新宿歌舞伎町にある「きんちゃん酒場」は、こだわりのハム・ソーセージや新潟の郷土料理が自慢の和風酒場だ。カウンターと座敷席の小ぢんまりとした店内は隠れ家的な雰囲気が漂う。客と店員が常に向き合うようにレイアウトされた店内は、人とのふれあいを大切に思う米山健一郎店長のこだわりだ。

新潟の地酒や郷土料理が自慢のきんちゃん酒場

ホテルの中華料理の厨房からコックの修行を始めた米山店長は、イタリア料理店の店長や大手焼肉チェーン店の新メニュー開発担当などを経て、念願だった自分の店を3年半前に開いた。新潟県魚沼市の実家がハム工房を営むことから、そこで作られたハムやソーセージ、燻製などを直送して店で提供するほか、越後豚や栃尾油揚(とちお、厚い油揚げ)、へぎ蕎麦など新潟をモチーフとした料理や地酒で客をもてなす。郷土愛の強い新潟出身者を中心に、固定客が集いゆったりと会話を楽しむ雰囲気の店である。

たかがレジと言うなかれ

きんちゃん酒場店長 米山健一郎氏

同店では、開店当初からシンプルな機能の小型レジを使い続けてきたが、いつしか会計の動作が店の雰囲気になじまないと米山氏は感じるようになったという。基本的にテーブル会計の同店は、レジを置いている場所まで行かないと精算伝票を出せなかった。

「お客さまから会計を言われると、伝票を持って店の奥にあるレジまで移動し、注文ごとに価格を打ち込んで合計金額が印刷されたレシートを持って戻ってきます。レシートを見たお客さまからお代をいただき、再びレジまで移動して釣銭を用意し、再びお客さまのところへ戻ってくる。つまり、会計が完了するまでに2往復することになるのですが、この行ったり来たりする時間は、お客さまにとって手持無沙汰な時間になっていました」(米山氏)

以前使っていたレジ。金額を打ち込んでレシートを出力するだけのシンプルなタイプだ

以前のレジは持ち運べず会計を行ってしまうと釣銭計算ができなかったので、時には電卓を使って釣銭を計算していた。客との距離が非常に近い店だけに、会話の空気を壊さないような会計ができないものだろうかと、そんな時に紹介されたのが、iPadを利用したレジシステムだった。

「それまではレジのある場所まで移動しないと会計できなかったのですが、iPadならばお客さまの見ている前でレジの打ち込みができます。小計まで打ち込んだらお客さまに合計金額を確認してもらい、確定すれば、無線ネットワークで接続されたプリンタから精算伝票が出力されます。レジまで移動するのはお釣りを取りに行く1回だけになりました。行ったり来たりのわずらわしさが低減され、お客さまと会話を続けながら会計処理できるので、とても気に入っています」(米山氏)

iPadを使って客と会話しながら会計できる

会話を弾ませるきっかけにもなる「Smartレジスター」

「きんちゃん酒場」が導入したのは、ユニバーサルソリューションシステムズが開発した「Smartレジスター」という製品だ。iPadと小型プリンタ、ドロアーの3点をセットにしたこの製品は、小規模な飲食店向けに機能を絞り込んだところが特徴で、マニュアルを読まなくても使い始められるシンプルな設計だ。簡単な操作でメニューを登録していき、使用時には画面からメニューをタップしていくと集計ができる。複雑な画面遷移や深い階層をなくし、メイン画面でほぼすべての操作が完了するように配慮されている。

ユニバーサルソリューションシステムズが開発した「Smartレジスター」

「このSmartレジスターを導入した決め手は、何よりも"おしゃれ"に会計ができることです。会計の時に、iPadをお客さまの前に出すと、『いったい何が始まるの?』と必ず聞かれます。そこから新たな会話が始まるわけで、以前のように店の奥に引っ込むのとは大違いです。お客さまも、目の前で精算処理を確認できますから、より安心感があるようです。釣銭間違いもしなくなりました」(米山氏)

Smartレジスターの使い方は、まずメニューを登録しておき、精算時にiPadの画面からメニューをタップするだけ。客から受け取った金額を入力すれば釣銭も計算される。iPadとプリンタはWi-Fiネットワークで無線通信するので、店のどこからでも精算伝票の出力が可能だ。

iPadの精算画面とプリントアウトされた精算伝票

こうした使い勝手の向上もさることながら、米山氏はiPadのコミュニケーションツールとしての価値にも注目している。以前のレジではいったん会計を締めてしまってからの追加オーダーは取りにくいが、iPadであれば会計中に話が弾んで追加オーダーが入っても、小計をいったんキャンセルできるので、追加オーダーを取りやすい。会計だけではなく、iPadは客の写真を撮影してFacebookページにアップロードしたり、音楽や映像を客と一緒に楽しむといった使い方もできるから、通常のレジとは比べられないほどのコミュニケーション効果が生まれているという。

きんちゃん酒場の経営と並行して、米山氏は国産蕎麦粉の卸業も営んでいる。そのアンテナショップとしてプロデュースしている蕎麦店では、高級な蕎麦粉を使ったこだわりの店なのに会計は券売機を使っている。提供する商品と券売機とのイメージギャップを感じているので、iPadでの会計システムへの変更を検討中だという。

「お店の雰囲気を大切にしたいのなら、SmartレジスターのようなiPad活用は検討してみる価値はありますね」と米山氏。

売上データの管理機能で売上向上に寄与

顧客と対面して使う以外に、Smartレジスターには店舗の経営支援機能が搭載されている。売上データをリアルタイムでパソコンやiPadから確認できる「Store Online Report」だ。専用のWebサイトから確認する方法と、メールで明細を送信する機能が提供されている。売上一覧のほか、時間帯や部門別の売上分析が参照でき、CSVデータとしてダウンロードも可能だ。

米山氏はどこにいてもiPadで売上を確認できるからと、メールでのレポート送信を利用している。以前のレジでは売上データをプリントアウトして、それを手打ちでパソコンに入力していたが、現在はレポートメールをパソコンでも受信して、データを転記するだけで済むようになり、事務的な労力削減に役立っている。

とはいっても売上分析に関して、米山氏は独自に作成した損益計算書を使いパソコンで管理しているので、Smartレジスターから受け取った売上データをパソコンに転記する手間は残っている。この点に関して、Smartレジスターの開発責任者であるユニバーサルソリューションシステムズ システム事業本部 本部長の日向和司氏によれば、「Googleドライブのスプレッドシートを使って作成した損益計算書に、Smartレジスターの売上データを自動送信できる仕組みを無料で提供する予定」だという。こうしたクラウド型のデータ分析サービスが提供されれば、外出先や移動中でもiPadから売上データの分析を行えるようになるだろう。

「ここまでお店をやってこれたのも、多くの人とのつながりや絆があったからだと思っています。これからも、人とのふれあいを大切にしてきたい。そのためにiPadをもっと活用したいと思っています」(米山氏)