についてもXtackingの長所で十分補え、競争力を保てるとしている。

2019年に予定通りの量産開始を目指すYMTC

2016年12月に長江(揚子江)と漢江が合流する湖北省長江武漢市で着工した第1期工事のはすでに2017年内に竣工し、2019年内の3D NAND量産開始に向けた準備が進められている。2020年に月産5万枚でフル稼働することを目標にしているというが、さらに3D NANDの量産立ち上がり状況や需要を見ながら第2期および第3期工事も予定している。親会社の清華紫光集団の発表によると、総投資額は240億ドルとのことである。

そうした中、米中貿易戦争やハイテク覇権争いに関する会場からの質問に答える形で、Yang氏は、「(米国の技術に頼らずに)独自技術で開発しているので、米中間のハイテクに関する貿易摩擦の影響は受けずに済んでおり、量産計画に今のところ変更はない」と答えた。

  • YMTC本社工場完成予想図

    YMTC本社工場完成予想図(全景)。現在は第1期工事の一番手前のファブが完成し量産準備中 (出所:YMTC Website)

YMTCの量産は成功するのか?

Yang氏は、講演で、試作した64層3D NANDデバイスの断面TEM写真を見せたが、その写真は後日配布された講演資料には含まれていなかった。

64層製品がどの程度の完成度か不明だが、すでにそのサンプルが中国国内特定IT企業に渡っているとの業界情報もある。その一方で、業界関係者の一部には、YMTCのXtackingをコスト競争力の点で疑問視する見方もある。

YMTCは先行するNANDメーカーに追い付くため、96層をスキップして128層製品の開発に取り組むとのうわさも出回っている。清華紫光集団は江蘇省南京市に大型半導体工場の建設を始めており、2020年に完成した後、NAND市場が成長路線に乗っていれば、YMTCの3D NAND技術を移管するのではないかともささやかれている。

中国の新興DRAM2社は、米Micronからの技術盗用で訴えられており、そのうちの1社は米国政府から米国製半導体装置輸出禁止命令がでて操業停止に追い込まれているが、YMTCは米中貿易摩擦の影響は受けてはいないという。さまざまなうわさが飛び交う中、YMTCは、NAND業界のゲームチェンジャーになることを目指して着々と量産準備をしていることは事実であると考えられることから、日米韓の先進NANDメーカーたちもうかうかしてはいられない状況にあると言えるだろう。

(次回は2月7日に掲載します)