中小型FPD市場は液晶が減少し、有機ELが伸びる
IHSテクノロジー・ディスプレイ部門中小FPD担当シニアディレクターである早瀬宏氏(図8)は、スマートフォン向けの中小型FPD市場について今年後半の見通しと長期的見通しに分けて詳細に分析した。
2016年の中小型FPD市場の見通しについて
同氏は、「世界的に普及した携帯電話市場において、2016年上半期のFPD出荷は需要の飽和感が強まると共に、iPhone向けLCD出荷が減速、下半期の挽回が期待されるとはいえ、2016年全体のFPD出荷数量は前年並みにとどまる可能性が高い」と説明するほか、「Samsungは主要機種にAMOLED(有機EL)を搭載し、中国スマホメーカーも上位機種にAMOLEDを採用し始め、さらにはiPhoneもAMOLEDを採用する可能性が高まる中、大幅な縮小に転じたa-Si TFT LCDと順調に出荷を伸ばすAMOLEDの違いがくっきりと表れている」と有機EL優位を強調した。
また、機能が競合するスマートフォンに需要を侵食されたモバイルPC、デジカメ、ゲーム機などに向けた中小型FPDの出荷も大きく縮少しており、車載モニターやスマートウォッチなど向けの出荷の伸びを相殺した上で、今年の中小型FPD出荷数量を前年比でマイナス成長に引き下げている。しかし、AMOLEDの伸長、および安定した成長の車載用LCDの出荷金額の伸びにより、中小型FPD市場全体の出荷金額はわずかながら昨年を上回る見込みであるとのことで、AMOLCDが今後の中小型FPD市場を独占する色合いが一段と強まっている。
中小型FPD市場は車載FPDがスマホに次ぐ有力アプリに
さらに同氏は、「将来的に自動運転をめざす自動車市場において各種センサの搭載率向上とともに、収集情報をモニタするディスプレイの需要は着実に維持されている。加えて、ミラーレスカ―の生産が始まり、さらなる需要の拡大が期待される。高精細化が進む車載モニタ用FPDは今後、中小型FPD市場の第2のけん引役として注目されるだろう」と自動車市場への期待を述べたほか、中小型FPD市場の中核となってきた携帯電話用FPDについて、フレキシブルなAMPLEDがiPhoneへの採用はじめ、今後の中小型FPD市場での成長の柱になるとした。
最後は、「低温poly-Si(LTPS)TFT LCDは、出荷数量では引き続き伸びが見込めるものの、付加価値の高いスマホ上位機種の需要がAMOLEDに向かうため、出荷金額では大きく下振れするであろう。このため、工場の閉鎖や縮小など供給能力削減に向けた動きが活発化している。一方、AMOLEDに対する投資熱は過剰感があり、加熱化するAMOLEDへの期待の先にどのようなアプリがあるのかよく見極め、中小型FPD市場の将来性の方向づける重要な局面に差し掛かっている」と述べ、話を結んだ。
4Kテレビ市場は順調に拡大
IHSテクノロジー・コンシュ―マエレクトロニクス部門シニアディレクターの鳥居寿一氏(図9)は、大型FPDが採用されているテレビ市場について、「2015年から引き続くドルに対する新興国通貨安が主因で、2016年のテレビ需要は停滞気味で、大きな変化は出ていない。2016年第1四半期の全世界出荷台数は4900万台で、五輪の年として強めの出荷となり以前の予測を上回ったものの、第2四半期は4800万台とフラットであり、第3四半期以降に調整が入るだろう」と説明した。
また、「このような状況の中で、為替の影響の少なく、マクロ経済が比較的良い中国と米国市場で上振れの可能性が有り、テレビセットメーカー各社は年末商戦に期待をかけている」とするほか、「2016年前半のパネル価格・セット価格の下落が後押しして、55型以上の大型化は今後も進む。特に、価格さえ下がれば、中国市場が米国を凌駕し、当面大型化の比率が上昇するだろう。また、4K テレビの全世界需要は、2015年に3200万台(実績)だったが、2016年には5500万台と予測され、テレビ全体の需要が停滞する中で4K需要は予測どおりに順調に拡大している。2016年は、欧米中心に本格的に4K化が進むので、年末商戦での4KテレビVの価格低下が見込まれる」と4Kの普及が進むことに言及した。
さらに、「日本では盛り上がりに欠けるが、海外では、4Kテレビと並んでネットからのコンテンツ配信が話題となっており、中国で新興ストリーミングテレビブランドが台頭する背景も同様である。新興ストリーミング・ブランドの登場で、中国市場ではネット経由での販売チャンネルコンテンツとテレビの抱き合わせ販売と言うビジネスモデルの変革が起きつつある。今後、ハードとしてのテレビは、どのサービスでどのコンテンツを見るかがより重要であり、大型・4K・スマートは当たり前となり、技術・仕様での差別化がますます難しい時代に入りつつある」と新たな潮流が起こりつつあることを強調した。
インタフェースの多様性で秘めた需要を掘り起こすモニタ市場
IHSテクノロジー・コンシューマエレクトロニクス部門デイレクターの氷室英利氏(図10)はモニタとパブリックディスプレイ市場について以下のように分析した。
まずは、デスクトップ・モニタだが、「モニタと言う製品の存在意義が、単純な"デスクトップPC用の大画面"からすでに脱却したことに注目したい。スマホや小型ノ―トPCなど、デスクトップPC以外のホストへの接続性をモニタが確保することで、画面の小さい端末単体では実現できない、大画面・高画質・高解像度など付加価値のある画面を享受できるようになることを、市場に継続的に訴求していくことが重要だ」と説明。「USBや無線などによる画像インタフェースの多様性が、さまざまな端末と大画面をつなげる機会を増すため需要が喚起されると予測している。これにより長期化していたモニタの買い替えサイクルが引き戻される可能性が出てきた。現状の技術トレンドは、モニタ市場規模の下げ止まり、ないしは中期的には反転拡大のポテンシャルを秘めている」と、多岐にわたる画像インタフェースによる市場拡大に期待を寄せた。
一方のパブリックディスプレイ市場については、「パブリックディスプレイ/デジタルサイネージ・ビジネスの拡大には、電力はもちろん、インターネットや通信のインフラの整備状況が大きく影響する。このため、先進国を中心に市場が広がるが、新興国でも大都市では導入のポテンシャルは高い。用途別では、店舗に設置するサイネージおよび公共の場に設置する情報表示が需要の大きな割合を占める」とするほか、「デジタルサイネージの認知度が上がるにつれて、ビジネス形態が、初期コストを吸収し継続的保守サービスを提供できる"ワンストップサービス"や"パッケージディール"に移行しつつある。Tier1ブランドやそのパートナーとなるシステムインテグレーター、プロAVディーラーがビジネスチャンスを得やすい環境になってきている」とし、ビジネス形態の変化を指摘した。