戸建住宅「大安心の家」で知られるタマホームは、平成10年の設立以後、企業として急成長し、規模を拡大するなかで社内業務の見直しと効率化を進め、その手段の1つとしてiPhoneが選ばれた。これにより、業務スピードが向上したほか、社内コミュニケーションの活性化による顧客サービスの向上にも役立っている。
「コストを抑えながら、業務スピード向上を図ることを念頭におきました。通話の用途がメインで導入したiPhoneでしたが、今ではさまざまなシーンでそのほかの機能も活用しています」と話すのは、同社 システム部 部長の賀来義明氏だ。
全社員にiPhoneを配付し、MDMで一括管理
同社では、通信費見直しの際、法人利用の事例も増えていたスマートフォンへの移行が検討された。
「まずiOSとAndroidとを比較するためAndroid端末をテスト導入しましたが、セキュリティ面に懸念点が多かったので、安全性を重視してiPhoneを選択しました。Android端末のテスト導入時、一番不安に感じた部分はSDカードでした。自由にデータを出し入れできてしまうので、情報漏えいにつながる恐れがあります。また、Androidマーケット以外からのアプリのダウンロードが簡単にできるのも、ウイルス感染のリスクが高まるため、問題点でした」(賀来氏)
こうしてセキュリティ面で信頼性のある2,200台のiPhoneを導入し、全社員に配付した同社では、MDM(Mobile Device Management:端末管理)の契約も行った。セキュリティ強化も目的の一つだが、運用面での効率化にもMDMは役立っている。
「社員全員に、メール連携に必要なサーバ名、ユーザー名、パスワードなどを入力してもらうのは大変な手間です。管理者側から一括設定すればスムーズに全員のiPhoneでのメール連携が完了します」(賀来氏)。
メールのほかに、会社行事のカレンダーもMDMを利用して配信しているという。
日常業務の随所でiPhoneが活躍
iPhoneでもメールが見られるようになったことで、「社外にいるときにお客さまからのお問い合わせを受けても、すぐにデータを確認できるようになりました。会社に戻らないと分からないことが減った分、残業時間の短縮にも繋がっています」とメリットを話すのは、同社高槻店 主任の中村圭志氏だ。
「例えば先日もお客さまから、『引越し先での家具を買おうとしているが、あそこの収納スペースの寸法はどれくらいだった?』という問い合わせを受けました。たくさんのお客さまがいらっしゃるので、すべて記憶しておくのは難しいですし、間違えて答えては大変です。以前でしたら『今日は休みなので明日、出社してから回答します』と言わざるを得ませんでしたが、iPhoneがあれば図面をPDF化して保存できるので、その場で確認して回答できました」(中村氏)
また、以前はデジカメを使っていた撮影を、今はiPhoneで代替している。新しい土地を見に行く際や、モデルハウスが出来たときはiPhoneで撮影しておき、商談時に「あそこにあるモデルハウスはこんな感じですよ」とお見せすることでイメージを伝えられるので、実際に出向く手間が省けたり、行っても期待はずれだったといったことを防げる。常に持ち歩くiPhoneに画像が入っているので、あの写真が今は手元にない……といったこともなくなった。
営業担当者が建設現場に足を運び、進捗状況の確認を実施する「安全パトロール」では、撮影した現地の写真を使って社内向け報告書を作成する。その際も、デジカメをパソコンに繋げて画像を取り込む作業がなくなり、iPhoneで撮った画像をメールで送る運用に替わった。さらに、現場に持ち込む荷物も減るなど、こうした些細な変化の積み重ねが効率化に通じている。
社内コミュニケーション活性化を目的にSNSに注目
同社では、企業規模が拡大する過程で同社は社員同士の関わりが希薄になり、企業としての一体感が薄れることを懸念し、「コミュニケーションを大切にする」という方針を定めた。
「同じ会社に勤めていても部署や支店が違えばまったく知らない人、となってしまいがちですが、社員同士の作り上げる雰囲気は、お客さまに与える印象に直結すると考えています。そんなとき着目したのが、SNSの『Facebook』でした」(賀来氏)
2011年8月に、社内ポリシーを定めてFacebookを使う事を推奨し、Facebook課が新設された。企業の公式Facebookページと、非公開設定にした社内限定のFacebookページ双方の運営が任務で、その目的は社内外のコミュニケーション活性化だ。
「社内限定のFacebookページでは、社員紹介のほか、各営業担当者が実施している取り組みも紹介されます。集客するための工夫など学ぶことが多いので、空き時間にはいつもiPhoneでFacebookを見ています。また普通では言葉を交わす機会もなかなかない地区本部長から『誕生日おめでとう』といったコメントがもらえるのも嬉しい経験でした」(中村氏)。
同社ではFacebookをチェックするのも業務の一環であることから、業務中の閲覧も許可している。
ただ、当初、賀来氏はSNSを会社として利用することには違和感があったという。
「弊社には公式ホームページやブログもありますので、新たにFacebookページを作るのには疑問の声もありましたが、Facebookにはこれら既存のものと異なる点があります。それはFacebookページへの投稿は、生きた情報だったということです。ブログほど体裁が整っていない分、リアリティがあり、臨場感があるので、自然と社員同士の交流が生まれました。公開している企業のFacebookページではお客さまからのすべてのコメントに返信のコメントをします」(賀来氏)。
こうした姿勢はFacebookを通して顧客にも伝わり、交流の場となっている。
同社では「タマちゃんTV」と名付けられた動画配信も実施中だ。役員、地区本部長といった役職者が「そのときホットな話題」をテーマに話す長さ3分程度の動画が3日に一度更新される。イントラネットだけに掲載されていたこの動画コンテンツが、2013年からはFacebookの社内限定ページにも投稿が始まった。
「Facebookのほうが更新に気付いてもらいやすく、より多くの人にタイムリーに見てもらえます。トップメッセージを動画にすることで生の声が社員に届き、会社としての結束力が強まると思っています」(賀来氏)
業務スピード向上を念頭に今後もiPhoneを有効利用
今後は役職者の意思決定スピードを速めるため、ワークフローの見直しがなされ、その手段にもiPhoneが活用される予定だ。また、同社では個人契約のiPad利用を許可している。主な用途は、商談時の接客ツールだ。家具、ドア、壁紙などカラーバリエーションが多いため、商談時は机の上が紙のカタログでいっぱいになる。そのPDFデータをiPadに入れておくことで素早く顧客に提案ができ、スムーズな接客が実現する。この使い方が浸透すれば、情報漏えい対策をしたうえで会社としてサポートすることも検討するという。
業務スピードとコミュニケーションをキーワードに、同社は進化を続ける。現場の意見や他社の事例を参考にしながら、進化を具体化する有効な手段としてiPhoneが今後も役立つだろう。