京都府に本社を置くコタは、総合美容メーカーとして製品の開発から生産、販売までをすべて自社で行っている。プロが求める高品質な製品は、美容室とその顧客にもファンが多い。主力製品の「コタ アイ ケア」は1999年より販売を続ける同社のベストセラーとなっている。

コタ本社(京都府久世郡)。自社工場を持ち、開発から製造、販売までを一貫して行っている

同社の営業活動は独特のスタイルを持つ。営業担当者は製品のセールスだけではなく、経営コンサルティングを通じて、売上や顧客サービスの向上といった美容室のビジネスサポートを行っている。売上高、来店客数、施術メニュー数といったデータを分析し、営業戦略から人材育成までのあらゆる側面で美容室経営のノウハウを提供している。

IT管理室 室長 渡邊達也氏

同社では「旬報店(じゅんぽうてん)システム」と、この仕組みを呼んでいる。月の上旬、中旬、下旬の10日ごとにデータを分析しているからだ。同社製品を取り扱う全国の美容室のうち1,254店舗(2012年3月末)が旬報店として登録している。

旬報店システムの提供理由を、IT管理室 室長の渡邊達也氏は次のように語る。

「旬報店とは、当社の製品をすべてご利用いただく前提でお取り引きいただいている美容室のことです。コンサルティングフィーなどはいただかず、あくまでも美容室の発展が主眼であり、その結果、われわれの製品などがより多くのお客さまにお使いいただけるようになればと考えております」(渡邊氏)

鮮度の落ちた紙ベースの情報は役に立たない

旬報店システムは1979年(昭和54年)のコタ創業当時から提供されているサービスで、当初は美容室のオーナーに売上高、来店客数、施術メニュー数などを手書きの紙でレポートしてもらい、FAXあるいは郵送といったやり取りで実施されていた。

営業第二部 京都営業所 大塚裕志氏

2004年ごろからWeb上のシステムに切り替えられ、美容室側からインターネットを通じて経営データが入力されている。コタ側では担当部署でデータを一括管理し、分析作業を行っている。分析結果をもとに営業担当者が店舗にて、コンサルティングを実施する。

コンサルティング内容は多岐にわたる。例えば「来店客数を改善するには、集客方法と実数の現状把握を行います。どんな集客をしているのか、また来店数が『300』という実績に対して、100人が3回来店しているのか、300人が1回ずつしか来店していないのかといった状況を見える化し、来店間隔を縮めるならどんな集客イベントを開催するかなどの提案も行っています」と、営業第二部 京都営業所の大塚裕志氏はその内容を説明する。

営業第二部 京都営業所 藪彰憲氏

また、パーマ施術率が低い店舗の場合は、「お客さまへ提案がきちんとできているかを確認します。できていなければ、その理由を見つけて改善していきます。パーマ施術率が低迷している要因を1つ1つ洗い出し、その解決のための技術レッスンやロープレなども実施します。例えば薬剤を使わずロッドを巻いてパーマ施術の雰囲気をつかんでもらうといったテクニックも提案しています」と同所の藪彰憲氏も手の内をそっと見せる。ほかにも接客教育や資金計画のアドバイスなども実施しているという。

美容室でのコンサルティング風景

旬報店システムは通常10日単位のデータをもとに、分析結果が出たところで営業担当者が訪問する。だが、ビジネスのスピード化に伴って状況も変化したとIT管理室の細谷充秀氏は語る。

IT管理室 細谷充秀氏

「出張を伴う訪問などもあるため、分析してから日数の経ったデータではすでに現状にそぐわないコンサルティングになっているかもしれません。正確な分析にはリアルタイムな情報が必要と、現場の営業担当者から強い要望がありました。『明日からこの方針でやっていきましょう』といった結果が分かるのが10日後では遅過ぎるのです」(細谷氏)

情報の鮮度が重要なのはもとより、美容室で「紙ベースでのコンサルティングや顧客に対してのカウンセリングはあまりスタイリッシュでない。もっとスマートにできないか」(渡邊氏)といった独特の美意識も営業担当者は感じているとのこと。そこで、顧客先でリアルタイムにデータを参照できるデバイスが検討された。

2010年5月のiPad発売時、これはわれわれにとってぴったりのデバイスになると直感したと渡邊氏。そこからiPadに関するセミナーに積極的に足を運ぶなど、情報収集を開始した。

「セミナーでの情報や営業担当者からの提案、事例紹介など、聞けば聞くほど当社の業務にぴったり合うということが確信へと変わり、導入への強い思いが生まれました」(渡邊氏)

また、そのときに社内では基幹システムの更新時期が迫っており、ネットワークの再整備なども計画されていた。「iPadの導入はもはや必至と考えていましたので、外から社内ネットワークへのリモートアクセス環境とVPN構築を進めたい」という渡邊氏の熱意も手伝い、無事に新たな環境を整備することができた。

