半導体業界で何よりも重視されるのが、歩留まり確保までの期間(time to yield)である。半導体メーカーとその顧客の売り上げと利益を左右するだけでなく、エッジからクラウドに至るテクノロジーバリューチェーン全体の基準にもなるからだ。

歩留まり改善は今や数十億ドルをかけた競争となり、あらゆる関係者が利害関係にある。新しい技術プロセスノードの実証から量産立ち上げまでの期間が短縮されるほど、テクノロジーエコシステム全体が活性化するだろう。

この連載では、半導体業界が欠陥検出とプロセスコントロールの分野で直面している課題を論じてきた。従来の欠陥検査のアプローチでは、最近の半導体プロセスやデバイスの複雑さにはついていけなくなっている。コスト上昇の懸念から、十分な頻度の欠陥検査が行えていない状況だ。ファブの技術者は検査データをフィルタリングして疑似欠陥の検出量を減らしているが、その結果キラー欠陥を見逃し、かえって貴重な時間を無駄にする事態に陥っている。

もはやこのような状態を続けてはいられない。業界では今、ブレークスルーが求められている。

アプライド マテリアルズはこうした課題を解決するため、プロセスコントロールに向けた新しいプレイブックとして、半導体製造の中核にビッグデータとAI技術の利点を活用するソリューションを発表した。

これは3つの要素をリアルタイムで協調稼動させることで、欠陥の検出・分類を従来の方法よりも速く正確に、かつコスト効率よく行うことができるというものである。 その3要素を以下に示そう。

  • 新光学ウェハ検査装置「Enlight」:この装置は、業界トップクラスの処理速度と高解像度、先進的光学機器を組み合わせ、歩留まりに影響を及ぼすデータを1回のスキャンでより多く収集できる。その光学検査アーキテクチャは経済性が高く、致命的欠陥の検出コストは他の方式の3分の1に抑えることができる。このコスト改善により、半導体メーカーはプロセスフロー中により多くの検査ポイントを挿入することができる。その結果ビッグデータが得られるので、「ラインモニタリング」が改善され、統計的プロセスコントロール手法を使って歩留まりエクスカーションを発生前に予見することや、エクスカーションを早期に検出してただちにウェハ処理を止めて歩留まり低下を防ぐことができるほか、原因を突き止め迅速に修正して量産再開を早めることも可能になる。

  • 新しいExtractAIテクノロジー:ウェハ検査における最も困難な問題を解決することを目指し、AMATのデータサイエンティストによって開発されたのがExtractAIテクノロジーだ。ハイエンドの光学スキャナーによって生成される何百万ものニューサンス信号やノイズの中から、歩留まりを低下させる欠陥を迅速かつ正確に区別する機能を備えている。ExtractAIは、光学検査システムによって生成されたビッグデータと、推論に基づいて特定の歩留まり影響の欠陥を分類する電子ビーム レビューシステムとの間をリアルタイムでリンクできるソリューションで、その情報をもとに、Enlightシステムは歩留まりキラーとノイズを区別してウェハマップ上のすべての信号を解析する。ExtractAIテクノロジーは効率性が高く、サンプルの0.001X(0.1%)をレビューするだけでウェハマップ上のあらゆる欠陥候補を明らかにすることができる。その結果、欠陥分類を伴う実用的なウェハマップが得られ、半導体ノードの開発、立ち上げ、歩留まり改善の促進につながる。AI技術は適応性が高く、量産中にも素早く新しい欠陥を識別できるほか、スキャンするウェハ枚数が増えるほどパフォーマンスと効率が向上する。

  • 電子ビームレビュー装置「SEMVision」:SEMVisionは世界でも広く採用されている電子ビームレビュー装置。高い解像度を持っており、ExtractAIテクノロジーを装備したEnlightに学習させて、歩留まりキラー欠陥の分類ならびに欠陥とノイズの識別を覚えさせる。Enlight、ExtractAI、SEMVisionの3つはリアルタイムで協調稼動し、製造フロー内で新たな欠陥が見つかる度にこれを識別して、高い歩留まりと利益性を確保する。すでに世界で活用されているSEMVision G7は、新しいEnlightおよびExtractAIテクノロジーとの互換性を備えている。

これらの画期的なソリューションは、リアルタイムで学習・適応する能力を持ち、すべての欠陥が分類された完全ノイズフリーのウェハマップを提供できるレビュー技術となっている。

Introducing a New Playbook for Process Control

半導体メーカーはこのソリューションを利用することで、欠陥検査を増やしてより多くのデータを収集し、大量のノイズに翻弄されることなくプロセスレシピの健全さをチェックすることが可能となる。その結果、研究開発と立ち上げが加速され、量産歩留まりが向上する。

アプライド マテリアルズは、半導体業界の究極の目標である性能、消費電力、面積あたりコスト(PPAC)の改善に向け、長年にわたって研究を進めてきた。AIによって数兆ドル規模の経済価値が今後生まれると期待される中で、市場投入までの期間(time to market)はますます重要な要素となっている。EnlightとExtractAIテクノロジーによるソリューションは、PPACに時間を意味する“t”の追加を実現して、アプライド マテリアルズの指針となる戦略のPPACtを可能にする。

アプライド マテリアルズの社長兼CEOゲイリー・ディッカーソンは、AIがやがて半導体業界を含むあらゆる経済分野を変貌させるだろう、と述べている。プロセスコントロールの新しいプレイブックを手にした我々は、AIを活用した半導体製造を通じ、さらに優れたAIの実現を支えている。

この連載はApplied Materialsが発行している英文ブログをアプライド マテリアルズ ジャパンが翻訳したものを一部修正して掲載しております。

著者プロフィール

Oren Faigenzvaig
Applied Materials

プロセス ダイアグノスティックス&コントロール、オプティカルディフェクトコントロール部
プロダクト マーケティング責任者

2011年Applied Materials入社。
イスラエルのテルアビブ大学において電気・コンピュータ工学で理学士、テクノロジー・イノベーションマネジメントでMBAを取得。