iPadの新製品発表がつづいた2019年と2020年
Appleのタブレットデバイスといえば、iPadだ。2010年に最初のモデルの販売が開始され、それ以降毎年iPadの新製品発表が行われている。iPadはタブレットデバイスの流行を作った火付け役とも言えるデバイスで、現在ではiPad Pro、iPad Air、iPad mini、iPadという4つのシリーズが提供されている。
2019年は、iPadシリーズにとって新しい年だった。2019年中にiPad Air、iPad mini、iPadの新しいモデルが発表された。さらに、オペレーティングシステムがiOSからiOSをベースに開発された「iPadOS」へと変更された。2020年にはiPad Proの最新版が、さらにiPad Pro用の「Magic Keyboard」も発表された。iPad Proでトラックパッドが使用できるようになったわけだ。
iPadをデスクトップの代わりに使うという試みは既にあちらこちらで語られているが、すべてのiPadシリーズで新製品が発表され、さらにMagic KeyboardのiPad対応(現在のところiPad Proのみ)が行われたこのタイミングで、iPadがビジネスにおいてどこまで使えるかを検証していきたい。
タブレットの利用シェアは5%
iPadの最初のモデルが発表されたのが2010年、本稿執筆時点よりも10年ほど前ということになる。この間、デバイスとしてのiPadの進歩は素晴らしい。特に処理速度は目を見張るものがある。当初のモデルはWebページを閲覧するのにもっさりした感じがあったが、最新版では驚くほどサクサク動作する。PCよりも速いと体感することも多い。
こうなってくると、タブレットデバイスのシェアは随分増えただろうと考えるかもしれないが、過去2年間でほとんど変動していない。次のグラフはNet Applicationsが提供している、過去2年間におけるデスクトップ/ノートPC、スマートフォン、タブレットデバイスのシェア推移を示したものだ。タブレットデバイスのシェアは第3位で、5%前後を細かく推移している。
2020年3月におけるタブレットデバイスのシェアは4.87%とされている。
これまで、スマートフォンのシェア増加とデスクトップ/ノートPCのシェア下落という傾向があったが、過去2年間でその傾向は緩くなっていった。直近2年で見るとスマートフォンのシェア増加とデスクトップ/ノートPCのシェア下落は続いているものの、直近1年で見ると横ばいに近づいている。デスクトップ/ノートPC、スマートフォン、タブレットデバイスを使うシーンが固定化してきた可能性がある。
シェア5%の理由はさまざまだが、結果としての5%
デスクトップ/ノートPCやスマートフォンと比較して、タブレットデバイスのシェアが低いシェアにとどまっている理由を1つに絞り込むというのは難しい。さまざまな需要があり、結果としての5%だ。スマートフォンよりも大きなスクリーンでノートPCよりも軽量。よいところを見ればもっとシェアが多くてもよさそうだ。逆に、購入をためらわせる理由を考えると、こちらも以下のようにいくつか浮かんでくる。
既にiPhoneやAndroidスマートフォンを持っている。タブレットデバイスは軽量で持ち運びもできるが、ポケットに入れたままどこへでも持ち運べるiPhoneやAndroidスマートフォンと比べるとモビリティは下がる。さらに、最新のiPhoneやAndroidスマートフォンはスクリーンが大きいモデルも多く、プロセッサパワーも申し分ない。これまでタブレットデバイスでしかできないと言われていた操作を軽々こなすようになっており、タブレットデバイスを購入する必要性が減っている。
デスクトップやノートPCほどは汎用性が高くない。例えば、タブレットデバイスで業務用システム開発をしたいとか、Webアプリケーション開発を行いたい、業務で使っているアプリケーションを動作させる必要がある、ビデオ会議しながら業務システム操作を行う必要がある、グラフィックアプリケーションを使って仕事をしなければならない、といった必要性がある場合、タブレットデバイスでは厳しい、または、現在の機能では実現できない、といったように汎用性に限界がある。
タブレットデバイスの特徴は、デスクトップ/ノートPCとスマートフォンの中間、ないしはスマートフォン寄りといったところがある。こうした特徴を備えたデバイスの需要が結果として5%なのだろう。
では、タブレットデバイスはビジネス向きではないのかというと、今後そうでもなくなる可能性がある。理由は、タブレットデバイスがデスクトップ/ノートPCに近づいていっているからだ。これは特にiPad Proで顕著だ。
AppleはiOSからiPadOSに切り替えることで、タブレットをデスクトップへ近づけている(なお、逆にMicrosoftはSurfaceでもともとデスクトップ向けのWindowsをタブレット化していっている)。iPadの進化はまだ始まったばかりで時期尚早かもしれないが、このタイミングで取り上げておくのは悪くないと思う。
iPad、やはり価格が魅力的
現在のiPadはデスクトップ/ノートPCの代わりにならないかと言えば、そうでもない。特定の仕事については、MacよりもiPadのほうが仕事をこなせる。この範囲に当てはまっている人にとっては、既に仕事はiPadで行うものであり、MacBookやMacを予備機としておくか、そもそも持っていないということもある。
特に、最初に使ったコンピュータがスマートフォンやタブレットデバイスといった世代にとって、タブレットデバイスで仕事をこなすことに抵抗がなく、さまざまなスキルを駆使して素晴らしい仕事をする。最初に扱ったコンピュータがMS-DOSやWindows 3.1、Windows 95といった世代がPCを使いがちな操作も、最近の世代はスマートフォンやタブレットデバイスで完結させる。こういった世代にとって、iPadは最初から購入候補になる。
予算があればMacBook ProもiPad ProもiPhoneも買えるわけで、そうした資金が豊潤にある人にとって、この記事はあまり意味がないだろう。この記事がターゲットとしているのはそうではない人々だ。Appleの製品は優れてはいるが価格が高い。購入をためらうのも然もありなんである。
