アベノミクスによる公共事業拡大、2020年の東京オリンピック、2027年開業予定のリニア中央新幹線と、ここ2、3年、建築業界は活況に沸いている。しかしその一方で、資材や人件費の高騰、人材の確保などの課題も内包している。そんな中、東京の下町、墨田区に本社を置く坂田建設は、iPadとクラウド型ストレージサービス「PrimeDrive」でワークスタイルを一新。業務効率の向上を実現した。

iPadの導入を推進した土木事業部の意図

土木本部 副本部長 土木統括部長 鈴木正司氏

「我々の土木事業は、労働安全衛生法及び労働安全衛生法施行令に基づく現場の安全管理が必須の業務です。例えば、下水道工事では、全て地下に埋まっているので、作業している現場で写真を撮影して証拠を残さないと、作業前・作業後の変化は、何がどう変わったのかは目に見えないからです」と話すのは、土木本部 副本部長の鈴木正司氏だ。

「現場の安全管理レポートは、デジカメで現場を撮影、内容を紙に記録して、社内に戻って写真をパソコンにデータ移行、Excelにデータを入力するという手順で行っていました。この作業時間が1現場約30分だとして、1日3現場あると1時間30分かかります。これはかなり効率が悪いので、この部分を効率化できないか、と模索していたところ、iPadとソリューションで実現できると分かり、導入検討に入りました」(鈴木氏)

しかし、導入がすんなり進んだわけではない。当時の状況を、管理本部 総務部部長の池田元一氏は振り返る。

管理本部 総務部 部長 池田元一氏

「土木事業ではiPadの効果が見込めることは理解したのですが、弊社は土木事業だけではなく、建設事業など他の部署もあるため、土木事業の社員だけにiPadを配付するとクレームが出るリスクがあります。とはいえ全社員にiPadを配布しても、効果が見込めていない部署では活用されない可能性が高い。そこで、効果が見込めている土木工事部には全員分、それ以外の部署の部署には、3~4台をテスト導入することで社内調整を図ったのです」(池田氏)

iPadを2014年2月に導入し、土木事業でその効果はすぐに現れる。

「デジカメや紙に記録していた現場の安全管理レポートを、撮影から記録までiPadで完結させることで、二度手間がなくなりました。現場安全管理レポートはiPad上のアプリ『Polaris Office』を利用することで、従来のExcel同様の操作感でiPadに直接入力できます。しかも現場で入力した数値は、社内ISO書式のレポートと同期しているので、たとえば、作業した人数や日時などを現場で入力すれば、レポート用シートに反映されます。現場の記録写真もiPadで撮影し、撮影画像をPolaris Officeに取り込むことでレポートは完成。社内で行ってきた作業を現場で完結できるため、社内の残業時間が大幅に短縮できました」(鈴木氏)

導入効果はこれだけではない。これまで現場に持ち込んでいた膨大な量の紙資料や社内会議の資料などをすべてiPadに入れることで、ペーパーレスのワークスタイルを実現した。

現場の安全管理レポートをiPadで完結できるアプリPolaris Officeの入力フォーマット。現場で入力した内容(左)がISO書式の提出用レポート(右)と同期するため、社内に戻ってレポートを作成する手間を省けるようになった

PrimeDriveによりセキュアな環境でデータ共有が可能に

土木工事の現場には、安全管理レポートのほかにも必要な資料が多い。例えば、分厚い土木工事のマニュアル。土木工事は、工事の種類によって建て付けの長さや太さなどの数値が国によって定められているが、その内容はすべて土木工事のマニュアルに記載されているため、毎回必ず現場に持ち運ぶ。もちろん、現場の膨大な図面も必須だ。こうした膨大な紙の資料は、検索性が悪く、コストもかかり、効率が悪い。

