「ダイキン」といえば、空調設備の第一人者として、家庭用から業務用まで幅広いエアコンのラインナップを取り揃えている。うるるとさららのCMでお馴染みの「ぴちょんくん」の会社として覚えている人も多いだろう。

このぴちょんくん、生年月日は「地球が生まれた日」だったり、実は性別が不明だったりと、様々な細かい設定があるのだが、そんな話はいつか別の機会にとっておこう。

話を本題に戻すが、ダイキンHVACソリューション東京では、この6月から「あんしんスカイエア」と呼ばれるソリューションを業務用エアコンとして新発売した。「エアコン」というと普通は製品そのものを思い浮かべるが、このあんしんスカイエアでは、"製品のみ"を売るのではなく、修理費などのサポート料込みの「トータルソリューション」としての販売を行っている。

このソリューションが成立した裏には、故障時に異常を検知してダイキンへ通知する仕組みが存在する。その一翼を担うKDDI ソリューション事業本部のモバイルビジネス営業部 部長の高比良 忠司氏と、ダイキン工業の営業会社であるダイキン HVACソリューション東京の取締役で管理本部長 兼 営業企画部長の髙橋 弘史氏に話を伺った。

ぴちょんくんを抱えるKDDI ソリューション事業本部 モバイルビジネス営業部 部長 高比良 忠司氏(左)、ダイキン HVACソリューション東京 取締役 管理本部長 兼 営業企画部長 髙橋 弘史氏(右)

キッカケは震災

――このサービス提供のキッカケは何だったのでしょうか?

髙橋氏「このサービスは、実はダイキンHVACソリューション東京として、約3年前から提供を開始しています(※「あんしんスカイエア」としての販売が6月から)。

2011年の東日本大震災後、電力の逼迫状況から東京電力さんより節電対策の相談がありました。ユーザー様がエアコン使用することをセーブできるシステムを構築できないかというお話でした。

しかしこのためには、ユーザー様と継続的で、なおかつ直接的な接点が必要となります。我々の設備業界では多くの場合、修理依頼なども含めユーザー様側からお声をかけていただくことで始めて、ユーザー様と繋がるケースが一般的です。

そこから、ユーザー様との接点を継続的に持つビジネスに対して関心を持ったのです」

東京電力は、東日本大震災を受けて原発稼働が難しくなったこともあり、当初は夏場に企業の電力需要を抑制しようと様々な方策を検討していたようだ。もちろん、夏場に一番電力利用が増大するのはエアコンであり、企業との契約で「電力需給が逼迫した際にはエアコンを制御する」といった契約をやろうと検討していたり、そうした企業は一定の値引きなどを行うことで電力の需給バランスを取ろうとしていた。もちろんこれは、安定した電力供給を目指す、インフラ企業としての努力といえるだろう。

その一方で、"原発ゼロ"による電力供給力の低下という危機的状況は変わらない。しかし、ここに対する危機感は国民の総意となって、草の根運動的に電力消費量がある程度抑制された(※企業に対する節電要請は実行されている)。そのため、2011年の夏場にも行われると言われていた「計画停電(輪番停電ともいう)」が、予定のまま実行されなかったことは覚えている方も多いのではないだろうか?

こうした経験をへて、ダイキンHVACソリューション東京は、新たなビジネスモデルの構築へと足を進めた。

既存製品の組み合わせが始まり

髙橋氏「実は、既存製品の寄せ集めだったりするのです。

当初作ったのは『安心保証リース』というリースを組み合わせたもので、商品売り切りの形が多かった中で、7年間のリース契約を行って、そこに無償修理というサービス形態をとった。リース形態にして無償サポートもつけることで、お客さまとダイレクトに繋がろうとしたのです。

こうすることで、循環型ビジネスに繋がり、リース期間中に様々なご提案、設備の更新時期にリニューアルのお話もできるようになる。業界として、あまりそうしたビジネスに目を向けてこなかったので、先に着目することで、差別化要素として広げていこうと考えました」

あんしんスカイエア

7年間という契約期間である以上、アナログデバイスとして故障は避けて通れない問題。そこでサポート料金込みでサポートを行うことで、ユーザーの安心につなげる。"ユーザーにとっての安心"と"ダイキン側の実利"のバランスをとった解決策だが、もちろんメーカーとしては故障はできるだけ避けたく、事前にエアコンの故障が把握できるのであれば、それに越したことはない。

そこで、ダイキンHVACソリューション東京はもうひとつのソリューションを組み合わせた。

髙橋氏「ダイキンでは、以前から『DAIKIN D-irect』というサービスを展開しています。これは、室内機にオプション基板を組み込み、Webサービスで室内温度と設定温度、消費電力などを簡単に確認できる"見える化"を行ったものです。

ただ、この既存サービスでは、ユーザー様のネット環境へLANケーブルで接続しなければならず、中堅中小企業などのオフィスでは『社内LANに接続したくない』といった話があった。そこで、KDDIのモジュールを使おうという話になったのです」

