明治42年から100年以上にわたって倉庫業から港湾運送、陸上・航空輸送などで日本の物流インフラを支える三井倉庫。同社では固定電話回線の見直しとともにグループ全体で約1,200台のiPhoneを導入し、社内の通信環境を整備して業務効率化に成功した。
同社は、2013年度スタートの中期経営計画「MOVE2013」にて、グローバルに展開する顧客を支援すべく、アジア・パシフィック地域への集中投資を決めた。中国やタイ、インドネシアなどの成長著しい地域に新規物流施設を建設し、海外に保有する倉庫の延床面積を国内とほぼ同じにするという。
アジア・パシフィック地域にて20年以上のオペレーション実績を持つ同社は、従来の倉庫業のビジネスモデルから脱却し、グローバルな物流会社を目指している。
こうした物流インフラを支える同社にとっては、災害時などの緊急事態にあっても事業を維持し、安定したサービスを提供することが必要不可欠だ。いつでもどこでもコミュニケーションできる環境を構築すべく、固定電話回線を含めた抜本的な通信インフラの強化を決定。現在は、1,200台ものiPhoneを見事に運用している。
固定電話回線の見直しとともにグループウェア、業務用携帯電話も一新
固定電話のデメリットは、会議中や外出中には電話に出られない点だ。代理応答で取り次いでもらい、あとでかけ返すことになるが、これでは対応がワンテンポ遅れてしまう。また、電話機の机上に占める面積が大きいこともあり、これらの解決策としてiPhoneを用いた内線化が検討された。
「弊社はお客様に、固定電話の番号を代表番号としてご案内しているため、電話機をすべてなくすことはできません」と、本社移転時の通信インフラ改革の当初を振り返るのは、同社企業管理部門 情報システム部 システムインフラ課の中村崇也氏。
かつて各デスクにあった電話機は、デスクの島1つに対して1つとなった。固定電話回線は、グループ全体を対象に、ソフトバンクテレコムのおとくライン(固定電話の基本料金を削減できる直収型電話サービス)を導入。さらに固定電話とソフトバンク携帯電話との通話が無料になるホワイトライン24[おとくライン]を利用することで、トータル3割のコスト削減を実現。その削減分をiPhone 4導入に充て、業務用端末のスマートフォン化に成功した。
Android端末も選択肢には挙がったが、「2010年から2011年にかけて企業での業務利用ではiPhoneが主流という印象でした。セキュリティ面の懸念もあってiPhoneが選ばれました」(中村氏)。
あわせてその親和性が評価され、グループウェアをGoogle Appsに切り替えクラウド化したことで、同社の通信インフラ整備の基盤は整った。
さらに内線アプリを使うことで、iPhoneの内線利用が具体化した。2011年10月のことだ。
iPhoneと内線アプリでスマートな電話環境を実現
内線アプリの利用方法はこうだ。代表電話(固定電話機)が鳴ると、iPhone上の内線アプリにてピックアップの操作をする。最初にピックアップした従業員の内線アプリにて通話が開始される。また、本社従業員は直通のダイヤルイン番号を持っており、外線ダイヤルインを内線アプリで直接受けることができる。つまり社内にいれば、電話機の近くにいなくても、外線電話に出ることが可能だ。会議中であっても着信が確認でき、必要な電話を取り逃がすことがなくなった。
外出中の場合は代理応答で電話機の近くの従業員が対応し、iPhoneに転送することができる。顧客を訪問しているときには、ショートメールで着信があったことを知らせる。導入して3年以上経過した今、同社のショートメール利用実績は15,000通/月にのぼることからも、iPhone内線利用の浸透度がうかがえる。
組織改編に伴うオフィスのレイアウト変更でも運用面の効率化が図れることが、iPhone内線化の効果のひとつである。
「以前は異動で席替えが発生するたびにベンダーさんに来てもらい、内線の付け替えや床下配線作業を実施してもらっていました」と中村氏は当時の課題を話す。
iPhoneを内線として利用するようになってからは、iPhoneと無線のシンクライアントPC、そして自分の荷物を持って移動するだけだ。
2011年から2012年にかけて、航空運送事業を主業務とするJTBエアカーゴとTASエクスプレス(合併し、現:三井倉庫エクスプレス)、物流センター業務を得意とする三洋電機ロジスティクス(現:三井倉庫ロジスティクス)をグループに迎え入れた。シナジー効果を発揮するため、頻繁な組織体制の見直しを行って人的交流を促進しているが、iPhoneの内線電話化の恩恵により、オフィスのレイアウト変更が組織変更の障壁となることはない。
機種変更を機に、MDMでしっかり端末管理
同社では、当初に導入したiPhone 4をすべてiPhone 5へ機種変更している。この際はソフトバンクテレコムの法人向け運用代行サービス「ビジネス・コンシェル」が役立った。
「弊社ではセキュリティポリシー上、iPhoneのロック解除のパスコードを英数字混じりにするよう設定しています。このほかWi-Fi設定や、ブックマークのように使うウェブクリップの設定など、1,200台分の設定作業をチームの人間だけでするのは、とても手間です。端末カスタマイズを代行してくれるビジネス・コンシェルを利用し、無事すべてiPhone 5へ移行できました」(中村氏)。
MDM(Mobile Device Management:遠隔データ消去などで端末内の情報が外部に漏れることを防ぐサービス)を利用し、紛失や盗難時にも備えている。また意外に役に立つのはパスコード解除だという。
「パスコードを忘れてしまった場合、何度も間違ったパスコードを入力すると、iPhoneは完全にロックされてしてしまいます。そうなると個人の写真データ等はもちろんのこと、社用携帯としてのすべての設定が消えてしまいます。2、3回パスワードを間違えた時点で申告してもらえれば、MDM経由でパスコード解除ができます。一時的にロックを解除し、新しいパスワードを設定し直してもらえます」(中村氏)。
1,200台以上の端末を管理するうえで、こうした細かな対応が欠かせない。
今後はグループ会社も一体となってBCP対策を
「現在は御成門の本社のみが内線アプリを利用していますが、これを各拠点にも広げていきます」と中村氏は今後の展望を語る。
新たにグループ会社となった三井倉庫エクスプレス、三井倉庫ロジスティクスの2社でもおとくラインへの切り替え、iPhone導入を進め、グループ一丸となって通信インフラの向上を図る方針だ。
BCP対策として、ウィルコムのPHS導入も進められている。災害に強い通信インフラを全国的に構築し、滞りなくサービス提供することが、同社の本業である物流を支え続けることに直結する。国内にとどまらず、グローバルな経済活動に貢献する同社の今後の取り組みが楽しみだ。