商談が予定よりも早く終わったときに、同じ会社の別部署の方に電話を入れ、あいさつだけでもしておくのは営業担当者の常とう手段だ。とりわけ遠方の顧客を訪問する際は、一回の訪問で可能な限り多くの担当者に会っておきたいものである。
事前に訪問計画を立てようにも、名刺がデータ化されていないと、名刺の束から相手企業のものを選り分けることから始まり、業務メモと突き合わせて誰と何回会ったか調べるといった面倒な作業が発生してしまう。もし新旧の名刺が混ざっていたら、どちらが最新の部署名かさえ分からなくなるだろう。
Web会議サービスを始めとしたビジュアルコミュニケーションサービスを提供するブイキューブでは、営業担当者に名刺管理ソリューション「リンクナレッジ」を導入して名刺情報のデータ化を実現し、外出先でiPhone/iPadから名刺データを活用して商談機会の創出に効果を上げている。
手入力による名刺のデータ化は非現実
「私が入社した当初は、名刺交換をしたら顧客管理システムに手作業でデータを打ち込むのが業務ルールでした。しかし1回の商談で数枚は名刺交換しますし、イベント会場では50~100枚の名刺交換は当たり前。とてもすべては入力できません」と語るのは、営業本部 第1営業グループで直販営業を担当する船津宏樹氏だ。
商談が進み、各種の書類を作成する必要に迫られた顧客に限って名刺情報を入力するのが精いっぱいで、見込み客の名刺はほとんどデータ化されない状況だった。そして引き出しの中には、活用されない名刺の束が積みあがっていく……。
名刺がデータ化されていない弊害はさまざまな形で現れた。例えば、経営陣が得た人脈から案件化を目指す場合など、名刺を渡されて商談を設定するように指示されると、その都度名刺情報をパソコンに打ち込み、その後に名刺を返却するという煩雑な作業が発生する。また、同じ顧客企業で自社の営業担当者が誰とすでに名刺交換しているかという情報も、個人が個別に名刺を管理している限り社内で共有されにくい。外出先で急に空き時間ができても、手元に顧客情報がなければ近くの顧客に急きょ電話を入れて立ち寄るといった時間の有効利用も望めない。
名刺管理に多くの課題を感じていた同社では、複数の名刺管理ソリューションを検討した結果、リンクナレッジの導入を決めた。
リンクナレッジは専用のスキャナで名刺をスキャンすると、画像データがインターネット経由でリンクナレッジに送信される。それをOCR処理した後、専門オペレータがデータ入力を実施。こうして作成されたテキストデータとスキャン時の画像データは名刺データベースに格納される。ユーザーは企業ごとのアカウントを使ってリンクナレッジのWebアプリにログインし、クラウドに登録された自社の名刺データをパソコンやスマートフォン、タブレット端末、携帯電話から利用できる。
2010年に幹部社員から利用を始め、名刺交換が多い営業担当者へ順次導入が進み、2013年4月から営業全員にアカウントを配付した。これと並行して営業担当者と開発部門の検証用として、iPhoneとiPadを60台ほど導入し営業効率の向上を目指した。
商談数は2倍、さらに解約阻止にも効果を発揮
名刺情報のデータ化によって生まれた営業メリットは、商談数の倍増という成果に現れた。
「電話番号やメールアドレスを検索する時間が圧倒的に短縮されました。以前なら、名刺の束を取り出して、一枚一枚めくって該当者を見つけ出し、アドレスや電話番号を入力しないと連絡できませんでした。リンクナレッジの効果でお客さまと電話やメールで連絡をとる回数が増え、以前と比べると商談の機会は2倍近くに増えています」(船津氏)
既存顧客リストから該当企業を抽出して定期的にフォローメールを送信する業務でも、リンクナレッジで名刺情報にタグを付けておけば担当者の絞り込みが簡単になり、メール一括送信も可能だ。検索性が飛躍的に向上した結果、メール本文の作成に集中できるようになった。その効果は、既存顧客の解約阻止につながっているという。
「メール送信の手間が軽減されたので、当社のサービスを導入いただいた既存顧客さまへ、アップデート情報や新規の機能情報などを個別メールでこまめに連絡できるようになりました。こうしたフォロー回数を増すメリットは、何らかの不満をお持ちのお客さまを早いタイミングで発見して、不満解消の施策を打てること。不満を感じている時間が長いお客さまは、イライラが蓄積してクレームや解約に進んでしまいます。フォロー回数が増えたことで、解約率を大幅に低減できました」(船津氏)
