携帯電話が普及しても、各デスクに置かれた固定電話がなくならない企業は多い。外出中の営業職の社員などに代わって、アシスタントが会社宛にかかってきた電話に対応し、メモを残したり社外にいる社員の携帯電話宛にメールや電話で言づてする…といったことはよくあるだろう。
取引先に伝えてある固定電話番号に加えて、常に持ち歩いている携帯電話番号も登録してもらいたいところだが、携帯番号がなかなか定着せず、固定電話にかかってくるケースは多い。また、名刺に携帯番号を書いていなければ、多くの取引先に個別に携帯番号を伝えるのも一手間だ。自席にいなくても固定電話番号宛の電話に対応したい、こんな課題を解決する仕組みがあるのをご存知だろうか。
海外発の人気ドラマや映画、リアリティショーなどのエンターテイメント番組、また「National Geographic Channel」では科学、自然、歴史を中心としたドキュメンタリー番組、さらには「FOX SPORTS」では野球やサッカーなどのスポーツコンテンツを日本で放送するFOXインターナショナル・チャンネルズ(以下、FOX)。同社は、iPhoneで固定電話番号での発着信を実現する「Bizダイヤル」を導入。外出の多い社員だけでなく社内で移動が多く席を離れがちな社員の利便性も向上したほか、携帯電話の通話料は導入前との比較で約4割減とコスト削減も実現した。
社員数増加に伴う設備投資の負担軽減策とは?
海外サッカーや日本のプロ野球などのスポーツコンテンツを扱う「FOX SPORTS」を2013年3月から開始した同社。この新たな取り組みに際し、一気に40名ほど社員を増員した。もともと外出の多い社員や役員には携帯電話を配付し、社内ではIP電話を利用していたが、このIP電話は1台あたりが10万円近くと高額だった。一般電話と違って全国一律料金で利用できる外線と、内線の両方が使えるほか、設定したグループに属する端末のみに着信させるグループ着信機能や複数人と通話できる会議通話、ディスプレイへの着信元情報の漢字表示など、多機能さと引き換えの設備投資だ。新規事業立ち上げに伴う大幅な増員では、一気に費用がかさんでしまう。
この課題が浮上する1年ほど前、固定電話と携帯電話の見積もりを試算してもらう機会があった。
「IP電話とフィーチャーフォンの併用では、この2つの間で通話料が発生していました。それに比べてソフトバンクテレコムの固定電話サービス『おとくライン』とソフトバンク携帯電話を併用した場合、固定電話と携帯電話間の通話料が無料になりコストダウンが見込めました」と、同社の通信インフラを刷新するきっかけを振り返るのは、同社管理部 人事総務マネージャーの山澤季夫氏だ。
そして、社員数の増加に伴うIP電話の増設にかかる設備投資について思い悩んでいた際に知ったのが、外線電話番号をスマートフォンで利用できる「Bizダイヤル」というおとくラインの付加サービスだった。
携帯電話で内線や外線の発着信をしたい場合に、検討したい事項がいくつかある。まず、内線番号を残したいかどうか。残す際には、社外でも利用するニーズがあるかどうか。たとえば、拠点間では内線通話を携帯電話で行いたいが、社外での利用は不要ならば無線LANを利用する内線化ソリューションで解決できるだろう。一方、外出中の社員とも内線番号を利用したいなら、企業の電話交換機(PBX)と3G回線を接続できるサービスを探す必要がある。
外線番号宛にかかってくる電話を携帯電話に着信させたい場合は、内線番号ではなく外線番号を携帯電話で受けることになる。FOXのニーズはこのケースに合致する。
同社の場合、外出もなく自席にいる時間の多い社員には既存のIP電話を残したかったため、PBXはなくせない。他方、増加する社員向けに発生するIP電話増設といった設備投資を抑えたかったため、高額な初期費用や継続的な保守が必要ないクラウドPBXを利用した、携帯で外線電話番号での発着信が行えるサービスが求められていた。