例えば、MacBookを見てみよう。2019年以降に販売されたMacBook Proについて、本校執筆時点でAppleのWebサイトに掲載されている基本となる価格をまとめると次のようになる。MacBook Pro 16インチのCore i9で28万8,800円(税抜)だ。個人で購入するにはためらいを禁じえない金額である。
製品 | 価格(税別) |
---|---|
MacBook Pro 16インチ Core i9 2.3GHz 1TB | 288,800円 |
MacBook Pro 16インチ Core i7 2.6GHz 512GB | 248,800円 |
MacBook Pro 13インチ Core i5 2.4GHz 512GB | 220,800円 |
MacBook Pro 13インチ Core i5 2.4GHz 256GB | 198,800円 |
MacBook Pro 13インチ Core i5 1.4GHz 256GB | 159,800円 |
MacBook Pro 13インチ Core i5 1.4GHz 128GB | 139,800円 |
MacBook Air 13インチ Core i6 1.1GHz 512GB | 134,800円 |
MacBook Air 13インチ Core i3 1.1GHz 256GB | 104,800円 |
据え置きでよければ、iMacも選択肢に入るだろう(iMac ProとMac miniは2019年以降に新しいモデルは発表されていないので、ここでは対象に加えていない。Mac Proは2019年に新モデルが発表されているが、高すぎて連載の趣旨から外れるので対象に加えていない)。同様に、本校執筆時点でAppleのWebサイトから購入できるモデルで価格をまとめると次のようになる。
製品 | 価格(税抜) |
---|---|
iMac 27インチ Core i5 3.7GHz 2TB | 253,800円 |
iMac 27インチ Core i5 3.1GHz 1TB | 220,800円 |
iMac 27インチ Core i5 3.0GHz 1TB | 198,800円 |
iMac 21.5インチ Core i5 3.0GHz 1TB | 164,800円 |
iMac 21.5インチ Core i5 3.6GHz 1TB | 142,800円 |
iMac 21.5インチ Core i5 2.3GHz 1TB | 120,800円 |
5K 27インチのiMacで25万3,800円(税別)だ。MacBookもMacもそれなりにパンチのある価格帯だ。廉価なモデルもあるが、それに合わせて性能も下がる。あまり廉価なモデルにすると結局使い勝手が悪くなるので、汎用的にいろいろなことをこなそうとしているのなら、結局それなりの性能のものを買うことになる。
そこで出てくるのがiPadだ。AppleのWebサイトにおいて、MacBookとMacは提供されている最小のストレージが価格例として掲載されているので、iPadに関しても最小のストレージサイズを選択した場合の価格をまとめた。また、Wi-FiモデルではなくWiki+Cellularモデルの価格をまとめてある。MacBookやMacと比べた時、いつでもインターネットに接続できるという利便性が欲しいからだ。Wi-Fiがないとインターネットが使えないとなると、外で手軽に利用するデバイスとしてはスマートフォンにはかなわない。セカンドPCとして使うには、Wi-Fi+Cellularモデルであることを前提として考えたい。
製品 | 価格(税抜) |
---|---|
iPad Pro 12.9インチ 128GB Wi-Fi+Cellular | 121,800円 |
iPad Pro 11インチ 128GB Wi-Fi+Cellular | 101,800円 |
iPad Air 10.5インチ 64GB Wi-Fi+Cellular | 69,800円 |
iPad mini 7.9インチ 64GB Wi-Fi+Cellular | 60,800円 |
iPad 10.2インチ 32GB Wi-Fi+Cellular | 49,800円 |
実際には、このサイズのストレージでは足りないユーザーが多いと思うので、1つ上のサイズを選ぶことになるだろうからその分価格は上昇するが、それでもMacBookやMacと比べるとiPadは廉価だ。
会社や学校には提供されているPCがあるから、出先や自宅で利用するセカンドPCとしてそこそこ仕事や作業ができればよい、と割り切ってしまえば、iPadの価格はかなり魅力的だ。それぞれのモデルと価格をグラフにまとめると、次のようになる。
参考までにiPhoneについても価格をまとめると、次のようになる。
製品 | 価格(税抜) |
---|---|
iPhone 11 Pro Max 64GB | 119,800円 |
iPhone 11 Pro 64GB | 106,800円 |
iPhone 11 64GB | 74,800円 |
iPhone SE 64GB | 44,800円 |
こうして見ると、iPadの価格帯はiPhoneの価格帯とほぼ同じということがわかる。iPadをiPhoneの代わりに使うということもできるし、実際にそうした使い方をしている人もいる。しかし、ここでは、やはりポケットに入れてどこへでも持ち運べるiPhoneと、バッグに入れて持ち運ぶiPadは別の用途のデバイスとしておきたい。
うまくハマれば儲けもの
こうして価格の面で整理してみると、iPadはかなり魅力的というか、場合によってはこれしか選択肢として選べないケースもあるんじゃないかと思う。そうなってくると、iPadでどこまでデスクトップ/ノートPC的な使い方ができるか、というところに興味が出てくる。MacBookやMacほど汎用的なことはできないにせよ、ある程度まで作業できるならこれで十分、という考え方だ。
本連載は、iPadをセカンドPCとしてどこまで利用できるかまとめることを趣旨とする。うまくいけば価格を抑えつつ、この最新のデバイスを使うことができる。ソフトウェア開発など、iPadではできない、または、できなくもないが不便すぎることもあるので、そうしたケースは諦めてデスクトップやノートPCの購入を検討したほうがよいだろう。しかし、iPadでこなせる仕事にうまくハマれば、MacBookやMacを買わずにiPadで済む可能性がある。その可能性を探るサンプルとして、本連載を活用してもらえるように進めていく。