HPC関係の主要な賞の受賞者

主要な賞では、Ken Kennedy賞は、C++とJavaのメモリ コンシステンシーモデルの開発に貢献したイリノイ大学のSarita Adve教授が受賞した。そして、ACMチューリング賞は、ディープニューラルネットワークのブレークスルーを実現した、モントリオール大のYoshua Bengio教授、トロント大のGeoffrey Hinton教授、ニューヨーク大の教授でFacebookのチーフAIサイエンティストのYann LeCun氏が受賞した。

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    Ken Kennedy賞はイリノイ大学のSarita Adve教授が受賞。ACM Turing賞はYoshua Bengioモントリオール大教授、Geffrey Hintonトロント大教授、Yann LeCunニューヨーク大教授の3氏が受賞した

Seymour Cray賞は、D.E.Shaw & Co,というヘッジファンドの創立者でAntonというたんぱく質のフォールディングなどを計算する分子動力学専用機を開発した功績でD.E.Shaw氏が受賞した。Antonの開発はShaw氏のポケットマネーで行われたとのことである。

Sidney Fernbach賞は、Differential-Algebraic Systemsの数値解法についてのパイオニア的な貢献に対して、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のLinda Petzold教授が受賞した。

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量子コンピューティング

量子コンピューティングについて、Sterling教授は、最初に、Dilbertのカートゥーンを示した。Pointed HairのボスがWallyに、量子コンピュータのプロトタイプの開発は進んでいるかと尋ねる。Wallyは順調と答える。2コマ目ではWallyは、続けて、プロジェクトは、完全に成功とまだ着手もしていないという状態が重なり合った状態にあると説明する。3コマ目ではボスが見せてくれというと、Wallyはそれは難しいと答えるというものである。

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    Sterling先生が示した量子コンピュータに関するDilbertのカートゥーン

閑話休題であるが、次にSterling教授は量子コンピュータの研究開発はすでに小さな努力ではないと述べて、次の図を示した。推定であるが、2015年には、全世界では15億ユーロの研究費が投じられている。予算が大きいのは、米国と中国で、ドイツ、英国、カナダが1億ユーロを超えている。

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    2015年の量子コンピュータに対する。全世界の投資は15億ユーロに達しており、小さな努力ではない。米国と中国の投資が多い

カナダのD-Wave社は量子アニーリングマシンのパイオニアで、175件の米国特許を持ち、50人の博士が働いている。現在販売しているD-Wave 2000Qマシンは同社の第4世代のマシンであり、2000qubitを集積している。D-Waveは、40以上の顧客を持ち顧客との契約総額は7500万ドルという。

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    D-Waveの2000Qは2000qubitの量子コンピュータである。同社は40社以上の顧客を持っている

汎用の量子ビットでの計算を行うマシンの開発は米国が先行しており、IBM Qは20qubitの量子コンピュータをネットワーク経由で使えるようにしている。また、50qubitのシステムを開発している。

GoogleはBristleconeという名前の72qubitのチップを発表している。Intelは49qubitのチップを作った。Microsoftはスケーラブルでフォールトトレラントな量子コンピュータを開発しているという。

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    アニーリングだけでない汎用の量子コンピュータの開発では、IBM、Google、Intelなどが50qubit程度のマシンを作っており、世界的にも先行している

日本は、次のスライドに示すように多くの研究機関が量子コンピューティングを研究しているが、多くは基礎的な研究であるとSterling教授は述べている。

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    日本は多くの研究機関が量子コンピューティングの研究を行っているが、基礎的な研究であるとSterling先生は言う

EUはQuantum Flagshipというプロジェクトを行っており、第3次のプロジェクトでは2台の量子コンピュータを作る計画である。

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    EUは第3次のFlagship Projectで2台の量子コンピュータを作る計画である

中国はQuantum Information Scienceの国立の研究所を作る計画であるが、開所は2020年の予定である。中国は実用的な研究に力を入れており、暗号関係や暗号かぎの量子配送、ステルス機を見つける量子レーダーなどが研究されているという。国際的な特許の取得にも力を入れており、米国とのギャップを詰めてきている。すでに、18量子ビットの間でもつれ状態を作るのに成功したという。

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    中国は2020年に専門の研究所を設立する予定である。実用的な研究が主流で、量子暗号などの研究が盛んであるという。また、すでに18qubitのもつれ状態を作るのに成功したという

ブラックホールの観測

今年の4月10日にM87銀河のブラックホールシャドウの直接観測に成功したことが発表された。M87はおとめ座にある巨大な楕円銀河で、我々の銀河系の5倍の大きさである。しかし、地球からの距離はおよそ5500万光年あるので、超高解像度の望遠鏡が無いと、ブラックホールのような小さなものは見えない。

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    ブラックホールの観測に成功したM87はおとめ座にある5500万光年かなたの巨大楕円銀河である

そこで作られたのが、8台の既設の電波望遠鏡をアップグレードし、開口合成という方法で地球サイズの直径を持つ電波望遠鏡を合成したEvent Horizon Telescope(EHT)である。このプロジェクトの主な出資者は、ヨーロッパのESO、米国のNSFと東アジア天文台で、日本の国立天文台もプロジェクトに参加している。

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    高い解像度を得るため、既設の8台の電波望遠鏡を改造し、8台の望遠鏡の信号を開口合成するEvent Horizon Telescopeを開発した

これらの電波望遠鏡からの信号はTACCのStampedeスパコンで処理されたとSterling先生は書いているが、EHTチームの発表では、マックスプランク電波天文学研究所とマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所にある専用の高性能スーパーコンピュータ(相関器)に運ばれて相関処理を行ったと書いてある。ただし、EHTチームの論文にはTACCのStampedeも使わせてもらったとは書かれている。

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    開口合成には、信号の時間を合わせて相関を計算する必要があり、ドイツと米国の2か所に置いた相関器まで、データを入れたHDDを運んでデータを処理したという。ただしEHTチームの論文にはTACCのStampedeも使わせて貰ったと書かれている

その結果、作られた画像が次のスライドで、ドーナツのように光っているのはブラックホールに吸い込まれるガスが高温になって光を発しているもので、その中の黒いドーナツの穴が光を吸い込んでしまうブラックホールの影である。

なお、ドーナツの下側が明るく見えるのは、ドーナツのガスが回転しており、下側のガスは手前方向に移動し、ドーナツの上側のガスは奥の方向に移動する回転をしているためであると見られる。

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    EHTチームが発表したブラックホールシャドウの画像 (C)EHT Collaboration