レンタルユニフォームというユニークなサービスに特化したアラマークユニフォームサービスジャパンでは、営業担当者およびルート・セールス・パーソン(以下、RSP)にiPadを配付して業務プロセスの改革に取り組んでいる。主要株主である米アラマーク社では専用のハンドヘルド端末を利用しているが、なぜ日本法人ではより高機能なスマートデバイスを選択したのか。

埼京事業所の作業風景。ここに集められたユニフォームはクリーニング工場へと送られる(左)。事業所内ではクリーニング済みユニフォームの仕分けが行われている(右)

日本ではなじみの薄い「レンタルユニフォーム」

飲食店や食品加工、医療機関などユニフォームや作業服を着用する業界では、自社購入したユニフォーム・作業服を自前で洗濯して使用するのが一般的だ。この方式では、破損やボタンの修繕、従業員の増減に合わせた在庫調整、汚れ落ちや乾燥のむらなど、運用面でのデメリットは少なくない。

ユニフォームのレンタル業とは、貸出・集配・クリーニング・補修・在庫管理を一括してアウトソースするサービスだ。自社所有に比べトータルコスト削減や管理者の負担軽減といったメリットを生む。しかし、まだ日本での認知度は高くないため、営業担当者はサービス内容を説明するのに苦労するという。

営業本部 営業部 首都圏地区 埼玉セールスオフィス グループマネージャー 關山英希氏

「このサービスをご存じないお客様から、初回訪問時に質問攻めにあうことは多いです」と語るのは、営業部 首都圏地区を担当するグループマネージャーの關山英希氏だ。

一口にレンタルユニフォームといっても、デザインや品質の提案から、貸出し枚数や集配頻度など、さまざまなオプションを用意している。

「お客様の業種業態によってユニフォームに求められるニーズは多岐にわたります。尋ねられた内容をすべて資料で説明しようとすると、紙カタログの量は膨大になってしまいます」

該当する資料を携帯していない場合は、言葉による説明でその場を切り抜け、後日資料を送付するか、再訪するなどのフォローが必要だった。

営業担当者は多様な顧客ニーズをヒアリングして、自社が提供する各種オプションをさまざまに組み合わせたフルカスタマイズのサービスを提案する。こうした独自の営業スタイルを習得して一人前になるには、それなりの年月が必要だ。

管理本部 IT推進部 部長 寺島正美氏

「ベテランと経験の浅い営業担当者のスキルを平準化するという課題がありました。若手のスキルを少しでも早く引き上げる手段の1つとして、情報ツールの活用を検討したのです」と語るのは、管理本部 IT推進部 部長の寺島正美氏だ。デバイス選定に当たっては、iOS、Android、Windowsタブレットを検討した結果、セキュリティ面などの運用管理のしやすさや操作性からiPadを選択したという。

業務改善の中心は、メールとブラウザによるコミュニケーション改革による業務のスピードアップだった。iPadの導入以前、営業担当者はパソコンを携帯せずに外出するのが通常で、連絡手段はフィーチャーフォンの業務用携帯電話のみで、外出中の連絡業務に苦心していたのだ。

「外出中は音声通話が主でした。オフィスのパソコンに届いたメールは携帯電話でも内容を確認できましたが、添付ファイルは開けず、長文を打つのも大変なので、お客様への返信はオフィスに帰ってからの対応でした。オフィスにかかってきた電話のメモを、社内のスタッフがメールで連絡してくれるなど、実質的にフィーチャーフォンのメール活用は社内連絡に限定されていました」(關山氏)

iPad導入によりスマートな営業スタイルが実現

外出の多い営業担当者および承認業務を行う管理職にiPadが配布されたのは2013年3月だった。外出中でもメール送受信やインターネット検索が可能になり、コミュニケーションの迅速化や情報活用のリアルタイム化を提供する環境は整った。

「iPadの導入により業務効率は確実に上がっています」と關山氏は断言する。メールの添付ファイルもiPadから問題なく開けるため、顧客からのメールにその場で返信できる。また、移動などの隙間時間にSFAの入力も可能になった。

「この2つの業務を外出中に処理できるのは大きな効率向上で、帰社後の業務時間は1日当たり数十分ほど短縮しています。また気分的にも、帰社後にやるべき仕事が減っているのは大きな違いです」(關山氏)

