2017年のディスプレイ業界の天気予報は快晴
図4 IHS Markitディスプレイ部門シニアディレクターのCharles Annis氏 |
IHS Markitディスプレイ部門シニアディレクター(技術・設備投資分野担当、京都駐在)のCharles Annis氏によると、2017年のディスプレイ業界全体の"天気予報"は快晴とのことで、領域別にみると、パネルメーカーの経営状態、製造装置市場、需給バランス、ファブ稼働率、小型有機EL市場はともに快晴、マクロ経済と生産能力増強は晴れ、在庫、大型有機EL市場は曇りという予報である。
「こんなに多くの領域が晴れという予報は、過去20年間この業界に身を置いている私にとって、ほとんど経験しないほどの素晴らしさである」と同氏が語るほどの手ごたえのようだ。
パネルメーカーが黒字転換
FPDのパネルメーカーは2016年前半、ことごとく赤字に陥ったが、その後のパネル価格の高騰により、シャープを除き第3四半期には黒字転換を果たしている。パネル業界全体で見ると、2016年第1四半期の営業利益率はマイナス9%だったものが、同第3四半期にはプラス7%へと回復している。ただし、ジャパンディスプレイはプラス0.6%、シャープ(ディスプレイ事業)はマイナス4%と日本勢はさえない結果となった。
設備投資額は、2年続けて史上最高値を更新する見通し
世界のFPD産業の設備装置額の推移を図5に示す。設備装置の総額は2016年に前年比倍増となり、2017/2018年においても、史上最高額を2年連続で更新する見通しだという。この背景には液晶パネルの大型化と有機EL(AMOLED)への移行による新規投資の増大が挙げられる。中でも中国の地方政府の資金援助による爆投資や、テレビ用パネル不足による大型パネル工場投資増大といった面が大きい。特に有機ELパネルへの投資は、2015年は8億ドルだったものが2016年には55億ドルに急拡大し、2017年にはさらに96億ドルへとさらに大きく伸びることが予測されており、2017年だけを見ると、有機ELへの投資額が液晶への投資額を上回る見通しとなっている。
図5 世界FPD産業の設備投資額(液晶/有機EL別)の2006~2020年推移(2017年以降は予測)。棒グラフ(左の縦軸)は設備投資額(単位:10億ドル)、折れ線グラフ(右の縦軸)は前年比増減率(%) (IHS Markitの発表資料をもとに筆者作成) |
同氏は、「FPD製造装置業界は少なくとも2018年までは好景気が続くものの、2017年を通してパネル価格上昇による需要の低下や在庫の増加を注意深く見ていく必要がある」と指摘。需要が期待ほど多くなければ、2016年後半は、天候が変化する可能性があるとしている。
有機EL製造装置はキヤノントッキが圧倒的シェアを確保
有機ELパネル製造装置で最も高価な真空蒸着装置(有機EL個体自発光材料をガラス基板に塗布する装置)は、キヤノントッキがシェア54%(2016年)、2017年は72%の見通しと圧倒的だ。FPD向け真空蒸着装置の雄であるアルバックのシェアは6%(2016年)で、2017年に成長が見込まれるが12%程度に留まる見通しである。真空蒸着装置はSamsungがほぼ独占する中小型有機ELパネルの量産を支える基幹装置となっているが、液晶製造装置に比べてはるかに高価であり、パネル大型化に伴って装置も巨大化している。
ゲームチェンジャーに破竹の勢いの中国勢はなれるのか?
図6 IHS Markit ChinaのプリンシパルアナリストであるRobin Wu氏 |
IHS Markit Chinaのプリンシパル・アナリストであるRobin Wu氏は、中国で続々誕生するディスプレイ製造ファブについて「現在量産稼働中の第5/5.5/6世代ファブは9棟、第8世代ファブは6棟あるが、それが2018年までには8棟に増える。さらに第10.5世代および第11世代を各1棟含む9ファブが建設中で、さらに4ファブが計画中である。2018年時点で第8世代の10ファブの生産能力の合計は月産123万枚で、韓国国内の生産能力を超える」と破竹の勢いの状況を報告したが、その結果として、2019年までには供給過剰に陥る可能性が高いと警鐘を鳴らす。
また、同氏は中国、日本、台湾それぞれの企業の戦略を比較した結果、韓国勢の戦略は、ハイエンド製品に焦点を当て、差別化でリーダーシップを維持するとしているのに対して、日本勢と台湾勢はニッチな市場に焦点を置く生き残り作戦をとっているように見えると指摘。さらに中国勢の作戦としては、一刻も早く市場先導集団に追いつき、生産能力を高めて成長し続け、市場に浸透するというものとし、この2~3年以内に、生産能力を急拡大させ、徐々にキープレーヤーへと成長し、ディスプレイ業界構造を根底から変えるゲームチェンジャーになろうとしているとの見解を示した。
次回は2月23日に掲載予定です。