コルセット製造所としてドイツで1886年に誕生し、トリンプ・インターナショナル・ジャパンとしては2014年に50周年を迎える同社は、「天使のブラ」「恋するブラ」といったヒット商品を生み出している。同社は、iPad miniを使った店頭でのコンサルティングにより、顧客ごとにフィットしたアイテムを薦めるための提案力、コミュニケーション力を高めた。

東京都中央区築地にあるトリンプ本社内の展示スペース

クリエイティブコミュニケーション&マーケティングサービス部 インストア・エクスペリエンス課 マネージャー 恩田佳未氏

下着選びでは、季節に応じたトレンドだけでなくサイズ選びや、着けごこちが重要になる。採寸やフィッティングを行い顧客の体型に合った商品の提案を行うには、店頭に立つアドバイザーの接客スキルが求められる。

「個人差のない、ブランドとして均一なレベルは絶対条件として、それ以上のコンサルティングが必要とされます」と、アドバイザーに求められる資質を語るのは、同社クリエイティブコミュニケーション&マーケティングサービス部 インストア・エクスペリエンス課 マネージャーの恩田佳未氏。

シンガポールのトリンプでiPadでの接客が始まったのを機に、日本でのiPad導入検討が始まった。

接客ツールの決め手「YSIOA体型診断」

トリンプではYSIOAという独自の体型診断を行っている。顧客を採寸し、数値をグラフ化した結果から、アルファベットの形にたとえた5つの体型にあてはめ、タイプを診断する。従来はこの診断を紙のリーフレットを用いて行っていた。

「リーフレットで診断まではできますが、お薦め商品や着用イメージまでは掲載していないので、診断のあとに何を提案するかは個々のアドバイザーの判断に委ねられていました」と、恩田氏は導入前を振り返る。

このYSIOA体型診断は、「ビジュアモール スマートカタログ」を用いてアプリ化された。iPad miniでの接客を開始してからは、診断から製品の紹介までを一定の流れで行えるようになったという。

クリエイティブコミュニケーション&マーケティングサービス部 インストア・エクスペリエンス課 鐘ヶ江亜希子氏

同社クリエイティブコミュニケーション&マーケティングサービス部 インストア・エクスペリエンス課の鐘ヶ江亜希子氏は、アプリケーションの特長を次のように説明する。

「採寸した数値は選択肢から選ぶ方式になっており、入力が終わるとグラフが自動的に生成され、タイプの診断結果が画面に表示されます。製品画像を、同一画面上に表示された女性のシルエットにドラッグすると、着用中の画像に差し替わるなど体験型のツールになっています」

紙に数値を書き込んで線を引き、グラフを描く手間が省け、顧客と一緒に楽しめるコンテンツに仕上がっている。導入効果を把握するため、同社では社内アンケートを実施。約8割のアドバイザーが「iPad miniを接客に用いたことで顧客の興味や関心が向上した」と実感しているとの結果が出た。

iPad mini導入前の紙のリーフレット

アプリ化されたYSIOA体型診断では、数値を選択肢から選んで入力可能(左)、診断結果画面(右)。画面右側に表示された製品を女性のシルエットにドラッグすると、着用中の画像に変化する

カタログとしてではなく、接客に使うコンサルティングのツールとしてのiPad mini利用は業界初だという。

「iPad miniで診断から製品の紹介までできるようになったことで、社歴などによる接客スキルの差がカバーされていると思います。アドバイザー向けに行ったアンケートでは『ブラジャーだけでなく、体型を整えるためのガードルやシェイパーなど、お客様の体型に合った商品を具体的に提案できる』といった声もありました」(恩田氏)。

適したアイテムだけでなく、コーディネート提案できる品数が増え、売上向上にも繋がっているという。

iPad miniを使った接客風景

女性アドバイザーに負担のないiPad mini

「女性のアドバイザーがフィッティングルームなどで立ちながら持って接客するため、持ち運びが負担にならないよう、肩がけのスタイルなどいろいろと検討しましたが、操作性と重さの面でiPad miniを選択しました」(鐘ヶ江氏)

上層部でiPad導入が決定されてからわずか半年足らずで店頭での運用をスタートした同社だが、その間に講習も行われた。

「iPad miniの基本操作のほか、コンテンツの操作説明で計3時間ほどの講習をしました。iPad mini用に新たなコンテンツを作るのではなく、既存の紙のリーフレットと同じ内容でアプリ化したので、浸透しやすかったと思います」(恩田氏)

現在では約100台のiPad miniが全国の店舗で稼働している。YSIOA体型診断のほか、「3Dフィッティングやパーソナルカラーのアプリケーションも用意しました」(鐘ヶ江氏)

3Dフィッティングはブラジャーなどの着用時、「ストラップはゆるくないか?」「くいこんでいないか?」といった項目をチェックしていき、改善点を見つけるツール。

「採寸した数値が同じでも、体が平たい方や厚みのある方など、体型はさまざまです。紙のリーフレットより画像で分かりやすく表現できることで課題が見つけやすくなり、お客さまへの最適な商品の提案に繋がっています」(鐘ヶ江氏)

現状では百貨店のみで行われている「パーソナルカラー」は、肌や髪の色を入力すると似合う色を薦めてくれるアプリケーションだ。こちらも顧客と一緒に選択肢に回答していく形式のため、「『会話のきっかけとなり、商品を紹介しやすくなる』といった現場の声もあります」(恩田氏)

以前から使っていた3Dフィッティングの紙のリーフレット(左)、チェックポイントを文字だけでなく視覚的に確認できる3Dフィッティングのアプリケーション(右)

現場の意見を取り上げ、より使いやすいコンサルティングツールに

今後の展開については、恩田氏が次のように語る。

「スピード重視で短期間に導入したため、これからは現場の声を聞いてアプリケーションを改良していくフェーズだと思っています」

アプリケーションを活用しているアドバイザーでは一定の効果が出ているのに対し、接客のどのタイミングで使うかに戸惑いのあるアドバイザーもいるという。最低限の操作は浸透しているため、これからは接客フローのなかに落とし込んでいく計画だ。

その対策としては「ロールプレイングの動画をiPadに入れることも検討しています」(恩田氏)

アドバイザーからの要望が多かった顧客管理システムとの統合などもいずれ実現したいという。

「フィットした下着をつければボディラインは美しくなり、自信に繋がります。女性の美を応援するのが弊社のビジョンです」(恩田氏)

顧客の美しさをプロデュースするためのコンサルティングツールとして、今後もiPad miniが役立つだろう。