企業が社内LANを使いたくない理由としては、トラフィック管理の問題として、余計な通信まで監視したくないという思いがある。そこで、直接ほかの通信網でクラウドと接続すれば問題ないのではないか、そんな考えから、LTEモジュール「KYM11」を利用したソリューションへと話が進んだようだ。

LTEモジュールを利用することで社内LANを介さず、企業は安心して利用できる

髙橋氏「あんしんスカイエアのような製品は、中堅中小企業や商店、個人経営のお客さま、学習塾などが多い。そうしたお客さまは、なかなか直接エアコン会社との接点がない。そこで今回のようなサービスですと、省エネ運転の状況がネットで確認できますし、何より異常な動きがわかった場合に、お客さまからご連絡をいただく前に、こちらから『故障してしまったかもしれません』と伺うことができる。その上、異常発生時は異常内容が把握できるので、一度に修理部品を持って行くことも可能で、余計な作業工程がなくなるんです」

クラウドサービスとしての信頼性も担保されており、KDDIのLTE通信モジュールから閉域網を介してKDDI クラウドプラットフォームサービス(KCPS)へとデータが送られる。将来的に全国展開を行う際も、プライベートクラウドを活用しているため、可用性も十分として採用したようだ。

IoTは繋がることが重要

恐らく、読者の多くは「M2MとIoTでは何も変わらない」と思う人も多いだろう。実際に、ダイキン髙橋氏も、以前からあったソリューションの組み合わせという話や、ハイエンドソリューションのエアネットサービスの普及型モデルがあんしんスカイエアという話も出た。

しかしその一方で、クラウドやLTEモジュールなど、「低廉化をはかった汎用ソリューション」という存在が、M2M時代とは大きく異なるIoT時代の要素であるようだ。それは、髙橋氏の「こういったサービスをもっと簡単にしてスタンダードな商品にしていきたい」という言葉にも表れている。

髙橋氏「IoTだなんだと言いますけど、お客さまは最初から見える化にすべての関心があるわけではなく、コストパフォーマンスなど、実利の部分を見ていらっしゃる。そうした部分の価値提供にあわせて、私達としても、ユーザー様と繋がるというところに魅力を感じています。

今までメーカーは繋がる事を進めてこなかった、新規の顧客獲得を中心とした事業回転で長年進めてきましたが、もちろん、少しでも(既存顧客の買い替えという)数字を改善したい思いがあった。だから、既存のお客さまと繋がることで、商売のステージを変える目標ができたんです。

このサービスは『環境に対して優しい』『お客さま』『私たち』、三方良しのサービスだと思っています」

もちろん、見える化機能はユーザー次第でいかようにも活用できる。省エネだけでなく、電気料金の削減にも繋がる

この言葉に対して、KDDI 高比良氏は、ダイキン 髙橋氏らの取り組みをこのような言葉で後押しした。

高比良氏「繋がるよりも、売り切る方が楽。一過性のものから、ストックビジネスへと変えていく、その変革の意思決定をしたことが凄い。メーカーの販社という立場で、モジュールを組み込んでもらうといったところまでやられたのが凄いと思う」

もちろん、こうしたモジュールの組み込み、IoT化はほかにも例がある。エアコンも現代人にとって必要不可欠なアイテムだが、ほかにも生きる上で欠かせないところに通信モジュールの活躍の場はある。

通信ユニットと組み込まれている通信モジュール

高比良氏「あるお客さまの例では、ボイラーにモジュールを組み込み、故障前の異常検知を行っています。ボイラー(?)と思われるかもしれませんが、停電が起こった場合などの予備手段として病院などに導入されているケースがあります。そうした場では、万が一動かない場合があってはならない、命に直結する、死に関わる問題になるのです。データ解析によって、故障前の検知、それが重要な要素として、通信事業者として携わっています」

髙橋氏は最後に、繋がるというメリットを、面白い例も交えて語ってくれた。

髙橋氏「夏場の暑い時期に入った料理屋だと、たまに店内も暑い時がある。近年はある程度エアコンが付いているんですけど、故障していたり、入れていないケースもまだまだある。そうした時に、店主の方に名刺を渡して『ちょっと話を聞いてよ』と話すと、それが商談に発展することが未だにあるんです。

そうしたお客さまに話を聞くと、やっぱり『壊れて困るんだけど、修理代がかかるから、修理を呼びたくない/呼べない』という話が出てくる。だから、通信で繋がる新しい時代のサービスが生きてくる。

私たちも、今までは代理店さえ繋がっていればいい、お客さまとは直接つながってなくても問題ないと考えていましたが、これからは商売の仕方が違う。お客さまと常に繋がれる環境を通して、次につなげていきたい。ビジネスモデルをどんどん変えていきたいと思うようになったんです」