このたびの東日本大震災により犠牲となられた方々に深い哀悼の意を表しますとともに、被災された皆様方に心よりお見舞いを申し上げます。今回の「インド・中国への羅針盤」は、やはり震災の話題を抜きにしては書けません。官民あげての支援や世界各国からの支援により被災地への食料・水の供給もまわり出したと聞きますが、Twitterなどを見ていると、まだまだ被災地には物資が絶対的に不足しているようです。生産活動停止、物流壊滅、風評被害が大きいですね。首都圏の計画停電がさらに足を引っ張っているようです。
計画停電など愚の骨頂
計画停電については、筆者の独自コラム「インド・中国IT見聞録 第21回 停電対策ならインドにおまかせ」にも書いたのだが、現在の無計画停電には反対、それよりも停電対策先進国 インドに学ぼうというのが筆者の考えである。
筆者の地元である府中市も計画停電の対象となった。交差点の信号は消えているのに交差点角の商店には電気がついている。自動販売機が2台並んでいて、片方だけ電気が消えた。こんな訳のわからない計画停電では、いつまでたっても社会のリズムが作れない。
いつでもスイッチを入れれば電気がつく……もしかすると、そんな風に無制限に電気を使える生活は二度と帰ってこないのかもしれない。そう考えると、停電とも仲良くせざるを得ないだろう。インドでは停電は日常だ。しかし、それでも経済成長は止まらない。
東京電力によると、今夏の電力需要のピーク時には、需要の25%の供給が間に合わなくなるとのことである。25%……?? 筆者は、この程度であれば節電キャンペーンなど実施しなくても、知恵と工夫で乗り切れると思うのだが。
効率化され過ぎた社会の脆弱性
被災地だけでなく首都圏からも乾電池や水、ラーメン、牛乳などが店頭の陳列棚から消えた。この程度なら大きな問題ではない。日用品なら何とかなる。24時間365日、いつでも買うことができたというのも、ある意味ではこれまでが非常識だったのかもしれない。
たしかに石油は大きな問題だ。だがインドでも石油不足は日常的で、ディーゼルを求めてオートリクシャーがガソリンスタンドに列をなすとか、運送業界がストライキを行うなんてことは当たり前の話である。
今回の物不足は工場の被災や計画停電、被災地への優先配送、そして買いだめが原因と言われている。しかし、実はもっと大きな原因がある。社会全体が効率化され過ぎているのである。
わが国は、在庫を持たないトヨタ自動車の生産方式である「ジャスト・イン・タイム」に代表される効率の良い物資の調達手法が社会の隅々まで徹底され、ひとたび歯車が狂うとすべてが止まってしまう社会になってしまった。やはり少々の無駄があっても、地産地消の考えがないと脆い。
インドから驚きの支援物資
世界各国から支援物資が届いている。ありがたいことである。タイからの発電装置一式無償貸与などという話も聞いた。驚いたのはインドからの支援物資である。さすがインド、毛布2万5千枚には納得した。しかし毛布だけでなはく、ペットボトルの水も約1万3000本……これには驚いた。
インドの水問題については本連載の第8回「取るに足らない!?レアアースと引き換えに『水』インフラを確保するインド」でも書いた。この話は主に農業用水についてであったが、ご存知のようにインドは飲料水についても深刻な問題を抱えている。
そんなインドが、自国でも不足している飲料水を送ってくれたのだから、本当に感謝しなければならない。だが、このニュースを聞いて筆者が最初に思ったのは「これは大丈夫な水なのか?」である(ごめんなさい)。まぁ、政府が送るものなのだから大丈夫のはずであるが。
インドの水は種類が多い。公営水道は別にして、筆者のインド(チェンナイ)のアパートには、井戸水とタンクローリーで運ばれる水、業者から買う25リットルの水がある。タンクローリーで運ばれる水は比較的安全だが、残念ながら筆者の部屋には配管がつながっていない。だから、シャワーも食器を洗うのも井戸水である。シャワーからは時々、真っ黒な水が出てくる。
料理に使うのは25リットルのコカ・コーラ社の水だ。水そのものは飲料水と同じで安全なのだが、配送業者が容器の使いまわしを行っている。そのため飲み口やキャップに細菌が付着している場合があり、生で飲むわけにはいかない。
インドへの出張者が飲めるのはコカ・コーラ社とペプシコーラ社の1リットルのペットボトルだけだ。それ以外のペットボトルの水は飲めない。それだけペットボトルの水は貴重である。今回の水はタタの水だそうだ。チェンナイではまだ見たことはないが、タタなら大丈夫だろう。インドでタタを疑っていては何もできない。
インドの野菜と魚
では、野菜や魚はどうか。インドの実情をお伝えしておこう。
日本では放射能汚染による風評被害も広がっているが、まずは野菜について。これに関しては、放射能汚染はまだ聞いてはいない。だが、農薬の危険がある。
日本で、中国製の餃子に毒物が混入されたとされる事件が発覚した際に、検出された農薬の値が「農薬に漬け込んだようなレベル」との報道があった。だが、これはインドでは珍しいことではない。とくに安い野菜はダメで、高級店の最も高価な野菜でないと危険である。そのほかの野菜は、徹底して洗う必要がある。もっとも、一部では「低農薬」を唄い文句にした野菜もある。ただし、こちらは細菌が心配だ。やはり徹底して洗うことだ。もちろん安全な水で。
魚はもっと難しい。そもそも西ベンガル州やケーララ州を除くと、インドでは魚を食べる習慣が少ない。つまり、魚の目利き業者が少ないのだ。特に近海魚が心配で、最も危ないのは、工場の排水がそのまま海に流れ込むことによる水銀汚染である。
筆者は、チェンナイ郊外のリゾート地であるマハーバリプラムの屋台の魚などには手を出したことがない。自殺行為だからだ。インドでは生活排水もそのまま海に流れ込むので、細菌の心配もある。たしか何年か前には、原子力発電所からの汚染された水の漏洩事故もあった。日本の商社などは、インドでエビを獲って日本に輸出しているようだが、毎年、安全な場所を探すのに苦労しているという。
また、インドにも地震の問題がある。インド洋大津波の時も危なかった。津波で珊瑚礁が破壊され、食物連鎖によって珊瑚の毒の影響を受ける近海魚が危険だと言われた。それでも大丈夫な魚もあるが、市内の道端で売っている魚などは、半分は腐っている。
このような状況は、5スターホテルでもあまり変わりはない。筆者の会社の顧客にも、5スターホテルの魚料理など絶対に食べさせることができない。とにもかくにも情報公開が大事だ。
それでも筆者は、インドに行くと刺身を主食としている。リスクを考えることができる目利きがいれば安全なのだ。この場合は顧客にも勧める。
著者紹介
竹田孝治 (Koji Takeda)
エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「(続)インド・中国IT見聞録」も掲載中。
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