P&GがiPad導入でビジュアルプレゼンテーションを実現(動画付)

パンパース、アリエール、SK-IIなど幅広い商品で知られる世界的な消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(The Procter & Gamble Company)は2012年、全世界のサロンプロフェッショナル事業の営業担当者にiPadの導入を決めた。同社の日本法人であるプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(以下、P&Gジャパン)のサロンプロフェッショナル事業でも、iPadを活用した営業手法の改革、業務の効率化に着手し、成果を上げている。

グローバルでのiPad導入を機に日本でも導入を決定

iPadの世界的な導入を決定した目的は、生産性向上の実現だった。紙資料による営業スタイルをiPadを使ったプレゼンテーション手法に切り替え、受注もiPadを使ってその場で行う。これによりグローバル規模での徹底した生産性向上を目指す方針だ。

ところが、日本ではグローバルの展開のアイデアをそのまま推進できなかったと語るのは、P&GジャパンでiPad展開を指揮してきたサロンプロフェッショナル事業 営業本部 東日本営業部 北日本支店 支店次長 横溝一朗氏だ。

「海外ではWella(同社が展開するブランド名)営業担当者が美容室から直接注文をいただくスタイルなので、完全ペーパーレス化の方針は効果的だと思います。しかし日本では、代理店様を通じて取引を行うスタイルであり、私たちは美容室から直接注文をいただくことはありません」(横溝氏)

このような取引形態や、日中忙しく働いている美容師を相手にしている営業スタイルからして、美容室に紙の資料を置いていくプロセスはどうしても外せないと横溝氏はいう。

「iPadで商品説明をした後、紙カタログをお渡ししています。後日、美容室のスタッフ様が代理店様へ商品を注文する際には、その紙カタログを見て商品を指定してもらいます」(横溝氏)

そこでP&Gジャパンでは、営業提案力向上や業務効率化を目的にiPad活用を進めることにした。同社のサロンプロフェッショナル事業営業担当と、トレーナーと呼ばれる美容技術を習得したスタッフ、計150名へのiPad配付が決定し、展開に向けたプロジェクトが発足したのは2012年12月のことだ。

商品イメージを伝えることが困難

サロンプロフェッショナル事業では、美容室向けのWellaブランドを活用した最新のヘアデザインの提案や、その技術を美容室のスタイリストに提供することで売上促進を行っている。

髪型には、毎年流行のデザインや色味がある。美容室では、そういった流行を取り入れ、顧客に新しいヘアデザインや技術を提案できれば売上拡大につながる。

「流行のヘアデザインのアイデアをご提案したり、その作り方やヘアカラーリングの技術を美容室のスタッフ様へお伝えするなかで、弊社商品の使い方も説明しています。美容室のスタッフ様がお客様にヘアカラーなどをされる際に弊社のヘアカラー商品を使ってもらえるよう働きかけています」(横溝氏)

だが、ヘアデザインやヘアカラーリング技術といったビジュアル要素は、営業担当が紙の資料でいくら説明しても、美容室のスタッフに具体的なイメージが伝わりにくい。商品のプレゼンテーション方法には従来から悩みを抱えてきたという。

同社では、ヘアデザインやヘアカラーリング技術を美容室に提案するための「勉強会」を定期的に開催し、2時間ほど時間を掛けて技術を実演している。最初に、営業担当がヘアデザインやヘアカラーリング技術といった提案内容を口頭で説明して「勉強会」のアポイントを取り、後日営業担当がトレーナーと呼ばれる美容技術を備えたスタッフと共に美容室を再訪している。

「最初に説明にうかがった段階では、美容技術に関する具体的な内容を伝えることができず、『詳しくは、後日開催する勉強会でご理解を深めて頂きます』とご案内するのが通例でした」(横溝氏)

iPad導入でビジュアルプレゼンテーション実現

そこに日本でもiPadの配付が決定した。併せて展開されたのが、同社のオンラインストレージに格納されている営業ツールをiPadにダウンロードし、オフラインでも利用可能にする「Binder」アプリだ。

「このツールにより、営業方法が大きく変わりました。美容室を訪問した際、iPad上でヘアデザイン、色味、技術の解説動画などを見せながら説明できるので、伝えたかった情報が美容室のスタッフ様に一目瞭然で理解してもらえます」(横溝氏)

