IoT(Internet of Things)という言葉をご存知でしょうか? これまで、ただの"モノ"でしかなかった家や車、そして歯ブラシまでもがネットへ直接繋がる時代になることを指しています。

この連載では、全てが"ネット"に繋がる時代だからこそ、思わぬところで漏れてしまう自分の情報をどのように意識して取り扱っていくか、トレンドマイクロの方に解説していただきます。

東京オリンピック・パラリンピックに向けて拡大するWi-Fiサービス

皆さんも御存知のように、2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。大会を間近で見られることも楽しみですが、筆者としては仕事柄、5年後の大会開催を見据えて様々なITの普及がこれまで以上に進むことに期待が高まります。

その一つとして注目するのが、外出先でアクセスポイントと呼ばれる機器に接続することで、ネットに無線接続できる公衆無線LAN、いわゆる「公衆Wi-Fi」の仕組みです。例えば、現地の電話回線を自由に利用できない状況にある海外旅行時の通信手段として重宝します。

日本では、国土交通省などが東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、観光立国を推進する観点から、公衆Wi-Fiの促進に取り組んでいます。また、公衆Wi-Fiは電話が混雑してつながりにくくなってしまう災害時などにも、比較的ネットに接続し易いことから、非常時の効果的な通信手段としても期待されています。

訪日外国人旅行者向けの公衆Wi-Fi共通シンボルマーク

こうした取り組みも影響し、国内でもカフェやコンビニ、駅などWi-Fiが使える場所がますます増えています。Wi-Fiを利用すると通信量の制限を気にすることなく動画サイトなども見られるため、外出先で利用する方も多いのではないでしょうか。都内で昨年12月に始まった地下鉄のWi‐Fiサービスを始め、誰でも使える無料の公衆Wi-Fiも多く存在します。

居心地の良いカフェで最新のノートパソコンを開き、お気に入りのコーヒーを飲みながらネットを楽しむ姿は、都会生活のあこがれの一つとも言えそうですが、近い将来国内のどこにいても、同じような楽しみ方が出来るようになるかもしれません。

便利なWi-Fiの落とし穴に注意

通信量の制限なく無料で利用できる公衆Wi-Fiは大変便利ですが、使い方を誤ると通信内容を盗み見られてしまったり、IDとパスワードなどの重要情報が奪われ、ネット上でなりすましの被害にあったりする危険性があります。

公衆Wi-Fiは、誰でも自由に使える仕組みである以上、その他のネットの脅威と同様、これに便乗しようとするサイバー犯罪者の存在には注意が必要です。

中には、偽のアクセスポイントを用意し、無料の公衆Wi-Fiと見せかけて人々を罠にかけようとする攻撃も存在します。言い換えるならば、公衆Wi-Fiを何気なく使うのは、旅先でその場所の治安を判断せずに、財布を見せびらかせて路上を歩くような行為とも言えるのです。

ちなみに、先日総務省が、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)への旅行者に対して行った公衆Wi-Fiのセキュリティに関する調査では、日本人観光者の48.6%、外国人観光者の28.0%が、公衆Wi-Fi利用時の脅威について対策を実施していないことが分かりました(総務省調査、PDFが開きます)。世界でも有数の安全な国として知られる日本に住む私たちは、サイバー空間上の安全性についても過信してしまいがちなのかもしれません。

きたるIoT時代、公衆Wi-Fiは外であらゆる端末をネットに繋げるための社会の重要インフラといっても過言ではありません。セキュリティを考えずに使うことで、思わぬ落とし穴にはまってしまうことのないよう、公衆Wi-Fiの利用時は、最低限の対策を心がけましょう。

具体的な対策

  • よく知っている共通シンボルマークや提供会社の表示がある場所の公衆Wi-Fiを利用する(その際、SSIDと呼ばれる端末に表示されるアクセスポイントの名称が表示通りかも確認)

  • 公衆Wi-Fiでは、ネットバンキングやネットショッピングの決済など、盗聴されて困る情報を入力しない

  • 公衆Wi-Fi利用時にID/パスワード入力を求められたら、他で利用中のID/パスワードを使いまわさない

これはすなわち、知らない国の知らない街を歩くときの心がけと同じです。

  • 今居る場所が安全かどうかを確認(信頼できる公衆Wi-Fiを選ぶ)

  • 財布をみせびらかさない。大金を持ち歩かない(重要な情報は入力しない)

  • パスポートや鍵は慎重に保管する(IDやパスワードを使いまわさない)

便利さや表面上のカッコよさだけを優先させることなく、安全性もしっかり確認してネットを楽しんでこそ、IoE時代のスマートな大人と言えるでしょう。

筆者:森本 純(もりもと じゅん)

トレンドマイクロ株式会社 マーケティング戦略部

コアテク・スレットマーケティング課 シニアスペシャリスト

ネットを安全に楽しむためのセキュリティ情報サイト「is702」の企画・運営をはじめ、セキュリティエンジニアとしての実務経験を元に大学生から企業ユーザまで広く様々な立場の人への脅威啓発活動を担当している。