IoE(Internet of Everything)という言葉をご存知でしょうか?

IoT(Internet of Things)とも呼ばれていますが、これまで、ただの"モノ"でしかなかった家や車、そして歯ブラシまでもがネットへ直接繋がる時代になることを指しています。

この連載では、全てが"ネット"に繋がる時代だからこそ、思わぬところで漏れてしまう自分の情報をどのように意識して取り扱っていくか、トレンドマイクロの方に解説していただきます。

夢の技術は今や当たり前?

SF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2」をご覧になったことがありますか?

バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズは、デロリアン(車型タイムマシン)に乗って、主人公達が過去へ未来へと旅する映画です。1989年に制作されたパート2の中では、1985年から未来へ旅をするシーンがありますが、その未来って実は今年、2015年なのです。空飛ぶ車はまだですが、素晴らしいことに当時映画の中で描かれた未来の技術の一部は、既に実用化されています。

そのうちの1つがビデオ通話。いわゆる「テレビ電話」です。

映画の中では、自宅の薄型テレビを前に主人公が会社の同僚とやり取りをするシーンが登場します。実際に多くの企業は遠隔地のオフィスとの間で、このようなネットワーク越しのビデオ会議を当たり前に行っています。

ご家庭でも、スマホやパソコンで「LINE」や「Skype」、「FaceTime」などのアプリを使って、遠くにいるご家族や友人と「テレビ電話」を行う方が多くいることでしょう。

テレビ電話を行うには、「Webカメラ(ネットワークカメラ)」が必要です。多くのノートPCやタブレット端末、スマートフォンにはあらかじめWebカメラが内蔵されていますが、Webカメラ単体でも安いものは1000円程度から売られており、ネットに繋げることで気軽にテレビ電話を楽しめます。

Webカメラは、テレビ電話以外の用途でも利用できます。例えば日中、ペットを家で留守番させることが心配な方のために、ペットの様子を見守ることに特化したWebカメラやアプリも提供されています。

この仕組みを使えば、外出先からスマホで手軽に部屋の様子を見られるだけでなく、動き回るペットを見るためにカメラの向きを変えたり、ズームしたりといった操作も簡単に行えます。

映像"情報"の取り扱いに注意

こんなに便利な「テレビ電話」や「Webカメラ」ですが、こうした仕組みが「個人的な情報」を「ネットに流している」という状況をしっかりと理解できているでしょうか?

残念なことに、Webカメラの仕組みを悪用した「セクストーション(Sextortion:性的脅迫)」と呼ばれる犯罪については、既に2010年頃からアメリカでは社会問題となっており、FBIも注意喚起を行っています

セクストーションの主な手口は、SNSなどで知りあった被害者のパソコンやスマホにウイルスを感染させ、端末内の連絡帳など個人情報を盗み取ります。さらに、Webカメラで被害者の日常を隠し撮りし、言葉巧みに被害者を騙して、テレビ電話の最中に服を脱がせたりするケースもあります。最悪の場合には、「言うことを聞かないと、盗みとった連絡先に録画したプライベートな動画を送る」と被害者を脅迫するなど、悪質極まりない犯罪へと繋がることもあるのです。

ウイルスに感染しなくても、セキュリティ設定の確認不足によって自分以外の第三者にWebカメラの映像を見られる可能性があることを知っておいてください。2014年11月には、インターネットからアクセス可能な世界中のWebカメラのリンクを集めたロシアのサイトが話題になりました。アクセス可能なWebカメラの情報を集めたサイト自体は珍しくなく、類似したサイトが複数確認されています。

話題になったロシアのサイトで見つかった日本のWebカメラ掲載数は400~600件にのぼり、米国と共に国別の件数で2位という状況でした。これは日本でWebカメラが普及していることと同時に、利用者のセキュリティ意識の低さを表しているとも言えそうです。

これらの「Webカメラ映像公開サイト」で参照できる映像が、仮に特別な認証なしにネットからアクセスできるものであれば、それはWebカメラの利用者による「オーバー・シェアリング」の可能性があります。これは、ユーザ自身が設定によって世界中にWebカメラの映像を閲覧できるようにしてしまっているため、プライベートな映像を一方的に公開する道義的問題はあっても、一律に不正サイトと断定することさえ難しくなってしまうのです。

来たるIoE時代、単純な設定のミスによる情報漏えいだけでなく、悪意を持った第三者による不正アクセスの増加なども考えられます。便利なWebカメラが、情報漏えいにつながることを防ぐために、責任を持って自身で出来る限りの対策を行いましょう。

  • アクセスに認証を必要とするWebカメラやアプリを選択する

  • Webカメラを利用するパソコン、スマホ上にセキュリティソフトを導入する

  • そもそもネットに公開されると困るような情報のやりとりはしない

新しい機器を使い始める時に、取り扱い説明書を読むのは面倒なもの。しかし、ネットに繋がるものであれば、セキュリティ関連の設定を事前に確認する。こうした行動が、IoE時代をスマート生き抜くためのライフハックの"最重要事項"といっても過言ではありません。

筆者:森本 純(もりもと じゅん)

トレンドマイクロ株式会社 マーケティング戦略部

コアテク・スレットマーケティング課 シニアスペシャリスト

ネットを安全に楽しむためのセキュリティ情報サイト「is702」の企画・運営をはじめ、セキュリティエンジニアとしての実務経験を元に大学生から企業ユーザまで広く様々な立場の人への脅威啓発活動を担当している。