IHS Markitテクノロジー部門調査ディレクタの南川明氏は、2019年上半期が終わった時点での半導体産業の最新動向についても言及し、いくつかのホットな話題につて以下のように解説した。
DRAMおよびNANDの需要回復時期はいつなのか?
まずDRAMであるが、GAFAのサーバ投資が抑制されてきたことから需要は減速している。その結果、SamsungでさえもDRAMの値下げを行って在庫調整を行っている状態で、同社の利益率は2019年第1四半期で50%程度、第2四半期で35%程度、第3四半期で25%にまで減少するとみられている。サーバ投資は2019年第4四半期から増加することが期待されており、そのタイミングでDRAM需給も一時的に盛り上がりを見せるため、価格は下げ止まる見込みである。
次にNANDであるが、スマホ販売台数は前年比5%減となるにもかかわらず、NAND搭載容量の拡大効果が需要の増加を呼び起こすことが期待される。また、エンタープライズSSDのNAND搭載容量も価格下落により増加が見込まれている。Samsung、SK Hynix、Micron、東芝メモリなど各社ともに2019年は投資抑制や出荷抑制を行っているが、それでも30%強の価格下落が見込まれており、2019年第1四半期にはSamsung以外のすべての企業が赤字となった。第4四半期でようやく価格の下げ止まりが見えてくるが、業界全体で約12週間分の在庫が2019年3月時点であったとされており、在庫の解消には2020年第2四半期までかかると思われる。
半導体設備投資は今度どうなるか?
設備投資についてだが、メモリは軒並み半年から9か月ほどの延期を継続中である。IHS MarkitとSamsungが行っている定期情報交換の場にてSamsungは「2019年下期の需給バランス次第ではもう一段の設備投資削減の可能性もある」との見方を示していたという。しかし、米中などでハイパースケール・データセンタが立ち上れば再削減は無い見込みである。一方のNANDは在庫の増加がやっと止まった段階で、在庫解消には1年程かかる見通しのため設備投資の削減が予想されるという。
現在、世界規模で半導体工場(非メモリ含む業界全体)の稼働率は落ちているが、それでも80%を下回るほどでは無いとみられ、今後も設備投資が大きく落ち込むことは無いとIHSではみている。とはいえ、2019年後半はスマホやデータセンタでの投資回復が進む見込みで、それに伴って稼働率も改善するが、それでも90%を超えるところまで回復することは見込めないとしており、2017年のような強い設備投資に対する意欲は見られない状態が続くとする。
注目されるそのほかの半導体業界動向
2019年の半導体市場規模はメモリの価格低下や米中貿易戦争の影響もあり大きく減少する見込みだが、その後は需要が回復するのに伴い回復するとIHSでは予測している。
データセンタ向け半導体消費は2010年には全体市場の5%程度だったが2020年には12%、2022年には16%という具合に増え、特にDRAMとNANDがこの伸びをけん引していくことになるという。
また、新たな動きとしては、アナログ、ディスクリート、オプトエレクトロニクス、センサなどの分野で、300mmウェハを用いて製造しようという取り組みが欧州で2018年後半から出始めている。独Infineon、独Boschは新たな300mm工場でそれぞれパワー半導体、センサを製造するほか、STMicroelectronicsも300mmでパワー半導体を製造する計画をもっている。
足元の中国の製造工場に対する自動化向け投資は急減速だが2019年後半からは減税とインフラ投資再開により一部が戻ってくる見通しのほか、40兆円の景気対策で一時的に景気が戻る可能性は高い。また、アジアへ移転される工場への投資が2020年から始まることも期待材料となるとする。
なお南川氏は最後に、米国のHuawei制裁に関するまとめとして、「同社の業績が依然として好調なため、米国の中国ハイテク企業攻撃はますます激化している。米国は、国家安全保安上の問題が懸念されるので、中国が世界一の経済大国、軍事大国になるのをできる限り食い止めようとしている。米国の攻撃は今後5年程度は継続される見通しである」と、米中経済摩擦が長期戦になることを覚悟する必要があるとの見方を示している。