落とし穴・その5:対話が短いほど安全性が高いと思い込むこと
対話が短く簡潔になるほど、安全性とユーザー体験の満足度が高まると考えがちです。しかし、この点は最も誤解を招きやすい設計コンセプトの1つであり、大きな落とし穴です。
プロンプトを短くしすぎると、ドライバーはどう音声で指示すればよいのか考え込んでしまうことがあります。その結果、対話が中断して、(ユーザーが何も話さないので)タイムアウトが起きて処理が終了してしまうことになるでしょう。あるいは、ドライバーが思いついた音声コマンドを話してみるものの、それが正しくない場合には情報が少なく役に立たないエラープロンプトをたくさん受け取ることになります。その結果、トータルの操作時間は長くなり、認知的負荷が増えることで運転上のリスクが高まり、不満足な対話を生み出すことになります。
具体的には、こんな2つの対話システムを想像してみてください。1つはあるタスクを完了させるまでに、「わかりません」いう1秒のプロンプトが6回も続くシステムです。もう1つは、「わかりません」という1秒のプロンプトに続いて、タスクを完了するためのヒントが含まれている10秒のプロンプトが再生されるシステムです。前者の場合、プロンプト間のポーズの時間を含めると、1つのタスクを完了するためにイライラする30数秒の時間がかかります。後者の場合は、もうすこし穏やかな25秒間で済むかもしれません。5つの1秒間の(短い)プロンプトを5回繰り返すことが、1度の5秒間のプロンプトよりもよりよい対話である、とは言えません。
このバランスの問題は、プロンプトを示唆に富んでいて簡潔なものにすることで解決できます。混乱を招き、価値の無い曖昧な言葉は省かなければなりません。しかし、対話の自然さを犠牲にするべきではありません。対話を短くしすぎて、あまり機械的なものになってしまうのは避けるべきです。また、インタラクション(ドライバーと車載インフォテインメントとのやりとり)のステップ数が増えたとしても、もしユーザーが簡単にやりとりできるのであれば、トータルなインタラクションの時間は短くなることもあります。人間のインタラクションは複雑で、ゼロサムゲームではありません。
車載インフォテインメントを使いなれたドライバーにどんな機能が欲しいかとたずねると、プロンプト再生中でも、それに割り込んで指示を出して早く基本ダイアログを終わらせたい、という回答がすぐに返ってきます。これは、適切に設計されたバージイン(割り込み)機能で実現することができます。このような割り込みは、人間の会話においても自然な行動です。
最後になりますが、NLUはこの落とし穴を回避する有益なツールであることを、もう一度強調しておきます。優れたNLUは、ドライバーが最小限の努力でシステムと対話することを可能にします。
最後に
これまで披露した5つの落とし穴は、すべての問題点を網羅するものではありませんが、今日、路上で運転されているクルマの中で見られる最大の問題点を含んでいます。技術はどんどん進化します。それに対応して、我々はドライバーが望む、あるいは想像してもいなかったようなユーザー体験の開発に、より多くの時間を割く必要があります。しかし、そのためにはまず、もっとも基本的で一般的なインタラクションの体験を、より確実なものにしていくことが大切だと考えています。
著者プロフィール
Adam Emfield(アダム・エンフィールド)
Nuance Communications
オートモーティブ・ビジネスユニット
プリンシパル・ユーザーエクスペリエンス・マネージャー約10年間、人間工学、エンジニアリング、コンピュータサイエンスなどの分野を専攻後(修士号取得)、Nuanceにおいて車載機器のユーザーエクスペリエンスおよびユーザビリティに関する研究を主導。
現状の分析を通じて革新的な新しいアイデアを導き、Nuanceのユーザー視点を考慮した提案活動に従事