さらにiPhone/iPadを会社から支給されるようになると、以前よりリンクナレッジを利用する機会は約3倍も増えたという。
「リンクナレッジはモバイル機器用の画面も用意されているので、訪問先の受付で面会予定の方の部署名をiPhoneから検索したり、ワンタップで電話を発信できてとても便利です。iPadからリンクナレッジを開くのは、顧客訪問前の移動時間が多いですね。企業ごとに名刺交換した人をリストしてくれるだけでなく、その企業の最新ニュースも配信されるので、会話のきっかけとして情報を仕込むにはとても便利です」(船津氏)
また新聞などに発表された人事情報をリンクナレッジからメールで連絡してくれるので、人事異動や昇進のあった顧客にあいさつに行き、異動先でも自社サービスを使ってもらうよう提案するといったアップセルの機会創出も増えているという。
商談中はiPadのプレゼンテーションが効果的
ブイキューブのサービスであるWeb会議などは、百聞は一見に如かずで、とにかくデモを見てもらうのが一番効果的だ。以前はノートパソコンとデータカードを使ってデモを実施していたが、公衆無線LANサービスは、訪問先企業によっては接続状況が不安定になる場合もあり、うまくデモが動かないこともあった。iPhone/iPadを使ってデモを実施するようになってからは、Wi-Fi電波が不安定でも最低限3Gネットワークはつながるので、デモができないという事態はなくなった。
また、iPhone/iPadを使ったデモはパソコンに比べて起動から実演までが非常に短時間で済むので、「こんなに簡単にできるのか」と顧客から驚かれることも多いという。基本的に同社サービスの導入企業は社内にWi-Fiネットワークを構築するのだが、最近では出張や移動の多い管理職用として、iPadの3G版で運用するケースも増えている。
「当社のサービスはWeb会議によって遠隔地同士を結んだn:nの双方向コミュニケーションがメインなのですが、それ以外のサービスをご説明していると、中には1:nのコミュニケーションでもいいというお客さまも出てきます。iPadが導入される以前は、想定外の商材の資料を持ち合わせていない場合、とりあえず口頭でサービスを紹介して『後日、資料を持ってきます』という対応しか取れませんでした。いまはiPadにすべての提案資料が入っているので、急な商材変更にも柔軟に対応できています。iPadで電子カタログやWeb会議の実演写真を見たお客さまからは、イメージがわきやすいと言われます。紙の資料で写真を見せるよりも、iPadから見てもらう方が印象がいいようです」(船津氏)
「タブレット生活の顛末」と「4台持ち生活」を発信
船津氏はFacebookページの中で、コーポレートサイトでは伝えきれない豆知識的な情報を顧客と共有する使命を負っている。
「Facebookページのやり取り中で、お客さまからiPadをもっと使いこなしたいという声が多かったので、iPadだけでどれくらい日常の業務が成り立つのか自分を実験台にしてみようと、1カ月間パソコンを使用禁止にして業務を行い、その一部始終を『タブレット生活』と題してFacebookページに公開しました」(船津氏)
船津氏が運営するFacebookページ「船津 宏樹のSmart Style Wave」に連載された「タブレット生活」 |
会社支給のiPhone/iPadに加えて、自身で購入したiPad miniとiPhoneの4台持ちの船津氏は、パソコン・iPhone・iPadをどうやって使い分けているのか、しばしば質問されるという。
「個人的には、3つのデバイスはまったく別のツールであると認識しています。パソコンは定期的な会議や資料作成などのルーティン作業に使い、iPhone/iPadはリアルタイム性を重視する業務に使うものです。突発的に発生した事態に対応したり、最新情報を取得するといった仕事にはiPad。隙間時間を生かすにはiPhoneです。いずれ機会を見て、『タブレット生活』の続編として『iPhone/iPadの4台持ち生活』としてパソコンとの使い分けノウハウをFacebookページに公開したいですね」(船津氏)
ITベンチャー企業らしく、社内には船津氏のように新しいデバイスで積極的に業務スタイルを改革していこうとするキーマンが多く在籍している同社から、新しい業務改革ソリューションが生まれることを期待したい。