こうして営業担当者全員に135台のiPadが配付され、旬報店システムおよび取引履歴や在庫照会など営業支援システムのデータを外出先でiPadから閲覧可能となった。同時に製品などの各種パンフレットや動画資料なども、セキュアなファイル共有を提供するクラウドサービスの「CLOMO SecuredDocs」に格納して全員が利用できるようにし、営業スキルの均一化にも貢献している。

すぐに手を打てるコンサルティングが可能に

現在、直販部門の営業担当者は平均1日10軒ほどの美容室を訪問しているという。

IT管理室 髙子力氏

「サロンのオーナー様とマンツーマンで数字を追っていくことが大切です。これをリアルタイムで見られるので、実施中の集客イベントによる来客数の状況も把握でき、状況に応じて次の施策を講じるといった対策がすぐにできます」とIT管理室の髙子力氏もその効果を語る。

取引履歴の把握や在庫照会などができる営業支援システムもiPadから利用できるようになり、コンサルティングに役立っているという。

「前月や昨年というように過去に遡って傾向を調べることもできるようになり、施策を実施するタイミングなどの参考になります。また旬報店とそうでない美容室で製品のラインナップが異なることも多く、『このラインアップを整えることで売上向上に結びつきます』などと、これらを切り口にいろいろな提案が可能です」(藪氏)

以前はこうした資料を求められれば会社へ取りに行くこともあったが、その無駄もなくなった。もとよりプリントアウトして資料を用意するという作業がなくなったため、支店や営業所へ出向かずに美容室へ直接訪問ができるという点で、時間の有効活用が図られている。

「事前の準備に費やしていた時間の30分が省けると、1~2軒の訪問軒数として違いが出ます。iPadになってからは実際に多くの美容室へ伺うことができています。あとはやはり提案の質が自分自身でも高まったと思います。急な対応や細かい質問にも、iPadに格納している補足資料や動画で質の高い対応がすぐにできるようになりました」と大塚氏。

Web会議、デジタルサイネージと活用を拡大

新「コタ アイ ケア」の登場により業績も良好で、そこへiPad効果も加わっていると広報室の洲崎圭子氏も述べる。

「iPadが配付されたことで、営業担当者のモチベーションに変化が表れたようです。『これでお客様に喜んでもらえる提案ができる』といったプラスの思考が生まれています。またiPadによって、『お客さまとのコミュニケーションのための会話量が格段に増えた』という声も多く聞いています」(洲崎氏)

広報室 洲崎圭子氏

iPadの使い方はさらに広がっている。Web会議システムもその一例だ。

「全国の11拠点から所属長あるいは役職者が本社へ集まる会議があります。1カ月ないし3カ月に1度開催されるのですが、これでは情報共有が遅いという課題がありました。そこでiPadで利用できるWeb会議システムの『WebEx』を導入したところ、開催の手軽さから月に2~3度という頻度になり、情報共有と展開も早くなりました。『ある地区ではこんな取り組みがあり反応はこうです、ぜひ全国展開してみては』『こんな問題が出ているため対応を相談したい』といった多用途での活用が進められています」(渡邊氏)

効果が出たのは営業会議だけではない。

「開発部門、美容師免許を持つ技術インストラクター、営業部門がそれぞれ相互に、かつ手軽に情報や意見の交換をする場が生まれました。活発で素早い情報の取り込みが可能となり、製品開発サイクルの短期化や情報共有が図られています」(渡邊氏)

社内の業務効率化にも貢献しているようだ。

WebExにより気軽なミーティングが可能となり、情報交換のスピードも向上した

新製品のデジタルサイネージにもiPadを活用している。ディスプレイに製品の動画を組み合わせてイメージを分かりやすく伝えるのが目的だ。「製品の価値を上げるプロモーションムービーやディスプレイは、美容室の方々にも喜ばれます。お客さまの目にも留まりやすく興味を引くので、製品購入へのカウンセリングにつながるとお聞きしています」(洲崎氏)

製品ディスプレイにiPadを組み合わせ、イメージ演出するデジタルサイネージ

コタでは今後もiPadの活用を進めていく。

「顧客管理情報や営業マンの行動履歴などを管理している紙ベースの情報をiPad上で情報共有できるようなシステム構築を計画しています。iPadで入力、検索、照会ができれば、効率化とともに営業ノウハウの共有といったことにもつながると構想しています」(渡邊氏)

現在はMDMを利用してApp Storeの利用制限などをしているが、現場からはこれを使えるようにしてほしいという要望もある。

「営業担当者に便利と思われるアプリは利用できるように順次していきたいと考えています」(細谷氏)

「また、今後はお客さまへスタイル提案できるようなアプリを開発したり、コミュニケーションを活性化させるような仕組みも整備していきたいと考えています」(渡邊氏)

業務効率化とともに、顧客との関係をより深めて双方が成長して行くための手段、それがiPadのようだ。