先週の土曜日は首を痛くした人が多かったのではないだろうか。筆者もそうである。天候も良く、日本全国で皆既月食を観測することができた。事前にニュースを見ていたが、南の上空だと勘違いしていた。実際には南側ではなくほぼ真上だった。首が痛くなるのも仕方がない。
インドでの皆既月食は……
今回の皆既月食は中国全土でも観測することができたようだ。筆者の友人たちも、この天体ショーを大連で見ていたそうだ。中国だけではない、シンガポールでもインドでも状況は同じだ。東アジア~南アジア全域が赤い幻想的な月の舞台となった。
インドではデリーやムンバイ、チェンナイでも皆既月食を観測することができた。バンガロールやコルカタではどうだったのかはまだ聞いていない。
しかしインドでは、人々の皆既月食の受けとめ方は他の地域のそれとはちょっと違う。インドでは、日食や月食は不吉な事象と見られている。月食は見てはいけないものらしい。そのためか、インドの友人たちが月食を撮影したという話は聞かない。
インドの場合、ご法度なのは皆既月食を見ることだけではない。その前後5~6時間は食事もしてはならないとか。何か月食の負の力が身体に良くないとも聞くが、詳しくはわからない。宗教的というよりも、おそらくインド独自の健康科学によるものであろう。アーユルヴェーダなどの健康法が連綿と続くインドである。私達には思いもつかない根拠に基づく健康法があるはずである。
「事故」には怒りさえおぼえる
月食が不吉なのは仕方がない。これも「インドの知恵」であろう。しかし、いくらインドファンの筆者でも「事故」の多発には怒りをおぼえる。
このコラムでインドの鉄道事故の多さについて書いた。鉄道事故といえば日本ではすぐに中国の高速鉄道の事故を思い浮かべるが、日本も昔は事故が多かった。それを考えると、今の中国は東京オリンピック当時の日本と同じレベルであろう。
しかし、インドのそれは中国の比ではない。新幹線を輸出するどころではない。もっと基本的な安全対策の確立が急務である。
インドではその後も大きな鉄道事故がおきている。
先月22日にはジャルカンド州ギリディ県で走行中の特急列車で火災が発生し、7人が死亡する事故が起きた。この鉄道事故はテロの可能性もあるようだが、火災で2両が全焼した。
鉄道事故だけではない。今度は病院の火災である。「いい加減にしろ」と言いたくなる。
AFP通信によると、インド・西ベンガル州コルカタの民間病院AMRIホスピタルで、9日午前3時(日本時間午前6時半)ごろ火災が発生した。病院側によると、これまでに少なくとも70人が死亡したとのことだ。犠牲者の多くは入院患者で、煙を吸い込んで死亡したとみられる。
この病院で火災が起きたのはこの3年間で2度目。現場に駆け付けたママタ・バナジー西ベンガル州首相は、この病院のライセンスの取り消しを命じるとともに、火災原因の徹底究明と防火基準を満たしていなかったことが判明した場合の厳しい措置について言明した。
被害を拡大させるインドの建物の構造
火災の原因とか、犠牲者が何故70人以上にも上ったのかということについては、まだ正式な発表がない。ただ、この事故で筆者が真っ先に思ったのは、インドの建物の構造である。
筆者が初めてインドに行った際に驚いたのはトイレの鍵である。内側ではなく、外側に南京錠がついている。たしかに防犯上はその方が良いのかもしれない。間違って外から鍵をかけられるとどうなるかは別である。
次に驚いたのは、窓という窓に鉄格子がついていることである。これも防犯上の処置だろう。
筆者が行っている研修で、大学の寮を使っていたことがある。寮の1階には研修室があり、裏側にはホテルとレストランがあった。寮から徒歩5分ほどの距離に大学病院があるという非常に良い環境である。敷地から一歩も出ずに研修漬けにすることもできる。
ところが寮もホテルも病室も、窓という窓には鉄格子がある。火災が発生したらどこから逃げればいいのか。何とか火災発生時の避難ルートは確保したが、女性の居室ゾーンも鉄格子の檻があって、外から南京錠をかけるようになっていた。さすがに筆者もこの檻だけは撤去してもらった。
この寮が特殊なわけではない。外国人出張者が宿泊するような4スター以上のホテルは別だが、安いホテルの多くには窓に鉄格子がついている。列車の窓も同じである。避難ルートなど何も考えていない。これが今回、多数の犠牲者を出した原因になっていなければいいのだが。
とにかくインドはあまりにも安全性を軽視し過ぎている。アーユルヴェーダという立派な健康法を確立しているインドには似合わない。
なお、前回予告していたインドにおける医療におけるイノベーションの話は、諸事情により機会をあらためてお伝えしたい。
著者紹介
竹田孝治 (Koji Takeda)
エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「(続)インド・中国IT見聞録」も掲載中。
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