「分厚い土木工事マニュアルは、各現場で必要な部分だけを見ることができればいいのですが、紙の運用ではそれができません。iPadを導入するにあたり、マニュアルや図面、さらには社内会議用の資料まですべてをデータ化し、iPadに移行することで完全ペーパーレスを目指しました。ただ、問題となったのはセキュリティ面です。社内会議の資料などは外部への漏えいを防がなくてはなりませんが、社内のサーバに保存して外部からアクセスするとなると、セキュリティの担保が難しいことがわかりました」

そこで、同社が選んだのはソフトバンクテレコムのクラウドソリューション「PrimeDrive」だ。

「PrimeDriveではデータがクラウド環境に置かれ、暗号化されるためセキュリティも万全です。しかもデータの共有などの必要な機能が備わっていて、管理方法もわかりやすい。それが選択のポイントでした」(池田氏)

従来は、現場に行くときに膨大な資料を持ち運んでいたが、現在は紙資料や図面などをPDF化し、iPadのPrimeDriveに保存する。これを土木事業部の全員が実践し、ワークスタイルは大きく変わった。

「今では現場ごとにフォルダを作り、データを一元管理しています。iPadで撮影した現場写真やPDF化した図面にメモを書き込んだりして、レポートも見やすくなりました。社内会議の資料もPDF化してPrimeDriveで共有していますが、共有を部内で制限しているため、他部署に見られる心配もありません。こうした管理を行う上での設定がわかりやすいのもPrimeDriveの特徴ですね。今ではPrimeDriveが弊社の新しいワークスタイルの核になっています」(鈴木氏)

iPadで撮影した現場写真や図面データなどは、すべてクラウドソリューションのPrimeDriveに保存。高度なセキュリティを維持しつつ、共有設定などの管理がわかりやすいのが特徴だ

ペーパーレスのワークスタイルに変わった効果は、社員の働く姿勢にも表れていると鈴木氏は続ける。

「ペーパーレスで大きく変わったのは社員の意識です。iPadとソリューションにより業務負担が減っただけでなく、最先端の働き方をしているという意識が出てきて、社員自らiPadを使っていろいろな活用方法を積極的に取り入れるようになりました。こうした社員の姿勢を変えられたことも成果のひとつだと思います」(鈴木氏)

同社は自社のホームページも一新した。人材確保のために大学などで行う会社説明会では、これまで紙のカタログを配付していたが、今年から自社ホームページで概要を説明するスタイルに移行した。会場ではプロジェクターで投影し、学生はプライベートのスマートフォンなどで操作しながら聞いているという。

「これまで、配付したカタログと同様の内容を説明しても途中から明らかに学生達が飽きてしまうのが分かっていました。今年の4月からホームページを操作しながら説明するスタイルに移行すると、学生の反応が変わり、気になる学生はプライベートのスマートフォンなどで、ホームページをチェックし始めていました。紙の資料が手元にないほうが、情報を取りに行く、という行動に出るのです。これもペーパーレスの効果といえるかもしれません」(池田氏)

GPS Punch!でさらなる業務効率化を実現

さらに坂田建設では、「GPS Punch!」というソリューションを導入することで、さらなる業務効率化を実現した。

「土木事業部の課題のひとつとして、夜間に行う電線工事の業績悪化がありました。電線工事は、安全面の観点から、国に定められた距離よりも近い範囲で同時に工事できない決まりがあるのですが、社内で事前に情報を共有しておらず、現場での同時作業が滞っていることが分かりました。これは明らかに効率が悪いので、『GPS Punch!』というソリューションを導入し、業務の効率化に取り組みました。iPadでGPS Punch!を利用すれば、工事の場所や時間、内容などが地図上に表示されるため、現場での同時作業が滞ることがなくなりました。無駄な人件費を省けるようになったのです」(鈴木氏)

課題を明確化すれば、iPadとアプリで多くの課題を解決していくことができる。同社は建設事業でもiPadとアプリで課題を解決していく検討を始めた。坂田建設はワークスタイルを進化し続けることでさらなる業務改革に取り組んでいく予定だ。