中東や北アフリカが大変なことになってきた。最初は「Facebook革命」などと呼んで対岸の火事的に見ていたものが、リビアにまで拡大してくると石油高騰が現実の問題になってきた。いや、もはやそんな従来の思考も通じない。底流に食糧危機の問題がある以上、明日は世界中のどこで噴火するかわからない問題なのだ。今回は、経済成長が続くものの中東と同じようにインフレ対策が焦眉の課題になっている中国とインドのケースを見てみよう。

貧しくても豊かな中国の田舎

4年前、筆者は中国の大学生の採用面接で湖南省の省都・長沙に行った。当時、応募者300人の教育と、そこから25人への絞り込みを現地のソフトウェア会社にお願いしていたのだが、これをさらに3人に絞り込む最終面接のための2泊3日の出張だった。

この時は、良い人材ばかりで落とすのが難しかった。結果、3人でなく4人を採用した。

面接の場で兄弟の話になった。ほとんどの学生が2~3人兄弟である。一人っ子は3人しかいない。彼らに一人っ子政策との関係を聞くと、「ここは田舎だから関係ない」とのことである。筆者はその時、中国の一人っ子政策の実態を初めて知った。

さらに、兄弟は何をしているのかを聞いてみた。どうやら兄弟は大学生らしい。ここから混乱してきた。中国の田舎は貧しいのではないのかと聞くと、「はい、貧しいです」と言い切る。貧しくても大学に行けるのかと聞けば、「それとこれとは別問題です」とのことである。

筆者は面接がすべて終わってから郊外まで足を運んだが、たしかに途中の農村風景は日本と変わらない。綺麗な農道を通ってきたが、その両側は日本の農村そのものである。現金収入という意味で「貧しい」ということだろうか。

湖南省の農村

その少し前に北朝鮮国境の街・丹東にも行ってきた。

空港の建物は、少し大きめのプレハブ(?)のような建物である。建物の前にはタクシーが5台しかない。丹東はそんな田舎町だ。大連のソフトウェア・パークなどは特殊であり、中国ではほとんどの街がこんな寂れた様子であろう。しかし、市場に行くと肉、魚、野菜が山のように積まれている。料理屋も、大連・星海広場のような豪華さはないが、美味い中華と韓国料理ばかりである。 仕事が終わって、鴨緑江をモーターボートで案内された。そこは、数メートル先は北朝鮮という場所である。夜、ホテルの窓から眺めた北朝鮮は暗闇だ。一方の中国側はカラオケでも何でもある。もちろん、昼間のように明るい大連の夜とは比較にならないが。

北朝鮮との国境の街・丹東の市場

人のいない北朝鮮の船のドック

2年前、当社社員の結婚式に出席するため、寧夏回族自治区の北端・石嘴に行った。北と東西が内モンゴル自治区、西側の丘のような山の向こう側は砂漠らしい。自然との厳しい戦いの街だ。高速道路の両側で、防風林に囲まれて野菜を作っている。泊まったホテルの裏の朝市に行ってきた。どこで採れたのか、ここでも野菜が山積みである。

寧夏回族自治区石嘴市の朝市

花嫁の母親の親友は回族料理屋のおばさんだ。店は繁盛しているし、美味しい回族料理をたらふく食べさせていただいた。

少なくとも食に関しては中国の田舎は豊かである。

王府井から革命が始まる?

北京の繁華街 王府井。ここは日本で言えば銀座とアキバを合わせたような街か。筆者はこの街に一度だけ行ったことがある。屋台の料理が美味しそうだ……という筆者の気持ちを察してか、当時案内してくれた中国人経営者に「ダメだよ、食べたら」と怒られた。どうやら「屋台料理はエグゼクティブが手を出すべきものではない」という考えがあるようだ。

北京・王府井の屋台街

北京・王府井の北京ダックの料理屋

行き先は美味しい北京ダックの店である。何でも100年以上の歴史のある店だそうだ。そこの北京ダックは、いままでいただいた中で一番おいしかった。ちなみに王府井には、(筆者に用はないが)高級ショッピングの店も並んでいる。

