インドでは61年前に憲法が施行された。1月26日はその記念日となる共和国記念日(Re-public day: R-day)だった。中国では春節(旧正月)を迎えた。筆者にとってのここ2週間における話題はこの2つである。

春節こそ稼ぎ時?

まずは春節の話題を。

実は筆者はまだこの時期に中国に行ったことはない。極寒の中国は何度も体験したが、春節だけはいつも外していた。

これは当たり前のことで、年末年始に日本に来る外国人出張者などいないのと同じである。ちなみにディワリの時期にインドに行く出張者もいない。会社という会社がすべて休み、従業員はほとんどが帰省している。行っても仕事になるわけがない。閉まっているレストランが多いので、食事も満足に取れない。ビジネス面では最悪の時期である。

もちろん例外はある。筆者のTwitter繋がりの知人が経営する大連のビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)会社は、この時期が稼ぎ時のようだ。

日本の企業にとっては旧正月は関係ない。しかし、ほとんどのBPO会社が休みなので、営業している会社に仕事が集中する。そのため、大晦日も元旦も土日も関係ないようだ。従業員は全員出勤して日本向けの業務をこなしているらしい。

この会社では、社員の入社時に、日本のカレンダーで働くことが契約条件になっているそうだ。いや、いくら契約だからといっても通じない。やはり普段からの従業員教育の賜物であろう。一朝一夕に実現できるものではない。現実には大変なご苦労があったのではないかと思われる。

当社の中国人社員が自分で大連に立ち上げたBPO会社も営業していたようだ。だが、まだ立ち上げ直後ということもあるので全員出勤は難しいだろう。

見事な花火だが、後が大変

しかし、春節における大連での仕事の話ばかり書いても仕方がない。

先日、大連の知人が春節の花火の写真を送ってきてくれた。これは市内全域、見渡す限り花火の世界となる大晦日から元旦にかけての大連の様子。インドのディワリの花火とどちらが凄いかは知らないが、一度は見てみたいものだ。もっとも、ディワリのように、ロケット花火が真横に飛んでくるのなら行きたくはないが。

春節に舞う大連の花火

春節で賑わう大連・星海広場

ちなみに花火の後は大変なようだ。別のBPO会社を経営している人物の話によると……大連市内最大の商業地域、マイカルの周辺に彼の会社はあるのだが、会社の前の道路は爆竹の跡で真っ赤になっているらしい。これをどうやって片付けるのかは聞いていない。また、報道によると春節前日の2日から3日朝までの32時間に、花火や爆竹などが原因の火災が中国国内で計5,945件も発生したとのことである。

インドIT業界はどこに向かうのか

さて、ここからはインドの話題。

共和国記念日とは別に、いまインドで最も問題になっているのはインフレ。特に食糧インフレは顕著なのだが、この点については筆者の独自コラム「(続) インド・中国IT見聞録」の最新号「農村を制するものがインドを制する」で書いたので、ここでは米国との関係についてお伝えしておこう。

昨年の米国セールスマン: オバマ大統領のインド訪問は華々しかった。

各企業の経営者を引き連れ、大型の商談を次々と決めていった。その中でオバマ大統領は貿易拡大のためにインドへの先端技術輸出規制緩和の方針を表明していた。そして先日、その第一弾が発表された。

先月25日の報道によると、米商務省は米ハイテク製品を大量破壊兵器の製造に利用する可能性が懸念される外国企業・個人のリストから、インドの複数の宇宙防衛関連企業を除外するとした。と同時に、核拡散への懸念に関連する複数の国のカテゴリーからインドを除外することも発表した。

米国の狙いは2点である。1つは米国製品のインド輸出を拡大すること。とにかく米国製品を売り込んで米国内雇用を確保したいというわけだ。もう1つはインド軍の近代化で中国包囲網を築きたいのであろう。輸出品目にはインドの国産戦闘機「テンジャス」に搭載されるGE社製のエンジンも含まれている。

この話だけなら「米印蜜月」関係である。しかし事はそう簡単ではない。これは単に米国側の狙いである。インドにとっても、単に米国のハイテク製品を買いたいだけの話である。だから戦闘機のエンジンは米国から買っても、超音速ミサイルはロシアとの共同開発であり、これは共和国記念日のパレードで披露されている。

リーマンショック以降、米国の保護主義的な動きは顕著になっている。インドIT技術者達が次々と米国から帰国せざるを得なくなってきた。

オバマ大統領も選挙戦の時からインドへのオフショア発注企業に対する課税強化を公約としてきた。「米印蜜月」の演出も、お互いの思惑が一致しただけである。

IT業界ではどうか。これはもう冷戦前夜の状態のように見えてくる。

英フィナンシャル・タイムズ紙の報道内容を伝える日本経済新聞の記事によると、米国では昨年、H-1B(特殊技能を要する職業従事者向けのビザ)やL-1(企業内転勤者向けのビザ)の申請料を320ドルから2,000ドルに引き上げることを盛り込んだ法案が可決された。インドのITサービス企業は通常、これらのビザを使って技術者を米国に送り出している。申請料引き上げが実施されると、インドのIT業界の負担は年間2億~2億5000万ドル増加するとのことである。

これに対してインドIT大手はおしなべて「米国への依存を減らし、欧州や新興国での売り上げを増やす」との方針を示している。たしかにインドIT業界はリーマンショック後の落ち込みからは脱した。今年1年間のインドIT大手5社の採用は実に18万人に達するようだ。

しかし、予想される米国における売上の減少を本当にカバーできるのか。ちなみに欧州も米国と事情は似たようなものだ。エアバスを大量にインドに売り込んでいるが、ITの売上をインドにまわす余裕などはない。ではインドが狙う「新興国」とはどこか。共和国記念日に主賓として招かれたインドネシアか。いや、それではあまりに規模が小さい。やはり今までの実績と規模を考えると中国しか思い浮かばない。

【お知らせ】
「新IT時代への提言2011 ソーシャル社会が日本を変える」(アスキー総合研究所 編 / アスキー・メディア・ワークス 刊)の一部(「第1章 漂流する科学技術立国・日本」の「日本人エンジニアは印・中のマインドをまねろ」の項)を執筆しました。

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「[(続)インド・中国IT見聞録]」も掲載中。