今では、解説動画を見せながら具体的なプレゼンテーションができるので、商談時に伝えられる情報精度が大きく向上した。

また、営業に必要な資料をiPadにダウンロードして持ち運べるので、美容室からのさまざまな質問にもその場で回答可能になり、営業効率が上がったと営業担当は口を揃える。伝達できる情報量は格段に増え、営業品質も改善した。

実際の活用方法は以下の動画の通りだ。

隙間時間活用で1日2時間の業務時間短縮

同社では、営業担当者にはオフィスレス・ワークスタイルを徹底している。いくつかの都市にトレーニングセンターとミーティングルームはあるが、オフィスに相当するものはなく、月に1度の定例ミーティングで全員が顔をそろえる以外は、出社義務もない。事務仕事は家でするのだ。

オフィスに集まって会話したり、日々顔合わせることが少ない同社にとって、iPadを使ってレスポンスよくメール応答ができるのは革新的な変化だったという。導入前は、美容室で「勉強会」を終えた22～23時の帰宅後、ノートパソコンを開いてメール処理を始めることはよくあったが、iPad導入により商談の合間にメールを処理できるようになった。

本社や上長への報告業務は主にExcelを使う機会が多い。そこで、iPhone・iPadでMS Officeドキュメントの閲覧と編集ができる「ポラリスオフィス(Polaris Office)」アプリを導入し、報告処理も隙間時間にiPadで処理できるようにした。

「会社の指示や情報への返信を隙間時間に次々こなしていけるので、家に帰ってノートパソコンを開く時間が激減し、1日1～2時間の業務時間短縮が実現できました」(横溝氏)

美容室でもiPadを使った新しいカウンセリングスタイルを導入

P&Gジャパンでは、美容室向けに独自開発した「Smart Education」アプリを無料で提供している。

「美容室のスタッフ様がお客様にヘアデザインのご提案やヘアカラーのカウンセリングに活用できるアプリです。同時に、わたしたちが美容室のスタッフ様へ説明する資料も格納しています」(横溝氏)

「Smart Education」には、指で画面をスライドさせると、360度回転して立体的にスタイリングをイメージできる機能や、ヘアカラーを色味の系統ごとに30%ミックス、50%ミックスと、濃度で確認できる機能があり、立体的なヘアデザインやヘアカラーアレンジ後のスタイルを確認できるので、より具体的なイメージ提案が可能になる。

美容室で顧客にカウンセリングを行う際に困るのが、ヘアカラー含めたヘアデザインの施術は洋服のように試着できない点だ。仕上がるまで顧客はイメージでオーダーするほかない。

「特に、カラーリングの提案は、お客様はイメージがわきにくい。美容師側で、明るすぎない色、今とあまり変わらないイメージといった程度の説明しかできず、もどかしさがありました」と語るのは、「Smart Education」を導入した美容室、「フレンズ・ドゥーブル・手稲店」の店長 山名高典氏だ。顧客にカラーリングの提案をしても、「そんな色味にしたことがないから似合うかわからない」と仕上がりをイメージできないためにちゅうちょしてしまうケースも多かったという。

「『Smart Education』を使って説明すると、ビジュアルとしてスタイルや色の組み合わせを提案できるので、非常にイメージを伝えやすい。以前なら、『その色はちょっと…』としり込みしていたお客様も安心してチャレンジされています」と、山名氏はその効果を語る。

「ご来店いただくたびにカットやヘアカラーのアレンジで、お客様にワクワク感や新鮮な刺激を提供できるのは嬉しいことです。iPadはお客様の勇気を後押ししてくれるツールですね」(山名氏)

さらに、「Smart Education」には、美容室・スタッフ向けの専門技術を動画で紹介するコーナーもある。

「技術習得しようと思ったら、就業前や後に美容室で教えてくれる人を捕まえて、技術を学ぶしかないのが常識でした。しかし、動画なら休憩時間や、自宅のちょっとした空き時間に再生して自習できる。技術動画は、スタイリストがみれば一目瞭然の分かりやすい内容になっていて、技術習得に非常に効果的です」(山名氏)

iPadの活用により実現したプレゼンテーション方法は、営業担当と美容室間、美容室と顧客間のコミュニケーション促進に大いに役立っている。より具体的なイメージの提供が、そのまま顧客満足や売上拡大につながる美容業界の主力コミュニケーションツールとして、今後各地の美容室で見かける日も近そうだ。