そんな街にもマクドナルドはある。このマクドナルドの前から中国版ジャスミン革命を始めるというのには驚いた。匿名の人物が米国のWebサイトを使い、国内の中国人に対してTwitterで市民に「始めろ」と広く呼びかけている。

本連載でもすでにお伝えしているが、公式には中国ではTwitterもFacebookも遮断されている。それでも、面倒なVPNサービスを使えば国外のネットワーク環境に接続できるため、前回にも書いたがFacebookは69万人まで利用者が増えた。もっとも、この利用者数には中国に滞在している外国人も含まれているから、中国人利用者がどれだけいるのかはわからない。

しかし、チュニジアやエジプトで起きたことは「民主化革命」などではありえない。これは食料高騰に苦しむ民衆の怒りの爆発である。そもそも「革命」の主役は失うものを持たない民衆の蜂起である。Twitterでつぶやき、王府井でショッピングをする中国人などは特権階級そのものであり、革命とは無縁である。

もちろん暴動などは中国では日常茶飯事だろう。地方では何千件も起きていると聞く。土地を取り上げられた、幹部の不正があった……といったことですぐに爆発する。数年前には大連でも暴動が起きた。この時は反仏暴動であり、カルフールが襲撃された。筆者の知人の会社の若者も参加したと自慢げに話していた。しかし、それは革命とは無縁の「不満の爆発」である。湖南の田舎で、丹東で、寧夏で、このようなところで食えなくなる事態になれば革命の始まりである。しかし、当面はそのようなことはなさそうだ。

インドではジャスミン革命は起きるか

これに対してインドは深刻である。

筆者のコラム「(続)インド・中国IT見聞録」でも書いたが、インドでは今、食料インフレが社会問題となっている。このインフレから経済全体がおかしくなってきた。デリーではデモも始まった。農村はもっと疲弊している。

中国で「格差拡大」といっても、全体としての生活は向上している。しかしインドの格差拡大は、経済成長によって土地を取り上げられ、食料高騰で食べるものがなくなるのだから大変だ。

では、インドでジャスミン革命が起きるか?

多くの人は「インドは民主主義国家だから起きない」と言う。しかし、そんなことはありえない。筆者はインドが民主主義の国だとは思ってはいない。カーストという階級社会と民主(民が主)の考えは合わないからである。そもそも民主主義であったとしても、食えなくなると革命が起きるのは必然である。

であればインドではジャスミン革命が起きる? いや、筆者は起きないと考えている。細分化されたカーストのために、カースト間で利害が対立する。最終的にはカースト間戦争になる。州ごとに民族が違い、利害が対立する。アンドラ・プラデシュ州などでは、テランガナ地区分割を巡って州内でも利害が対立する。ヒンズー教、イスラム教、シーク教などの宗教対立もある。こちらでは同じ利害集団だと思っていても、別の面では利害が対立する。

つまり、インドでは誰も多数派になれない。その時、その時で"敵"が違うから厄介である。エジプトでは"反ムラバク大統領"で一致できたが、インドには"ムラバク大統領"は存在しない。だから"薩長同盟"も成立しないのだ。

唯一、多数派になれる可能性があるのは毛派だけだが、毛派は都市住民には無縁の存在である。アッサムもカシミールも中国のウイグル・チベット問題と同じで、その地域だけの問題である。国全体の問題ではない。

やはり受け皿(多数派)がない以上は、何とかインフレを封じ込め、農民の生活を向上させるしか道はないようだ。

スラムに追い討ちが

先週、ムンバイのスラム街で大火災があったようだ。報道によると、数百世帯が焼け出されたとのことである。悪い時には悪いことが重なるものだ。だが、スラムの住民は強いから何とか乗り切るだろう。

この火災では、映画「スラムドッグ$ミリオネア」のヒロイン ラティカの少女時代を演じたルビーナ・アリちゃんの一家も焼け出されたとのことである。しかしラティカには恋人ジャマールがいる。映画と同じように彼が助けに行くであろう。インド全体のジャマールは存在しないが。

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「(続)インド・中国IT見聞録」も掲載中。

Twitter:Zhutian0312 Facebook:Zhutian0312でもインド、中国情報を発信中。