貿易摩擦の影響を受ける中小型FPD市場

IHS Markit 中小型FPD市場調査担当シニアディレクタである早瀬宏氏は、「Huaweiへの輸出規制、生産拠点の転換などの動きが世界規模で経済活動の縮小を招きつつあり、消費の低迷と需要の縮小が顕在化し始めた。その影響は携帯電話や自動車など生活の基盤となる消費財にも波及しており、搭載される中小型FPD市場にも需要の縮小として暗い影を落としている。特に顕著な影響が携帯電話市場に表れており、2019年の携帯電話用FPD出荷は前年比10%減と落ち込む見通しである。また、持続的かつ安定的に出荷数量を伸ばしてきた車載モニター用FPDにおいても、2019年の出荷数量は前年割れの見込みとなっている」と述べる。

同社の調べでは、世界の自動車出荷台数が2017年の8600万台から2018年に8500万台、2019年では8420万台(見通し)へと、2年連続で前年割れの見通しであるためである。安定した成長を見込んでいた自動車需要も貿易摩擦や中国経済の減速でこのところマイナス成長に転じている点が注目される。

  • IHS

    図7 世界の自動車出荷台数の過去の推移と将来予測 (出所:IHS Markit)

また同氏は、「携帯電話・車載市場ともに機能の向上に伴う画面サイズの大型化が進んでいるほか、携帯電話市場ではプレミアムモデルに続き中~上位モデルでもTFT LCDからリジッド有機EL(AMOLED)へ切り替える動きが顕著となっている。これらFPDの付加価値向上により2019年の中小型FPD市場の出荷金額は前年比1%減と小幅な減少に留まる見通しである」とも説明している。

中長期的に堅調な成長が期待される車載用FPD

さらに早瀬氏は、車載FPDの中長期的見通しについて「2019年は足踏み状態となったものの、車載用FPD市場は車1台当たりの搭載枚数の増加を含め、中長期的に堅調な成長を持続すると見られる。サイズでは10型以上、解像度ではXGA以上への大画面・高精細化が進むことで、引き続き付加価値向上へ向かうものと見込まれる。電子サイドミラーは需要拡大を期待していたが視認性やコストアップの課題が大きく、需要の伸びは下振れするとみている」と述べている。

このほか同氏は以下のような見解を述べている。

  • 携帯電話市場では米中の貿易摩擦や景気減速が急速に改善する可能性が低く、出荷数量の回復は見通しづらいものの、2020年モデルでフレキシブルAMOLEDの採用を拡大する可能性が高いiPhoneに追従する形で、中国スマートフォンメーカーがリジットからフレキシブルAMOLEDへの移行を進めると予想される事から、中長期的にフレキシブルAMOLEDが牽引する形で中小型FPDの出荷金額予想は上振れする結果となっている。
  • 米中貿易摩擦の影響を受けた経済環境の悪化は、中小型FPD市場を直撃する形で需要の低迷を導いているが、厳しい市況の中でも次世代のFPDとしてAMOLEDに対する期待は高い。反面、中小型FPD市場の中でもっとも大口のスマートフォン需要をAMOLEDに侵食される事で、TFT LCDの需要は今後縮小を余儀なくされようとしている。今後中小型FPDメーカー各社は、フレキシブルAMOLEDの競争力強化、あるいは車載市場でのTFT LCDの生き残りをかけ、一段と厳しいサバイバルの状況を迎えている。

大型パネルの大消費アプリであるTVが生き残る方法

大型パネルの最大の顧客であるテレビ業界動向について、IHS Markitコンシューマエレクトロニクス部門エグゼクティブディレクターの鳥居寿一氏は、「米中貿易戦争による関税問題への懸念から、2019年前半に中国のTVブランドを中心に米国向けの駆け込み出荷が過剰に進み、在庫が大幅に増えた結果、後半は在庫調整が入る見込みである。こうした動きもあり、年初より破壊的な価格下落が続いており、パネルメーカー各社ともにパネル価格の下落に巻き込まれるといった異例の年になる」と述べるほか、「55~65型4KスマートTVの価格が下がることで、TV(というハードウェア)は過渡期・限界点を迎えている。今後はスマートTVで動画配信サービスを視聴する、よりコンテンツを重視する時代を迎えるだろう。米国発でオンラインビデオ間の競争は激化する方向にある。レッドオーシャンのTV市場の中で、今後はブルーオーシャン的な要素を追い求めることが重要となる。そのためには市場規模がそれほど大きくないニッチな領域にも注目すべきである」と指摘した。

堅調なデスクトップおよび公共ディスプレイ

デスクトップおよび公共ディスプレイの動向については、IHS Markit コンシューマエレクトロニクス部門ディレクターの氷室英利氏が解説を行ったが、その内容をまとめたものを以下に示す。

  • 「大画面、高解像度、高画質」というモニターに対する需要は依然として存在する。特に大画面メリットは必然的にモニターでしか享受できない。足元では、ゲーミングモニターやウルトラワイド・カーブドモニターに代表される付加価値モデルの増加が続き、モニター需要の下支えとなっていくだろう。
  • 一体型PCは上位4社の寡占化進む。今後は「ローコストデスクトップ」から「ハイエンド志向、プロフェッショナルの作業用」へ移行するだろう。
  • 2020年1月のWindows7のサポート終了。これに伴い、2019年いっぱい(日本市場では消費税増税が実施される2019年第3四半期まで)OSアップグレードに合わせたPC(およびモニター)の駆け込み需要の行方に注目も、ほぼ大企業系はシステム移行がおおよそ完了した模様である。
  • デスクトップモニターの需要は継続している。先進国地域における高付加価値モデルの販売を中心に緩やかな出荷減が続く。
  • パブリックディスプレイ市場は、デジタルサイネージ用途を中心に、マルチデバイス対応となり大競争時代に入った。生き残りには、通常の設置保守サービスのみならず、顧客に合わせた包括的かつ柔軟なサービス体制や、ほかのサービスと連携しディスプレイを中心にしつつAIやセンサ、IoTを駆使した自動化された統合サービスの提供など、メーカーごとの付加価値、差別化をいかに推進していくかがカギとなる。
  • サイネージ&情報ディスプレイ市場は拡大している。用途は多様である。パネルの平均販売価格も下落が進んでおり、4K化の追い風になる。

なお、IHS MarkitはノートPCの出荷数量については前年比4.7%減の1億5600万台、タブレットについては同16%減の1億1800万台と予測している。いずれの市場も成熟しており、需要は飽和気味で2023年に至るまで2019年のレベルに達することはない見込みだという。

(次回は8月9日に掲載します)