iPadは画面の大きさや鮮やかさが評価され、発売当初から業界を問わず多くの企業でカタログツールとして採用されている。美容院でもヘアカタログや色見本として活用されるケースは多い。そんななか東京と神奈川を中心に約20店舗のカット専用サロンを展開する株式会社トライアングルは、遠隔監視システム「i-Next」と組み合わせて店舗管理にiPadを利用。教育ツールとしてもiPadを活用し、美容業界でも先進的な取り組みにより月間接客人数の目標達成期間が2分の1に短縮されるといった効果を生み出している。

「カットだけでいい」「染めたいだけなんだけど…」などの顧客ニーズに応えてカット専門店の「it’s!(イッツ)」や「ciao!(チャオ)」、カラー専門店「Re:Touch(リタッチ)」などを運営する同社。

たとえば、カット専用サロンではメニューをカットとブローのみに限定し、来店時はタッチパネル式の端末で受付登録してもらい、有人の受付カウンターをなくすことで1,300円~1,500円という低価格を実現している。受付登録すると「お呼び出し予定時刻」が画面に表示されるため、待ち時間をサロンの外で過ごすことも可能だ。順番がくると担当となったスタイリストによってブースに案内され、施術から会計までがブース内で行われる。

三軒茶屋店の待合スペース(左)、施術から会計までが各ブース内で行われる。写真は溝ノ口店(右)

 

細部まで鮮明な画質が決め手、i-Nextを即導入

「カット専門店で低価格での提供を行っていると、お客様から『衛生管理は大丈夫?』といったお声もいただきます」と話すのは、営業サポート チーフディレクターの吉原孝治氏だ。

そのため同社ではお客様ごとに、はさみなど肌に触れる器具のエタノール消毒を義務付け、こうした店舗の品質管理徹底のため防犯用カメラシステムを以前から利用していたが、使い勝手には課題もあった。

営業サポート チーフディレクター 吉原孝治氏

「たまたま参加したセミナーで、遠隔監視システム『i-Next』とiPadの組み合わせを見て、これはうちで使えると確信しました。今まで使っていたものと比べて、課題となっていた画像の鮮明さが圧倒的によかったです」(吉原氏)

各店舗に1~2台ずつ設置されたi-Next のネットワークカメラを通じて、iPadで店舗の様子を確認できる。管理職は1人1台iPadを持っており、i-Next専用アプリを通じて拡大縮小、左右にカメラの向きを振るパンや上下に動かすチルトの操作を行いながら消毒などのオペレーションや店舗の清掃状況をリアルタイムで見られるのだ。

また、店舗の各施術ブースには会計システムを利用するためiPhone、iPad、iPod touchのいずれかが設置されているが、動作に不具合があると吉原氏に連絡が入る。

「以前は移動中であれば電車を降りて電話対応していましたが、口頭では状況が伝わりづらく苦労していました。今ではi-Nextのカメラを拡大すると、小さなiPhone画面でも文字まではっきり見えます。どこにいてもすぐ映像で不具合を確認でき、的確な指示が出せるようになりました」(吉原氏)

i-Nextのカメラでは小さなiPhone画面の文字も鮮明に読める(左)、店舗の様子も一目瞭然。1タップで画面の拡大縮小などが行える(中央)、天井に設置されたi-Nextのネットワークカメラ(右)

店舗の備品が破損した場合の修理でもi-Next が活躍する。カメラをズームして破損個所を確認して撮影し、その画像付きでメーカーに修理を依頼できるのだ。修理中や完了の状況もカメラで確認できるので、店舗に足を運ぶ手間が省け、遠隔地からでも対応可能になった。

モチベーションアップにもi-NextとiPadが貢献

管理職はiPadから自分の管轄する店舗の朝礼風景もチェックする。担当店舗は5~6店あり、1日に全店舗の朝礼は回れない。i-NextではiPadに映し出される画面を分割表示することで同時に複数店舗の様子も見られるので、もし元気のない店舗があればすぐに電話できる。開店前や閉店後に店内の清掃や備品チェックを行う環境整備中に私語などが目立つときも電話で注意ができるので、サロンでは常にいい緊張感が保たれている。

