コンタクトセンターとフィールドワーカーをつなぐ業務にiPadを導入した事例が広がっている。iPadのGPS機能を活用してコールセンターがフィールドワーカーの現在地を特定したり、iPadを通してフィールドワーカーと詳細な顧客情報を共有するなど、効果的な業務フローが可能になる。
コンタクトセンター業務のアウトソーシングを展開するプレステージ・インターナショナルは、iPadを活用したコールセンターとフィールドワーカーの連携システムを積極的に構築している。小売企業やメーカー、ECサイトなどを顧客に持ち、コンタクトセンター対応に加えて、フィールド業務にも対応するのが特徴で、業務特化のグループ会社がフィールドワークに対応する。
コンタクトセンターの問い合わせ対応から、現地障害サポートを一気通貫に対応
パークアシスト事業においては、「ゲートバーが開かない」「精算機器が故障」といったエンド・ユーザーからの問い合わせを同社のコンタクトセンターが対応し、緊急度が高いものについては、パーキング保守をカバーするグループ会社のプレミアパークアシストへ取り次ぎ、全国に展開するフィールドスタッフが24時間365日の駆け付け保守対応をする仕組みだ。
「クレームになるケースも多く、顧客企業(パーキング事業者)の信用を低下させてしまう恐れがあるため、とにかく現場に早く駆け付け、正確な作業ができることがパーキング運営の一番大切なポイント」と語るのは、パーキング事業責任者の日岡氏だ。
そこで同社が力を入れているのが、コンタクトセンター業務とフィールド対応(駆け付け対応)のICT化である。コンタクトセンターとフィールドスタッフ、データ分析などを統合した独自システムを構築する同社では、全フィールドスタッフにiPad miniを配付して迅速な駆付け対応を可能にしている。
エンド・ユーザーから、コンタクトセンターに問い合わせが入ると、コールスタッフは、システム上からフィールドスタッフのGPS位置情報を確認し、障害場所に最も近いスタッフに緊急出動を依頼する。コールスタッフが受け付けた問い合わせ内容、障害状況などは、システムを介してフィールドスタッフのiPad miniに情報共有される。
フィールドスタッフはコールセンターからの出動依頼を受けると、「PARSシステム」(同社の独自開発アプリ)を起動し名称か地図画面で駆け付け先のパーキングを検索し、問い合わせ内容や現場設備状況、過去障害履歴を即時に確認して現場に向かう。
GPSを利用した駆け付け時間の短縮や、コールセンターと全国に展開するフィールドスタッフの情報共有による障害対応前の情報確認により、エンド・ユーザーの満足度を高めるのが狙いだ。
報告書をすべて現場で完結し、対応現場の過去履歴も検索可能
「日報や報告書は、事務所に戻ってから作成するという従来型ではなく、現場で報告書を作成し、即日中に顧客企業への保守完了報告が可能です」(日岡氏)
現場では、保守作業を行いながら画面ボタンをタップすれば、「どのような作業をしたか」を簡単に作業報告書として作成できる。文字では表現しづらい説明についてはiPad miniのカメラ機能で撮影し、システム上の報告書にそのまま取り入れることもできる。
「機械の保守操作など、覚えることの多いフィールドスタッフが負荷なく使えるものを目指しました。分厚いマニュアルを読まなければ使えないものは現場に浸透しません。iPad miniは直感的に操作を覚えられるので、フィールドスタッフも興味を持って活用してくれています」(日岡氏)
保守業務終了後、その場ですぐに報告書を送付できるので、事業主へのレスポンスが格段に早くなるほか、事務所に戻ってからの報告書作成が不要となり、フィールドスタッフの業務負荷も低減できている。さらに、現場のフィールドスタッフに「どんなボタンがいいか?」などヒアリングを行い、キーボードを使わなくても報告書が作成できるよう、音声入力機能を取り入れるなど工夫したという。
個々のフィールドスタッフごとに既存の業務スタイルがあるので、いかにタブレットの利用が負担にならないようにするかが重要で、直感的に利用できるiPad miniはシステムとの親和性が高い。
同社の独自システムの「PARSシステム」 フィールドスタッフがワンタップで報告書が作成できるよう日々画面やボタン配置を改善している(システム開発は同社グループの株式会社プレミアモバイルソリューションが担当) |
データ蓄積による「予測の活用」
また、同社が力を入れているのはデータ分析だ。コールセンターについては、独自システムにより問い合わせ内容、顧客管理などシステム管理を10年前より構築してきたが、現場でのデータ積み上げは実は非常に難しかったという。iPadアプリを導入することで、報告書を作成すると「いつ到着したか」「作業時間はどの位だったのか」といった測定しづらいタイムデータが自動で記録できるようになり、現場の貴重なデータの蓄積が可能になった。
「今まで現場でやっていた見えない作業が今後は全部データ化できます。どんなトラブルが多いのか、パーキングごとにどんな特性があるかを分析することで、今後の保守対応の予測が可能となり、サービス付加価値を上げられます。また、どの作業員が一番早く作業しているかといった情報がよりピンポイントに分析でき、ノウハウの横展開を行い業務効率向上できる下地が整いました」(日岡氏)
新人とベテランの平準化を可能にするツール
フィールドスタッフは、緊急な対応を求められる現場へ1人で駆け付けるため、熟練者と新人のスキルの差も課題の1つだ。フィールドスタッフを統括し、多忙の際は現場に出ることもあるというデイビス アリキサンダー武氏はこう語る。
「現場への到着時間から差が出ます。ベテランはすぐに場所を把握して駆け付けられますが、新人は地図を眺めて位置を確認するところからスタートします。現場でも分からないことが多いので、電話で質問をしていましたが、なかなか解答にたどり着けず、解決が遅れてしまうこともありました」(デイビス氏)
iPad miniは、新人スキルの底上げができる心強いツールになった。PARSがあれば、目的地までのルートを簡単に検索できるので到着時間が短縮できる。パーキングごとの過去の対応履歴もPARSに記録されているので、「今では、電話をする前にiPad miniから対応履歴を検索して、ベテランのフィールドスタッフの対応方法を確認する方法に変わってきています。iPad miniなら自分で調べてすぐに回答を得られるので、現場の作業時間も短縮しています」(日岡氏)
フィールドスタッフは、保守作業のマニュアルをバイクに積んで現場に向かうが、今後はiPad miniにすべてのマニュアルを入れて、どの現場のマニュアルもiPad miniから閲覧可能にしたり、作業動画を入れるなど、動画を見ながら現場で作業ができるなど支援ツールとしても役立てたいと日岡氏はいう。
「早く到着できても、すぐに解決できなければ意味がありません。パーキングを素早く稼働可能な状態に復帰させることは、利用顧客様からのクレームを抑えるほか、事業主様にとってはパーキングの稼働率向上となり、顧客満足の向上に繋がります」(日岡氏)
夜間作業時には、iPad用のライトも持参されるというが、独自のシステムとiPadの活用により、多くの企業の裏方業務を日々支える同社の改善は続く。