商談中に顧客から想定外の質問を受けた際の対応でも、iPad導入後はすべての営業資料を電子化して格納しているので、画像やイラストを使って視覚的に説明できる。後日対応がなくなった分、案件クローズまでのリードタイムは短縮しているという。若手の営業担当者にとっては、資料を使って説明できる範囲が広がることで、経験不足を補う効果にもつながっている。

営業用資料を本部側で制作し、電子カタログの共有アプリ「Handbook」を使って配付する手法を選んだのは資料品質の平準化や最新版への確実な更新を目指したからだ。

「商談の入り口で使う概要的な資料は会社が作成したパンフレットで足りますが、商談が進み、具体的な提案の段階になると、各自がPowerPointで資料を作って対応していました。この方法では、古い情報が残っているなど品質のばらつきが散見されたので、資料配布ソリューションの導入に踏み切りました」(寺島氏)

営業担当者はHandbookに格納された各種の資料を使って商談を進める。携帯できる資料の数に制限がなくなり、想定外の質問にもタイムリーに回答できるようになった

Handbookで配付する資料は、部署ごとのニーズに合わせて本部側で紙資料をPDFに変換して格納している。また、iPadの利用を習慣づけてもらう意図を込め、社内通達や本部長のメッセージ、会議資料などもiPadで確認する施策を実施したという。このほか、地方拠点のスタッフ向けに、テレビ会議システム「V-Cube」も導入した。詳細は以下の動画が参考になる。


iPadのルート・セールス業務への展開も進行中

営業担当者へのiPad導入から1年後、顧客先への集配業務などを担当する約300人のRSPへもiPadを配付し、業務改革に取り組んでいる。

「親会社の米国アラマーク社は、RSPにWindows Mobileベースのハンドヘルド端末を利用しており、当初はWindows系デバイスを検討しましたが、拡張性や通信機能、バッテリー駆動時間などの面で課題がありました。一方、営業に配付したiPadの利便性は実証されていたので、日本ではハンドヘルド端末の代替としてiPad miniを採用しました。ただし、ハンドヘルド端末では標準で備わっている防水性や落としても壊れない堅牢性をiPad miniにも持たせる必要がありました」(寺島氏)

RSPは集配作業で両手を空けておく必要があるため、iPad miniに合うサイズの腰に付ける専用バッグを特注し、市販の防水カバーにストラップを付けてバッグに結ぶという対策を施した。

iPad miniに合わせて特注されたバッグ(上)と市販の防水カバー(下)。ストラップをバッグ内のフックに掛けることで落下防止としている

RSPは1日平均で20~30個所の顧客を訪問して、ユニフォームの集配を行うほか、顧客とのコミュニケーションから潜在的なニーズを掘り起こし、新たなサービスを提案するなど、顧客満足度を高めるのも重要な任務だ。

埼京事業所でアシスタントマネージャーを務める安部真悟氏は、「お客様訪問の際に、ユニフォームの仕様などを訪ねられたときに、以前は手持ちの資料がなければ事務所に問い合わせて返答していましたが、iPadを常時携帯するようになって、カタログ資料に関する問い合わせには、その場でお応えできるようになりました」とその効果を語る。

東日本運営本部 首都圏地区 埼京事業所 アシスタントマネージャー 安部真悟氏

現在の用途は電子カタログを使った顧客への提案や、メールのチェック、SFAへの入力などがメインだというが、すでに基幹システムと連携したサービス向上を目指す自社アプリは完成している。

「RSPにiPadを配付した最終目的は、顧客先での各種作業を電子化することで、顧客満足度を高めることにあります。現在はRSPのデバイス操作スキルを上げるため、一定の準備期間を置いているところです。数カ月以内にはお客様の契約状況をリアルタイムで確認するWebアプリをリリースし、その後は納品伝票や受領サインを電子データ化して、それをメールでお客様に送信できるようなシステムの準備も進めています」(寺島氏)

現場のRSPからも「お客様から契約明細を質問されることはよくあるので、iPadからその場でお見せできるとお客様満足度も上がりますし、RSPにとっても帰社後に調べてお答えする時間を短縮できるので、こうした業務アプリに期待しています」(安部)といった声が上がっている。

将来的には、現金回収業務をiPadによるクレジットカード決済で処理する会計機能など、RSPの業務効率化に向けた施策が企画されている。一般にルート・セールス担当者は専用デバイスを使用しているが、同社の取り組みが成果を上げれば、今後はスマートデバイスへの移行が進むかもしれない。