落とし穴・その2:情報を提供しすぎること

ドライバーが運転中に気を配る対象が増えると、トラブルが起こる可能性が高くなるので、好ましいことではありません。しかし、現在路上を走るクルマ中でしばしば起こっていることでもあります。多くの場合、車載インフォテインメントは最適な条件下で使われることを前提に設計されています。運転操作や同乗者との会話や仕事帰りの買い物のことを考える、といった認知的負荷が高い状況での利用についてはあまり考慮されていません。

一度のプロンプト(音声ガイダンス)や1画面のスクリーン上で多くの情報が提供されると、ドライバーはその情報を得るためにより多くの意識をそちらに向けることになりますので、危険な状況を引き起こしかねません。ドライバーディストラクション(運転への集中を阻害する要因)があふれている状況では、ディストラクションを増やのは避けるべきです。

例えば、私が次のような道案内をしているとします。

「…マサチューセッツ通りを右に曲がって、ハーバードスクエアまで道なりに進みます。その先の三叉路で左方向に入りますが、すぐに右折できるように右側車線で走ってください。その道を直進していくと…」

現在のカーナビは、この例のように道順を一回で指示することはないので、ちょっと不自然に聞こえるかもしれません。少々常軌を逸した感じですが、実はHMIの他の部分では同じようなことが起こっています。ドライバーに2~3ステップ以上の、あるいは一瞬で覚えきれない量の情報を提供すると、ドライバーはそれを無視したり、一部を忘れたりする問題が起こります。

最も問題なのは、音声で操作方法を案内するヘルププロンプトです。ある車載インフォテインメントでは、サポートしている機能すべてについて、特定の施設情報(POI)のWebアドレスと連絡先の電話番号とを一緒にアナウンスします。また別な車載インフォテインメントでは、ヘルププロンプトが1分以上の長さがあり、本当に必要な情報を得るまで、それを3回も聞かなくてはなりませんでした。こういった対話設計の意図は理解できます。できるだけ詳しい情報をドライバーに提供することで、ドライバーが陥っている、どうしたらいいのかよくわかない状況から脱出させたいのです。しかし、プロンプトが適切な長さを超えてしまうと、返って逆効果です。

この問題も、NLUを使った対話型システムを利用することで解決することができます。自分が他の人から何か情報を聞き出す場面を想像してみてください。ほとんどの場合、自然で理解しやすい双方向の対話になっているはずです。このアプローチは特に、対象が汎用的なものよりも特定の領域に関する質問の方がより効果的です。多くの場面では、ドライバーはどうしたらいいか迷ったり戸惑ったりした時にヘルプを求めるわけですが、そういった場面でNLUは重要な役割を果たします。NLUによって音声認識の固定的なコマンドを学習することなく、ドライバーが自然に発話する幅広い指示による操作が可能です。正確な言い方でなくても問題はありません。

車載HMIを利用する際のドライバー情報の過負荷をどう防ぐべきか?

視覚情報の面でも、同様にHMI情報過多の罠に陥るリスクがあります。ドライバーにどのような情報を知りたいかと尋ねれば、スマートフォンのバッテリー残量、地図、今聞いている曲のアルバムアートなど、多種多様なものを含む長いリストになります。ドライバーが情報を読み取る能力は、表示する情報が多すぎると損なわれることがあります。解決策は、ドライバーがどのタイミングでどんな情報が必要なのかを分析し、表示する情報に優先順位をつけることです。通常、運転や現在の動作に関係のない情報は隠しておくべきです。

適切な量の情報とは?

ドライバーに提供する情報が少なすぎることは、情報が多すぎるのと同様に危険な状況をもたらします。意味のある情報が提供できていない場面では、不足している情報を引っ張り出すためにドライバーはあれこれ操作することになり、結果としてディストラクションが増えてしまうからです。情報量のバランスを取る操作には繊細な調整が求められるため、慎重に行う必要があります。

車載HMIの設計者は、ついドライバーが遭遇するさまざまな事象にすべて対応しようと考えますが、ドライバーが運転以外のことに注意する時間は限られています。その限界を超えた情報量を車載インフォテインメントが提供することは、避けるべきです。余分な情報は省略しつつも、ドライバーが全ての状況をコントロールするのに必要な最適な情報量を探し出すことが、車載HMI設計者にとっての課題です。

情報過多と情報不足とのバランスを取り適切な量の情報を提供

次回は4月13日に掲載予定です

著者プロフィール

Adam Emfield(アダム・エンフィールド)
Nuance Communications
オートモーティブ・ビジネスユニット
プリンシパル・ユーザーエクスペリエンス・マネージャー

約10年間、人間工学、エンジニアリング、コンピュータサイエンスなどの分野を専攻後(修士号取得)、Nuanceにおいて車載機器のユーザーエクスペリエンスおよびユーザビリティに関する研究を主導。
現状の分析を通じて革新的な新しいアイデアを導き、Nuanceのユーザー視点を考慮した提案活動に従事