固定電話番号を持ち歩けるメリットを社内外で実感
専用アプリケーションを利用することで、固定電話番号宛にかかってきた通話をiPhoneで取ることができ、発信でも相手に固定電話番号を通知できるのがBizダイヤルだ。この際は固定電話回線を利用するため、通話料は固定電話と同等となり携帯電話の通話料と比べて安い。加えておとくライン同士や、おとくラインとソフトバンク携帯電話間が通話無料なのと同様に、Bizダイヤルとおとくライン、ソフトバンク携帯電話間の通話は無料となる。
「コストメリットのほか、すでにおとくラインを利用していたので、手間なく固定電話番号を変更せずに社内外で利用できるのが魅力でした」(山澤氏)
営業職の社員や役員が外出中に固定電話番号での通話が可能になったほか、本社内にいる社員間でもBizダイヤルが利用されている。スタジオ、編集室、会議室や自席が5つのフロアに点在するため、自席にいない時間の長い制作系のスタッフもBizダイヤルを活用するという。
「デスクにある電話が鳴れば当然、席にいないと取れません。ところがBizダイヤルではデスクにあった固定電話と同じ番号のまま、電話は手元のスマートフォンにかかるのでどこにいても対応でき、取り損ねや取り次ぎ業務がなくなりました」(山澤氏)
制作系の社員は1日のほとんどをスタジオや編集室で過ごすこともあり、外出の多い営業職と同じように席にいない時間が多くなりがちだ。もし電話に出られなくても、着信履歴はスマートフォンに残るので、すぐにかけ返すことができ対応スピードが向上したという。
Bizダイヤルのテスト導入段階でAndroid端末とiPhoneを比較し、より使い勝手の良かったiPhoneに機種変更した同社。
「弊社のスタッフはテレビというクリエイティブな業界ゆえか、特に、プライベートでもiPhoneを利用している社員が多かったのです。そのためiPhoneは使い慣れた端末でもあり、切り替えたときには使いやすいと好評でした」と、山澤氏は社員の満足度を実感している。
最小限の手間でコスト削減と利便性向上が実現
Bizダイヤルの付加サービス「共有電話帳」は社員の氏名、組織名と電話番号をWeb上で一括登録すると、スマートフォンの専用アプリケーション経由で登録した内容が見られる。Bizダイヤル導入前、社員の連絡先はExcel表で管理し、携帯の電話帳への登録は個人に委ねられていた。社員の異動や退職で担当者が変更になれば、連絡先を調べるにはパソコンでExcel表を確認したり同僚に聞いていたが、共有電話帳を利用することで、社員全員の所属部署や番号がiPhoneで検索可能になった。万が一携帯電話が紛失・故障してしまった際は新しい端末で電話帳の登録をやり直さなければならなかった手間も、共有電話帳を利用することで解消する。
「Bizダイヤル導入時も、共有電話帳の設定にも申込書と電話番号のリストを準備するくらいで手間がかからず、スピーディーな立ち上げが可能でした。『思い立ったら即行動&実現』というFOXのカラーにあった対応ができたと思います」(山澤氏)。
そして、コスト削減効果もあったという。前述のとおり携帯電話の通話料より固定電話の通話料のほうが割安なため、Bizダイヤルを利用した固定電話番号での発信が増えたことで通話料削減に成功したのだ。
「携帯電話の通話料は導入前と比べての約4割削減されました。この効果を社内で周知して、発信するときは固定電話料金が適用されるBizダイヤルの番号をなるべく利用したいと思っています。Bizダイヤルの番号と、自席にいることが多い社員の使っているIP電話の番号、そして携帯電話の番号すべてが共有電話帳で見られるので、発信時にはBizダイヤルの番号があればそれを使うよう促進します」(山澤氏)
自席から離れた場所での固定電話番号による通話を実現し、Bizダイヤルからの発信が増えることで今後さらなるコスト削減が見込まれる。企業の内線や外線を受けるソリューションとしてiPhoneを活用する事例はこれからも増えていくだろう。