カメラは1つのブースを集中的に映すようにも調整でき、研修期間を修了してサロンデビューした直後のスタイリストが入っているブースを見て、オペレーションミスがないかなどを確認できる。

常務取締役 営業本部長 伊藤彩氏

「デビューして接客している姿を、同期でまだ研修中のメンバーに見せ、刺激を与えるといった使い方もします」と話すのは、常務取締役 営業本部長の伊藤彩氏。

同社では約7カ月で研修期間を終えてデビューできるような教育プログラムを考案。これは3~5年のアシスタントを経てスタイリストになる他のサロンと比べて極めて短期間だ。日中は店頭でのアシスタント業務、朝や夜に練習を行う通常のサロンと違い、カットとブローに特化して受付などもシステム化している同社では、店頭でのアシスタントが不要なため、集中的な研修が可能なのだ。

「研修期間中は、メンバーに1人1台iPadを貸与します。若手はこういったツールをすぐに使いこなせますし、楽しんで使ってくれます」(伊藤氏)

画像共有ができるiCloudのフォトストリームを使って練習でカットした髪型を研修生同士でシェアしたり、施術中の姿を動画撮影してのフォームチェックなどが手軽にできるiPadは研修生の必須アイテムになっている。

視覚的な指導で目標達成期間が2分の1に短縮

株式会社トライスターアカデミー 人材開発課 チーフディレクター 荻須靖氏

「iPadを使い始めてからは、より視覚的にわかりやすい指導ができ、理解度が深まっています」と教育面での効果を語るのは、株式会社トライスターアカデミーの人材開発課 チーフディレクター、荻須靖氏。

研修生へは、髪型の作り方を教えるのではなく、基本的なカットの仕方をまず教えるという。その基礎の組み合わせでさまざまなスタイルが作れるため、どう組み合わせればスタイルが作れるかを自ら考えてカットすることで応用力が養われ、デビュー後に即戦力になるのだ。

「デビュー後、最初のうち1日に担当するお客様は10人程度でしたが、iPadを使った指導を始めてからは16人ほどを担当できています。また、以前は月間380人のお客様を担当する、という目標を1年かけて達成していましたが、半年程度で達成できるようになっています」(荻須氏)

アプリを駆使した指導がその効果に貢献し、目標達成期間は2分の1ほどに短縮されている。視覚的に理解しやすい指導方法で習熟度が高まり、短時間で要望どおりのヘアスタイルに仕上げられるため1日により多くの施術をこなせるのだ。たとえば画像変形アプリ「FaceGoo」では、仕上がりイメージを具体的に提示でき、画像への書き込みによりわかりやすい指導が実現している。

もとの画像(左)を変形し、視覚的な仕上がりイメージを提示できる(中央)。また画像への書き込みも可能(右)

カットモデルの情報管理にもiPadが用いられる。氏名や年齢などが書かれたカルテをスキャナアプリでiPadに保存し、仕上がりのヘアスタイルの画像と共に「Dropbox」などで管理しているという。以前は1台しかないパソコンを全員で共有していたのでパソコン待ちの行列ができていたというから、運用面での効率化も図られている。

広がるiPad活用、社員育成の手助けに

「カット以外のメニューも提供するフルサロン『Oeuf (ウフ)』では頭皮チェックやクレジット決済にもiPadを利用しています」(伊藤氏)。同社では店舗管理や教育面以外でもIT活用に積極的だ。

代表取締役の前島勝弥氏はiPadを普段の業務に活用する様子を、次のように語る。

代表取締役 前島勝弥氏

「i-Nextのカメラを通じてiPadで店内の様子を見るだけでなく、月に一度、各店舗をまわってサロンの状況をチェックし、結果を『LINE』で共有しています。『ここにホコリがありました』『●●が出しっぱなしでした』といった改善点を写真付きで報告したり、『この店舗は満点でした!』などの激励のコメントをします」

社長が各店舗に足を運ぶ月に一度の環境整備点検は点数制で、店長から新人まで皆が社長の言葉を直接受け取れるため、社員のやる気にも繋がっている。

こうしたiPadのさまざまな用途は現場での試行錯誤が実って現状の手法にたどりついている。「すぐに行動」「考より行」という前島氏の方針のもと、今後も社員のアイディアが迅速に実行に移されて広がりを見せそうな同社のiPad活用に注目したい。