インディアナ大学のThomas Sterling教授は、1994年に現在の主流であるクラスタ型のスパコンである「Beowulf」を作り、安価なPCをネットワークでつないでHPCができることを示した、HPC業界では有名なコンピュータ科学者である。
毎年ドイツで開催されるISCでは、Sterling先生が締めくくりの基調講演を行うのが恒例となっており、今年で16回目となった。
この基調講演はこの10年あまりのスーパーコンピューティングを振り返るものであり、ビッグピクチャを述べる。個人で行うのであるから当然バイアスはあるが、意図的にバイアスを掛けているわけではない。内容はハードウェアの比重が高いがソフトウェアについても触れる。また、振り返りだけでなく、トレンドやトレンドが将来に与える影響についても触れると述べて基調講演を始めた。
ISCでは、毎回、テーマが設定される。2005年のテーマは「High Density Computing」で、2006年は「Multicore to Petaflops」であった。このころはPetaflopsに向けてのアプローチが議論された時代であった。そして、2009年にはPetaflopsが達成され、テーマは「Year 1. After Petaflops」となる。そして、2010年は「Igniting Exaflops」がテーマとなる。そして、2013年には「Halfway to Exascale」が掲げられるが、半導体の進歩の鈍化は予想より深刻で、今年2019年になって、やっと「Exascale in the Cross-hairs」になっている。なお、Cross-hairsは銃などの照準である。
2019年の注目すべきトレンドは、
- 米国のSummitが引き続き149PFlopsでTop500の1位となった。
- 設置スパコンの台数、製造スパコンの台数で、中国は米国とのギャップを広げた。
- Armの性能競争に加えてRISC-VもHPCに参戦してきた。
- Exascaleの実現に拍車がかかっているが、まだ、到達できていない。
- マシンラーニングがHPCの位置づけを変えつつある。
- 量子コンピューティングがアクセラレータを加速しつつある。
- ISCの出席者が過去最多で、参加者は70か国以上からきている。
であると述べた。
そして、最初に取り上げたのが、Hewlett Packard Enterprise(HPE)がCrayを買収するというニュースである。ビッグデータのワークロードが大幅に増加していることが、HPEにCrayの買収を決断させたという。このHPEとCrayの開発チームの結びつきは、統合チームをさらに強力にする。
HPC分野は年率9%で成長しており、2021年には350億ドルになると予想されるという。結果として、HPEによるCrayの買収はHPEのビジネスを強化し、顧客にとっても利益になると述べた。
(次回は8月6日に掲載します)